ナンテンはとても強い植物で、知らない間にあちこちからでてくる。
さして広くないうちの庭(玄関先と居間の南側に少々)にも、ふと気づくとこんなところにという場所から生えてくる。
「難を転じる」という縁起担ぎもあり、また、生薬の原料でありそれ自身解毒作用があるということでそれなりに尊重してきたが、そのあまりにも旺盛な繁殖力に業を煮やして、ここ何年かは専守防衛の精神を発揮して、新たなものは排除やむなしという方針に転じた。
それでもいまなお、数箇所にそれなりのスペースを占めて陣取っている。それすらもわが庭のキャパシティからいったら過剰気味なのだが、それらを許容しているのにはある事情がある。
ご存知かもしれないが、一口にナンテンといってもその種類はいくつかに及ぶ。いま、うちにあるナンテンは4種類である。
そのうち2つは、ほとんど見分けがつかないが、秋に実を結ぶ頃になるとその違いが判然とする。一方は赤い実がなるのに対し、一方は白い実を結ぶ。いわゆる白ナンテンなのである。
もう一つは葉の形状が違う。写真でご覧になるように、歯が細くよじれている。いわゆる柳葉ナンテンというのだそうだ。
これが捨てがたいのは、もう25年ほど前他界した父が実家の坪庭で育てていたものを、そこを潰すと言うので貰い受けてきたものだからだ。他に亡父からは紅梅の鉢も引き継いだ。
もう一つは折鶴ナンテンという。あまり大きくはならないが、秋には真っ赤に紅葉する。
このナンテンは、今から30年ほど前、飲食店をやっていた折、常連だったヤクザのあんちゃんが正月前に2万円だと売りにきたのを断った寄せ植えの鉢の中にあったものである。
断ったのに何故うちにあるかというと、こんな事情による。正月明けの頃、そのあんちゃんがやってきて、「結局去年はノルマが果たせず、売れ残ったものを自己責任で引き取らされた。5千円にするから買ってくれないか」という。
見たところ、何種類かのものが楕円形の盆栽風の鉢に寄せ植えにされているもので、5千円ならそれ相当と思われるし、常連のあんちゃんが困っているのなら買ってやっても組の資金源にはなるまいと思ってそれを引き取ってやったのだ。
喜んでそれからもよくきてくれた。多少、それらしい雰囲気はあったものの、根は明るくて良い青年であった。ある時、妹を呼び寄せてクラブかなんかで働かせようと思うがどうだろうかという相談を受けた。私は、「無理して呼び寄せないで、田舎にそっとしておいてやれ。第一、あんたの商売ではいざというとき妹を守りきれんだろう」というと、「そうだなぁ」と素直に頷いていた。
やがて、全国区のヤクザが進出してきて、彼の所属する地元の組もしばらく抵抗していたが、圧倒的な資金力と軍事力の格差のもと、蹴散らされるようにして解散したようだ。
その間の抗争で、何人かの死傷者もでたようだが、彼の消息はよくわからない。
さて、その彼から買った真っ赤に紅葉するナンテンだが、その花は他のものに比べてやや遅咲きで、しかも薄紅色をしてとてもナンテンの花とは思えないほどたおやかで美しい。
この最後の写真だけ見せたら、それをナンテンと言い当てる人は少ないのではないだろうか。