北京で帰国日に少し時間があったので、「今日美術館」に足を運んだ。以前、『地球の歩き方』の出鱈目な地図のせいで辿りつけなかったところである。やはり地図はまともなものでなければ、街歩きはできない。
「今日美術館」の前庭には、岳敏君(ユエ・ミンジュン)によるオブジェが展示されている。価格高騰する中国アートの例としても挙げられる岳敏君、いかにも中国では珍しい民間の現代美術館を代表するような存在である。
ちょうど大型展の狭間にあって、小規模な呂順(ルー・シュン)の展覧会が開かれていた。シナプスに電気信号が走ってピキピキと反応している様子を思わせる霧深い空間の中に、蛙や豚が潜んでいる。単調ながら妙にグロテスクな存在が印象的である。会場の一室には、豚たちが最後の晩餐を行っているような彫刻もあった。
2階が入口で、1階と3階はお休み、4階にはビッグネーム・方力均(ファン・リジュン)の作品もあった。ただ、どうしてもバブリーなハコに負けている印象が強い場所である。隣のビルの地下では、多くのギャラリーを入れて芸術区にする構想があるようで、工事中だった。今後、郊外の798芸術区から中心地の座を奪うことができるだろうか。
次に、何度目かの「Red Gate Gallery」に行く。多くの作家の作品を展示していた。以前に観た、王利豊(ワン・リーフェン)や周吉榮(ツォウ・ジーロン)の作品が数点あって嬉しかった。ここにはいつも英語を話すフレンドリーなスタッフが誰かいて、今回もお茶をご馳走になった。どれが良かったかと訊くので、4階の蒋巍涛(ジャン・ウェイタオ)や?平(タン・ピン)が素晴らしかったと応えると、展示していない作品なども見せてくれた。それぞれ、過去の展示のカタログを入手した。
蒋巍涛(ジャン・ウェイタオ)はテキスタイルのような独特の模様の油彩で、表面はグロッシーだ。本人の書いたものを読むと、漢字や書のように中国オリジナルの世界を表現しているのだという。<中国>なのかはともかく、かなり魅力的な世界であることは確かだ。以前に798芸術区で観たときには、さほど面白みを感じなかったのだけれど。
?平(タン・ピン)は、微妙なマチエールを持つ単色の一角に、結んだ紐のようなものが配置された油彩を描いている。作品によっては斎藤義重のようでもあり、日本の<具体>のようでもあり、マーク・ロスコのようでもあり、ファンタスティックである。
それにしても、ハコモノである「今日美術館」よりこちらのほうが好感を持てる。
●中国アート
○王利豊(ワン・リーフェン)@北京Red Gate Gallery
○周吉榮(ツォウ・ジーロン)@北京Red Gate Gallery
○馮効草(フェン・ジンカオ)、舒陽(シュ・ヤン)、梁衛洲(リョウ・ウェイツォウ)、ロバート・ファン・デア・ヒルスト(Robert van der Hilst)、王子(ワン・ツィー)@北京798芸術区
○孫紅賓(サン・ホンビン)、任哲(レン・ツェ)、老孟(ラオ・メン)、亜牛(アニウ)、ルー・シャンニ、張連喜(ツァン・リャンシ)、蒋巍涛(ジャン・ウェイタオ)@北京798芸術区
○武漢アート@北京Soka Art Center
○解放―温普林中国前衛藝術档案之八〇年代@北京Soka Art Center
○袁侃(カン・ユアン)、孫驥(スン・ジ)、陸軍(ルー・ジュン)、蔣志(ジャン・ツィ)、クリス・レイニアー、クリストファー・テイラー@上海莫干山路・M50
○Attasit Pokpong、邱?賢(キュウ・シェンシャン)、鐡哥們、杜賽勁(ドゥ・サイジン)、仙庭宣之、高幹雄、田野(ティアン・イェ)、何欣(ヘ・シン)、郭昊(グォ・ハォ)@上海莫干山路・M50
○蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の「狂草」@上海莫干山路・M50
○蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の新作「气?/The Activity of Vitality」@上海莫干山路・M50
○燃えるワビサビ 「時光 - 蔡國強と資生堂」展@銀座資生堂ギャラリー