出張先の北京で少し時間ができたので、「SOKA ART CENTER」に、武漢(ウーハン)の現代美術を観に行った。国内移動の際に、中国東方航空の機内で読んだ「China Daily」に、紹介記事が載っていたのを破りとっておいたのだ。
城内の北、巨大なラマ教寺院の雍和宮(ようわきゅう)の近くにあるはずと思い歩いたが全く発見できない。そのうち孔子を祀った孔廟があったので拝観した。出たら夜、もう北京は寒い。薬局で道を尋ねたが誰も英語を喋れない。10元(170円くらい)で麺を食い、ギャラリーに直接電話した。英語を話せる女性が「タクシーをつかまえて運転手に電話をかわれ」というのでそうしたら、微妙に違う場所に降ろされた。座っている人に尋ねたら「カンボジア!」との答え。小奇麗なホテルがあったので尋ねると、胡同をひとつ間違えていた。結局、オフィスビルの1階にあったのだが、外からそれがわかるわけもなく、警備員に訊いてようやくたどり着いた。私は方向音痴だが、そうでない人でもまっすぐ行くことは不可能だろう。
入ったら30歳くらいの綺麗な女性が迎えてくれた。電話で話した、営業主管のApple Kengさんだった。ギャラリーは2箇所に分かれていて、Appleさんに横で丁寧に解説してもらった。それどころか80元(1,400円くらい)もする立派なカタログを頂いてしまった。
カタログにAppleさん自らが書いた文章によると、中国の現代美術界は「誰かの模倣」をすることが主流だが、武漢はアートの中心地でないだけに、模倣ではない個性が出てきているということだ。それが、このタイトルの「非・集体意志(UN-COLLECTIVISM」に反映されているのだろうか。アーティストは70年代生まれ以降の若い人たちばかりだった。
高虹(Gao Hong)は、出産を終えてまた武漢で創作している女性。グレーをバックに透明感のある肖像を描いている。時間とか内面を透徹する眼を持っているように見えて、少し怖い作品だった。
劉波(Liu Bo)と李鬱(Li Yu)のコンビは面白い。地方紙「楚天都市報」で報道されたヘンな記事を元に、実際にシミュレーション的にカリカチュアライズした再現を試み、それを写真に撮っている。例えばラマ教の信者が巡礼の旅の途中に間違って高速道路に入ってしまった話、村の建築便場で有毒ガスが発生し作業員がばたばた倒れた話、美容院にならず者が闖入して暴れたが二人の女性は悠然と座っていた話、など。森村泰昌や澤田知子など「なりきり写真」のアーティストはいるが、これはこれで違ったユーモアがあってしばらく眺めてしまった。
王晶(Wang Jing)の絵は、ペンティングナイフを多用して、具体的なイメージを茫漠と描き出すものみたいだ。動物の顔をした男4人がパンダに乗っかっている作品など、楽しくて味がある。
唐永祥(Tang Yongxiang)による、女性が水中やガラスの中に封じ込められている作品も良い。写真的に、リアルにイメージを可視化する方法は、武漢アートのひとつの流れになっているそうだ。
作品数は手ごろで、居心地の良いギャラリーである。雍和宮駅を使うより、開通したばかりの地下鉄5号線を使うほうが便利かもしれない。北京を訪れる方には、場所探しも含めておすすめする。
◎「SOKA ART CENTER」→リンク(作品の画像がいくつもある)
立派なカタログを頂いた
「China Daily」の記事
高虹の「緑野仙踪」(左)と「栄光的歳月」(右)
劉波/李鬱の「狗年十三個月」
王晶の「大取経No.16」
寒いので麺を食べた