Sightsong

自縄自縛日記

『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』 これはもう宗教

2009-12-13 23:30:04 | アート・映画

子どもたちを連れて、バスで近くのシネコンへ『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』を観に行った。シネコンなんていつも空いているが、意外にも、ほぼ満員だった。もちろん半数は子どもである。このような場合、映画が始まると阿鼻叫喚の空間と化すので、却って気が楽だ。

ちょっと前、『大怪獣バトル』という、怪獣ゴモラを自由に操って他の怪獣と闘うウルトラ番外編のようなテレビ番組があった。息子が熱心に観ていた。昔の着ぐるみ再利用番組『ウルトラファイト』などよりは遥かにマシで、懐かしい怪獣が出てくるとつい見入ってしまうのだった。

映画の登場人物は、その『大怪獣バトル』のレイとゴモラ、米国製も含めたあまりにも多い新旧のウルトラマン、それから初登場のウルトラマンゼロというセブンの息子。ゼロの頭には、アイスラッガーが左右にふたつあり、結構ハイセンスである。

大きな特徴は、ヴァーチャルな世界としてのウルトラ神話。もう地球上での日常生活も、手作りの白兵戦も全く描かれない。神々の棲家であるM78星雲・光の国の成立神話とその危機、抽象的な悪との闘いが、これでもかと見せ付けられる。

テレビ本編を根幹として、番外編や裏話を子ども向け雑誌で展開し、ウルトラ兄弟を増やすことで世界を拡げていくメディア・ミックスの手法は、初代ウルトラマンの時代から積極的に使われてきた。しかしここにきて、手作りという鎖を断ち切り、CGによる物量作戦を用いることによって、ウルトラ神話はほとんど宗教的な色彩を帯びているような気さえ覚えるのだった。

もっとも、聖地巡礼ならば既にしている(その意味では信者か)。ウルトラ創世記に多くの傑作を生み出した金城哲夫が沖縄に帰った後、仕事場としていた部屋が、南風原町の料理屋・松風苑の敷地内に残されている。今年の夏、中を見せていただくことができた。鞍馬天狗や沖縄関連の本の他、安部公房の『箱男』なども書棚にあったのが印象的だった。


松風苑(2009年) Leica M4、Biogon 35mmF2、Rollei Retro400、イルフォードMG IV RC、2号

●参照
『大決戦!超ウルトラ8兄弟』
『怪獣と美術』 貴重な成田亨の作品
怪獣は反体制のシンボルだった


ジャッキー・マクリーンのブルージーな盤

2009-12-13 00:34:49 | アヴァンギャルド・ジャズ

また、リー・タマホリ『NEXT』(2007年)を観てしまった。誰に聞いても、ニコラス・ケイジって変な顔なのになんで人気があるんだろうな、と呟いている。ケイジ主演作だと観たくなる不思議。

ケイジ主演の次作は、なんとヴェルナー・ヘルツォーク『Bad Lieutenant : Port of Call New Orleans』だという。ヘルツォーク健在だったのか。

ジャッキー・マクリーンは変貌を続けた音楽家だが(オーネット・コールマンからの影響でアグレッシブになったりしたのが有名)、独特のせつないようなアルトサックスの声は一貫して変っていない。好きな盤は何枚もある。ベストは決め難いが、1950年代の若い頃のブルージーな演奏は捨てられない。

『Lights Out!』(Prestige、1956年)は、ドナルド・バード(トランペット)との2管のクインテット。最初の表題作はダグ・ワトキンスのベースソロに始まり、アート・テイラーがドラムスで合いの手を入れて、やがてエルモ・ホープ(渋い!)のピアノが入ってくる。そしておもむろに吹き始めるマクリーンのソロは、もろにスローブルーズであり、身悶えするくらい良い。

特にガーシュインの「A Foggy Day」の演奏が好きで、勢い良くスピーディーに進むのが小気味良い。何年か前に、スクールの発表会を江古田のライヴハウス「Buddy」でやったときに、これを吹いた。当然、マクリーンのように吹けるわけがないが、それは仕方がない。解説でアイラ・ギトラーは、ロンドンの霧を思わせるように終わる、などと嬉しくなるようなことを書いている。

『New Soil』(Blue Note、1959年)も全曲ブルージーであり、一番の愛聴盤かもしれない。やはりバードとの2管のクインテットだが、ウォルター・デイヴィスJr.(ピアノ)(これも渋い!)、ポール・チェンバース(エース)、ピート・ラロッカ(ドラムス)とメンバーが全く異なる。この盤に渋さを与えているのはデイヴィスJr.のピアノであり、勢いを与えているのはラロッカの尖がったドラムスではないかと思っているがどうか。

この盤が、同じ年に吹き込まれた『Swing, Swang, Swingin'』(Blue Note、1959)と全く雰囲気を異にしているのはなぜだろう。後者はワンホーン・カルテットであり、スタンダード曲を中心に吃驚するくらい真っ直ぐにアッケラカンと吹いているのだ。メンバーがまるで違うためか、スタンダード中心というコンセプトの違いか。マクリーンの青臭いサックスの音を聴くために、いつかアナログLPも入手したいと思っているのだが、まだ果たせていない。