4月ももう終わろうという晴天の日、ラストランの写真と動画を撮って欲しいという要請を受けて、愛知県は一宮市の郊外へと出かけた。
「ラ」ストランであって、レストランの打ち間違えではない。
また、ラストランといってもマラソンのそれではなく乗馬のラストランである。
子供の頃、疎開していた集落には馬や牛を飼っている家があり、彼らが農作業や荷駄を引くのは当たり前の光景で、したがって、それらをごく身近で見ていたものだ。
小学校の同級生の何某は、馬にいたずらを仕掛け、馬を怒らせ頭をがぶりとやられ、幸い大事には至らなかったが、その歯型が禿になって残った。
私の疎開した先の家には馬はいなかった(ただし、土間を挟んで居住部分の向こう側に馬小屋の跡が残っていた)が、家の近くを通った馬が糞をするたび、婆さんが「六、早うとっといで」というので、ちりとりと竹箒のちびたのを持ってそれをとってきた。どうするのかというと、畑にまいて肥料にするのだ。
飼い慣らされた馬はおとなしく、人懐っこい。
カメラを構えると、その鼻面をレンズに押し付けてくる。
今日のラストランをするひとが乗るのは、エスポワールという名の馬である。
おとなしく賢そうな顔をしている。
しかし、よく見ていると馬の眼というのはどことなく哀しげで、森の中の人知らぬ湖を覗くような気分にさせられる。そして、それを覗く者の罪を静かに問うているかのようなそんな眼差しでもある。
ラストランということで馬術競技用の正装で乗るらしい。
着替えたりする間、馬場や厩舎を見て回る。
こじんまりとはしているがよく手入れがされている。
近くにけっこう交通量の多い道路があるが、それを除けばのどかな郊外の風景が広がっている。
草の匂いが一面に広がっていて、つばめが肩口に触れ合うように飛び交う。もうすぐ、揚雲雀の季節がやってくると、頭上から賑やかなさえずりが降ってくることだろう。
ラストランが始まった。
馬の乗り方などはまったく分からないが、いろいろスピードや走法を変えて乗っているらしい。
それらを写真と動画に収める。
ひとしきり乗ってから、馬場を後にする。
さすがに幾分寂しそうだ。
この人が今後馬に乗るとしたら、なんかの拍子にビジターでここを訪れるか、あるいは、観光地などの牧場で乗るぐらいだろう。
去る人がいれば来る人もいるのだろうか。
帰り際、可愛い女の子が二人、馬を見に来て、「ほら、おじいさん、白いお馬だよ」と教えてくれた。
やがて、彼女たちにも素敵な白馬の王子が現れることだろう。
*これを書いている間、頭の中をある一つの歌がぐるぐる回っていた。
それについて書きたかったが、散漫になるのでやめておく。
また、機会を見て書こう。
「ラ」ストランであって、レストランの打ち間違えではない。
また、ラストランといってもマラソンのそれではなく乗馬のラストランである。
子供の頃、疎開していた集落には馬や牛を飼っている家があり、彼らが農作業や荷駄を引くのは当たり前の光景で、したがって、それらをごく身近で見ていたものだ。
小学校の同級生の何某は、馬にいたずらを仕掛け、馬を怒らせ頭をがぶりとやられ、幸い大事には至らなかったが、その歯型が禿になって残った。
私の疎開した先の家には馬はいなかった(ただし、土間を挟んで居住部分の向こう側に馬小屋の跡が残っていた)が、家の近くを通った馬が糞をするたび、婆さんが「六、早うとっといで」というので、ちりとりと竹箒のちびたのを持ってそれをとってきた。どうするのかというと、畑にまいて肥料にするのだ。
飼い慣らされた馬はおとなしく、人懐っこい。
カメラを構えると、その鼻面をレンズに押し付けてくる。
今日のラストランをするひとが乗るのは、エスポワールという名の馬である。
おとなしく賢そうな顔をしている。
しかし、よく見ていると馬の眼というのはどことなく哀しげで、森の中の人知らぬ湖を覗くような気分にさせられる。そして、それを覗く者の罪を静かに問うているかのようなそんな眼差しでもある。
ラストランということで馬術競技用の正装で乗るらしい。
着替えたりする間、馬場や厩舎を見て回る。
こじんまりとはしているがよく手入れがされている。
近くにけっこう交通量の多い道路があるが、それを除けばのどかな郊外の風景が広がっている。
草の匂いが一面に広がっていて、つばめが肩口に触れ合うように飛び交う。もうすぐ、揚雲雀の季節がやってくると、頭上から賑やかなさえずりが降ってくることだろう。
ラストランが始まった。
馬の乗り方などはまったく分からないが、いろいろスピードや走法を変えて乗っているらしい。
それらを写真と動画に収める。
ひとしきり乗ってから、馬場を後にする。
さすがに幾分寂しそうだ。
この人が今後馬に乗るとしたら、なんかの拍子にビジターでここを訪れるか、あるいは、観光地などの牧場で乗るぐらいだろう。
去る人がいれば来る人もいるのだろうか。
帰り際、可愛い女の子が二人、馬を見に来て、「ほら、おじいさん、白いお馬だよ」と教えてくれた。
やがて、彼女たちにも素敵な白馬の王子が現れることだろう。
*これを書いている間、頭の中をある一つの歌がぐるぐる回っていた。
それについて書きたかったが、散漫になるのでやめておく。
また、機会を見て書こう。