先般の一日、結果としてよく歩いた。
私の生活はデタラメで、3日ほど家から一歩も出ないようなこともあり、そんな日の歩数は数百歩ぐらいだろう。
健康などに配慮し、歩くために歩くことはしない。ただし、どこかへ出た折に、ついでに少し遠回りしてみようかぐらいの気持ちはある。
しかし、最近それも少なくなったのは、かつての田園地帯がほとんど埋め立てられた建築ラッシュで、数年の間に周辺がすっかり新興住宅地に変貌してしまったせいもある。
愛岐県境の木曽川の河川敷はススキが占めていた
先般の話に戻ろう。午前から名古屋へ出た。
まずは旧知の出版社を尋ね、R編集長と面談。私の悪巧みについて告白。
その後、少し歩いたところにある店で昼食を共にする。R氏お勧めの中華料理店は、調理人から接客の女性まですべて中国系の人たちで、接客は少し訛りの入った日本語だが、従業員相互の話はすべて中国語。なんか面白い臨場感がある。
今日の昼定食から小籠包定食を選ぶ。小籠包に加える麺や飯が選択できる。中華は油のイメージが強いからと考え、あっさりしたものをと塩ラーメンを選ぶ。
やや小ぶりな塩ラーメンと、セイロで湯気が立つ小籠包が出てくる。どちらもうまい。店のスタッフの中国語がBGMとなって本場感を引き立たせる。
ここでR氏と別れて大須へ向かう。次の目的地は「栄」なのだが、最寄りの地下鉄の駅が「大須観音」だからだ。
地下鉄の駅にまっすぐ向かわず、大須観音の境内に寄り道する。大須は今池に次いでよく来る街だが、いつも東側(地下鉄上前津側)からで、最西部にある大須観音の境内まで来ることは少ない。
鳳凰堂のような両翼をもった本殿の朱色は折からの晴天で輝いている。名古屋の街なかの中心部にありながら、不思議と背後に高いビルなどがなく、あまり撮影の邪魔にもならない。
境内全体のBGMとして読経のテープが流されているが、晴天下の朱塗りの本堂にはさして荘厳な感じはない。外国からの観光客にエキゾチックな雰囲気を演出するサービスにはなるだろう。
大須観音前の何でも屋のような中古品店
大須観音駅から栄駅へ移動する。目的は愛知県美術館で開催されている「相国寺(しょうこくじ)展」を見るためである。相国寺といわれてもピンとこない方もいるだろうが、傘下に金閣・銀閣を擁するといったらその格や規模に頷かれることと思う。
栄のオアシス21 水色の天井は文字通り水がはられた底である
室町時代からの古刹だから寺院内の装飾などに優れた美術品があることは当然だが、それに加えて、近代になっての住職が献上されたりした美術品を流出させず、蒐集したことによってそれらがさらに保たれ、現在に至っているという。
会場に入った印象は、作品を保護するためかいくぶん落とされた照明のもとに、僧侶の肖像やその書などが並べられ、なんか抹香臭い展示だなぁと思ってしまった。
しかしやがて、「十八羅漢図」などの極彩色のものが現れるに従い、描かれた対象も多様になり、面白くなってくる。
展示全体は五章に区切らている。第二章には雪舟が登場。日頃図鑑などで目にする厳然とした筆致とはまた一味違う柔らかいタッチのものもある。
第三章の目玉は狩野探幽。飛鶴図や花鳥図衝立などが並ぶ。
第四章の中心は伊藤若冲。しかも一〇点以上が。これも図鑑などで見る極彩色のいくぶんエキゾチックな物は少ないが、圧巻は鹿苑寺(金閣寺)大書院障壁画全二六面が現実の部屋を再現するかのように展示されていることである。
若冲の襖絵の一部
第五章は相国寺の蒐集を中心としたもので、円山応挙の作品などがある。
これまで述べてきたように、この美術展の見どころは、雪舟、探幽、若冲、応挙など日本画の歴史的ビッグネームが複数の作品を擁して一堂に会している点である。その意味で、私のような深い鑑賞眼をもたないがそれなりに見てみたいというミーハーには好都合であった。
秋の落日は早い。見終わって外へ出るともう夕闇が迫っている。このまま名古屋で一杯引っかけて帰ろうかとも思ったが、帰宅してからのやや遅い夕食に間に合う時間だと思い、帰途についた。
JRの列車内で寝てしまい、もう少しで乗り過ごすところだったが、岐阜駅到着で本能的に目覚めて、辛くもセーフ。
いろいろ歩き回ったのと、美術展というのは距離の割に意外と疲れるので、そのせいだろう。帰宅して歩数計を見たら、12,500歩だった。
私にとっては例外的歩数で、疲れるはずだと思った。