モルバランがいつものように駆けてきた。
メルリッチェルが呼び止めて訊いた。
「今日はどこへ行ってきたの、また桜」
「桜も見たけどもっといいものを見つけた」
なんだかその顔は少しいたずらっぽく見えた。
「なに、そのいいものって」
「柳の上に雪が積もっていた」
「うそでしょう、風は冷たいけど、こんなに晴れてるんだもの、この辺では雪なんか降ってなかったはずよ」
「でもその柳は雪で真っ白だった」
と、モルバランは言い張った。
「その場所だけ」
「そう、その場所だけ」
「わかった、それって雪柳でしょう」
「そういうかもしれない」
「そうかもしれないじゃないわよ。小さな花が枝にびっしりついてまるで柳に雪のようだから雪柳っていうの」
メルリッチェルは教え諭すようにいった。
モルバランは平気だった。
「だから、柳に雪だっていったろう」
「確かにそういったけどさ・・・」
と、メルリッチェル。モルバランはさらにいう。
「俺はその花の名前を知らない。だから、柳に雪が積もったみたいだと感動する。しかし、その名前を知りつくしていて、『あ、雪柳だな』と思うだけでさしたる感動もなく通り過ぎる人もいる」
メルリッチェルは、攻守ところを変えたような結果にいささか驚きながらいった。
「で、あと何か見た」
「見たとも。こっちの方がすごい」
「どうすごいの」
「そうだな、やはり柳だけど、これはどう猛だ」
「どう猛な柳って、なんて名前なの」
「名前は知らない。でもたぶん虎柳ではないだろうか」
と、モルバランはそれを回想しながらいった。
「虎柳? 猫柳ってのは知ってるけど虎もあるのかしら」
と、メルリッチェルはいぶかしげに訊ねた。
「あるとも、あのどう猛さは猫ではない、まさしく虎だ」
メルリッチェルが今まで見た植物の様相などの思いを巡らしていると、モルバランが撮ってきた写真を見せていった。
「ほら、これが虎柳だ」
「アラ、ほんとに猛々しい感じね。でもこれって、猫柳の成長しきった花よ」
「だから、名前は知らないていったろう。でも、これはもはや虎だ」
「わかったわ、確かに虎みたいね」
と、メルリッチェルが歩み寄った。
これが猫の段階
「それじゃぁ、俺は行く」
と、モルバランが立ち上がった。
「どこへ行くの」
とメルリッチェル。
「気になることがある」
「なあに」
「この虎柳の下に、淵があって、そこに小魚たちがたむろしているのだが、今年は魚影が見えない」
「そうなの、心配ね」
メルリッチェルは小魚たちが川底の石に体をこすりつけるように反転し、キラリと光る様を思い描いていた。
「だから、もう一度いって確かめてくる」
そういうと、モルバランはまた駆けだした。
桜も一応撮ってきた
メルリッチェルが呼び止めて訊いた。
「今日はどこへ行ってきたの、また桜」
「桜も見たけどもっといいものを見つけた」
なんだかその顔は少しいたずらっぽく見えた。
「なに、そのいいものって」
「柳の上に雪が積もっていた」
「うそでしょう、風は冷たいけど、こんなに晴れてるんだもの、この辺では雪なんか降ってなかったはずよ」
「でもその柳は雪で真っ白だった」
と、モルバランは言い張った。
「その場所だけ」
「そう、その場所だけ」
「わかった、それって雪柳でしょう」
「そういうかもしれない」
「そうかもしれないじゃないわよ。小さな花が枝にびっしりついてまるで柳に雪のようだから雪柳っていうの」
メルリッチェルは教え諭すようにいった。
モルバランは平気だった。
「だから、柳に雪だっていったろう」
「確かにそういったけどさ・・・」
と、メルリッチェル。モルバランはさらにいう。
「俺はその花の名前を知らない。だから、柳に雪が積もったみたいだと感動する。しかし、その名前を知りつくしていて、『あ、雪柳だな』と思うだけでさしたる感動もなく通り過ぎる人もいる」
メルリッチェルは、攻守ところを変えたような結果にいささか驚きながらいった。
「で、あと何か見た」
「見たとも。こっちの方がすごい」
「どうすごいの」
「そうだな、やはり柳だけど、これはどう猛だ」
「どう猛な柳って、なんて名前なの」
「名前は知らない。でもたぶん虎柳ではないだろうか」
と、モルバランはそれを回想しながらいった。
「虎柳? 猫柳ってのは知ってるけど虎もあるのかしら」
と、メルリッチェルはいぶかしげに訊ねた。
「あるとも、あのどう猛さは猫ではない、まさしく虎だ」
メルリッチェルが今まで見た植物の様相などの思いを巡らしていると、モルバランが撮ってきた写真を見せていった。
「ほら、これが虎柳だ」
「アラ、ほんとに猛々しい感じね。でもこれって、猫柳の成長しきった花よ」
「だから、名前は知らないていったろう。でも、これはもはや虎だ」
「わかったわ、確かに虎みたいね」
と、メルリッチェルが歩み寄った。
これが猫の段階
「それじゃぁ、俺は行く」
と、モルバランが立ち上がった。
「どこへ行くの」
とメルリッチェル。
「気になることがある」
「なあに」
「この虎柳の下に、淵があって、そこに小魚たちがたむろしているのだが、今年は魚影が見えない」
「そうなの、心配ね」
メルリッチェルは小魚たちが川底の石に体をこすりつけるように反転し、キラリと光る様を思い描いていた。
「だから、もう一度いって確かめてくる」
そういうと、モルバランはまた駆けだした。
桜も一応撮ってきた