先般のことだ、体調がいささか優れぬところへもってきて、期限付きで書かねばならないものが書けないでイライラしている時にその電話はかかって来た。
旧財閥系の名前を頭にして、あとは横文字というややっこしい会社からだった。
「あのう、本日はオール電化のお話ですが・・・」という切り出しに、いつもなら「間に合っています」とか「あ、ちょうど息子がその関連の仕事をしていまして」とかいって切ってしまうのだが、冒頭に書いたようにその時は虫の居所が悪かった。
「あなたねえ、節電だの何だのいわれている折にオール電化はないでしょう」
という私の問に、彼は得たりや応と答えた。たぶんそこまではマニュアルに書いてあったのだろう。
「それがですね、当社の機器は省エネの最先端でして、現在の要求にぴったりなのですよ」
「なるほど、それはいいですね。ところで政府は原発を再稼働しない限り、計画停電もあるといっていますね。おたくのオール電化は停電中でも動くのですか」
「いや、それはですね、原発も再稼働して電力ももう足りていることですから」
「ほおう、じゃあ、おたくのシステムを採用するということは今後共原発に依存しその再稼働に賛成し続けなければならないわけですね」
そのへんまで来るともうマニュアルには書いてないらしくてしどろもどろだ。
「いやあ、そこまでは申し上げていません」
「でもそうなるでしょう。原発再稼働に賛成しないと計画停電だぞって政府がいってるんですよ。ところで、私は再稼働に反対です。したがっておたくのシステムを採用するわけにはまいりません」
と、そこで電話を切った。
相手は単なる雇われのオペレーター、そんなにいじめても大人気ないと少し反省はした。でもあっけらかんと、「もう電力は大丈夫ですよ原発がありますから」と明るい声で言われると「なんとおっしゃるウサギさん」といいたくなろうものである。
実はもう三年ほど前、出入りの業者からオール電化を勧められたことがある。
老化が進む私にとって、ガスの消し忘れなどはないだろうかと確かに不安はあった。しかしその折は調理用のコンロにIH方式を採用したのみで、鍋用のテーブルコンロ、風呂などにはガスを残した。
今回の原発事故で、それが正解であったと安堵している。
原発を再稼働しない限り、電力の供給はおぼつかないというのは多分に原子力ムラの恐喝ではある。しかし、それに屈しないためにも、止めるものなら止めてみろという構えは持っている必要があるだろう。
彼らの最も卑劣な恐喝は、例えば医療機関などでも電気が止まり、人命が失われるぞるぞというものである。しかし、考えてみればいい。多くの不必要な電力を制限すれば人命に関する停電などまったく不必要であるにもかかわらず、もし、それをすることなく本当に停電を強行するならば、殺人者はまさに原子力ムラの仕業という他はないのだ。
私のうちへ電話をかけてきたオール電化の勧誘会社は、頭に「◯菱」とつく会社で、考えてみれば、その頭目は原子力発電所の設備全般を請負い、原子力ムラの財界部門の代表的な企業であり、電話をかけてきたのはそれを筆頭とする一門の末端の会社なのだろう。