突然で恐縮です。私、レポーターの梨元 勝です。
皆さんとお別れしてからの初仕事ですが、まさにそれにふさわしいところへの突撃レポートです。
二百歳という人を先頭に、百歳以上というかそれに近いひとも含めて戸籍上は在籍しているのにその生死が不明な人たちが大勢いますね。そして、その数も半端じゃぁないようです。
皆さんは、それらのひとはとっくに亡くなっているに違いないとお思いでしょうね。
ところが違うんです。
そうしたひとたちだけが暮らしているワンダーランドがあることを、私、梨元が突き止めたのです。恐縮です。
といっても皆さんからは見えません。
そこはいわば第六次元にあって、不可視不可分な領域なのです。
そうですね、いわば神隠しにあったひとたちの行き着く場と言ったら分かりやすいでしょうか。
私がそれを突き止めたのも、皆さんとお別れした後なのです。
それでは早速、ここでのリーダー格、二百歳の男性にインタビューをしてみましょう。
「恐縮です。梨元です。二百歳になられたってほんとうでしょうか?」
「ほんとうだとも。ちゃんと娑婆には戸籍も残っとる」
「確か長崎県の壱岐市だとか・・・」
「長崎県だとか壱岐市なんてもんはあとから勝手にくっつけたもんじゃ。そんなもんがなくっても、壱岐は小さい島ながら、それ自身、壱岐国として立派な国だったのじゃ。もっともわしが生まれた頃は、平戸藩の支配下にあったがな」
「恐縮です。お生まれになった一八一〇年というのはどんな年でした?」
「どんな年って言われてもな、生まれたときはまだ小さかったからあまり覚えとらん」
「なるほど、恐縮です」
「ぼけとるわけじゃぁないぞ。同じ年に生まれた連中は覚えとる」
「へえ~、誰ですか?」
「まずは、国定忠治だな」
「ほほう、あの博徒の忠治ですか」
「そうとも、若い頃から暴れん坊で、<国定忠治は鬼より恐い、にっこり笑ってひとを斬る>なんていわれたもんだ。かと思うと情に厚いところもあって♪男心に男が惚れて、壱岐が(オッと変換間違いだ)意気がとけ合う赤城山♪なんて歌われたもんだな」
「あのう、あなたは壱岐にいたわけでしょう。それで忠治の方は上州で暴れていたのによくご存じですね」
「いいんだよ、見てきたような嘘は芸能レポーターの特技だろう?」
「恐縮です。では、他に同じ年のひとは・・・」
「そうだな、ドイツの作曲家、ロベルト・シューマンだな」
「ド、ド、ドイツの作曲家ですか?」
「なんか文句あるか?芸能レポートだろ」
「それにしてもちょっと飛躍しすぎでは・・・」
「いいかい、この六次元ってえのはそもそも飛躍の世界なの。国境なんて窮屈なもんもないから、日本もドイツも何でもありなんだよ。シューマンの曲はいいよ。どの曲にも彼特有の悲哀感というかメランコリーがあって・・・」
「分かりました。分かりました。恐縮です。で、同い年でなくともいいのですが、他にどんな人がいました?」
「葛飾北斎という変な画家がいて五十歳も上だったが、あいつは大物だったな。広重はそれより四十近く若かった。雷電為衛門っていう強~い相撲取りがいたが、四十三歳年上だからもう峠は越えていたな。野球賭博には関わっていなかったようだ。
あ、そうそう、遠山の金さんってひとはわしらより十七上だから兄貴分みたいなもんよ。このひとと渡辺崋山ってひとが同い年だって知ってたかい?」
「恐縮です。知りませんでした」
「それから、鼠小僧次郎吉っていう泥棒が江戸で暴れ回っていたらしいが、こいつの歳はよく分からない」
「ところでその頃の時代というのはいろいろと窮屈ではなかったでしょうか?」
「窮屈といえばどんな時代でも窮屈さ。あんただって、ジャニーズ系のスキャンダルにはあまり触れるなって圧力が結構あったそうじゃないか」
「恐縮です」
「まあ、それでも、それに憤慨して番組を降りたりしたそうだから、こっそり裏から内閣機密費のお裾分けをしてもらっていた自称政治評論家や政治記者よりもましだろうな」
「ますます恐縮です。ところで、この六次元での住み心地はいかがですか?」
「悪くはないね。朝は寝床でグーグーグーだし、学校も試験もないし・・・」
「それじゃぁ、まるでゲゲゲの鬼太郎じゃないですか」
「そりゃそうさ、あいつも六次元の出身だからな。あの歌の三番にあるだろう。♪おばけは死なない 病気も なんにもない♪って」
「あっ、だから二百歳まで生きることが出来たのですね」
「やっと気がついたかい。あんたもここでゆっくりしてったらどうだい」
「恐縮です」