先ごろの信州の旅、松本から少し北上した安曇野の大王わさび農場に立ち寄った。ここは北アルプスからの流れ、蓼川の清流をうまく使った植え付け面積日本一のわさび園である。
以前、夏に来た折は、黒い日よけ(日射しが強い時期はこれが必要らしい)がわさび畑の表面を覆っていて、緑の広がりを期待していた私を落胆させたのであるが、今回は覆いもとれて、緑のわさびの列が伸びやかに走っていた。
長さ一キロにも及ぶわさび畑も確かに見どころなのだが、ここにはもう一つの呼び物がある。
それは、黒澤明監督の晩年の作品『夢』の第八話(最終章)で、笠智衆がでてくる「水車のある村」のシーンのロケ地がここだからである。
あの映画に出てくる水車は未だ健在で回っている。ただし、映画ではたしか三連車で、今も三つの水車が回っているのだが、それを一挙にカメラに収めるには対岸に行かねばならず、そのルートが見つからないままひとつの水車のみを撮してきた。
ちょうど昼時だったので、レストランでご当地ならではの「わさび丼」を食べた。レストランには、アメリカ人観光客がかなりいたが、彼らも器用にわさびを自分で擦ってわさび丼を賞味していた。
売店で、一本700円のわさびを買い求めてきたので、いまも冷蔵庫の野菜室に入っている。とびきりうまいマグロの赤身などにつければ最高なのだが、それもままならず、一度、生キハダに付けたが、あとは奴豆腐などに使っている。
でも、香りがいいから、擦り下ろしたものに醤油をポチョンと落としただけで酒が飲めたりする。