Sightsong

自縄自縛日記

デボラ・B・ローズ『生命の大地 アボリジニ文化とエコロジー』

2009-12-01 22:10:56 | オーストラリア

デボラ・バード・ローズ『生命の大地 アボリジニ文化とエコロジー』(平凡社、2003年)は、豪州政府の依頼により書かれたものである。このことは、既にアボリジニを先住民としてさまざまな権利を認めている政府のスタンスをあらわしているようだ。なお、翻訳は、故・保苅実が行っている。

ここでは、オーストラリアを収奪し続けた西欧と、アボリジニとの世界観の違いが示されている。それを象徴することばが、アボリジニのいう「カントリー」だ。ローズ曰く、「カントリー」は、人間や社会と分離された「景観(landscape)」とは対照的に位置づけられる。「カントリー」は、逆に、人間と結びついており、生物も、水系も、気象も、相互に依存しあうようなものとして広く理解されているという。そして、「カントリー」におけるすべてのものは意味を持つ。

登場する人物や事象が、ユニットとして独立していない以上、過去の出来事を現在語る「ヒストリー」は、異なるものにならざるを得ないことは、そこから想像できるところだ。

そうなると、西欧の狭い意味での人間中心主義は相対化されなければならない。象徴するような言葉として、「増殖儀礼(increase rituals)」またはバード流に「維持儀礼(maintenance rituals)」という儀式がある。ある特定の生物種を再生・増殖するのに行われるものだ。

この儀礼は、歌や踊り、ボディペインティングなどのパフォーマンスによって行われるようだ。背景には、すべてをすべてのまま活かし、「カントリー」を大切にしようという考えがある。翻訳の故・保苅実は、こういったアボリジニの行動は、人間と自然環境が互いを維持して、エコロジカルなつながり(それも、オーストラリアのエコシステムに適合した形で)についての倫理を構成するものだと指摘している。

人間活動の介入が自然環境にどのような影響を与えるか評価することが「環境アセスメント」だとすれば、そもそも、それが孕む人間と自然環境との関係のバランスを欠いていることになる。「増殖儀礼」という考え方はとても重要な要素を含んでいるのではないか。

●参照
支配のためでない、パラレルな歴史観 保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』