ドキュメンタリー『人はなぜ歌い、人はなぜ奏でるのか/韓国の鼓動と踊る ~オーストラリア人ドラマーの旅』(エマ・フランズ)。以前にNHK BS hiで放送されたものだ。
オーストラリアのジャズ・ドラマーであるサイモン・バーカーは、ある日、キム・ソクチュル(金石出)の音楽を聴いて衝撃を受ける。彼は韓国のシャーマンであり、長い音楽の伝統を持っている。
この音楽を学ぶため、バーカーは韓国へと赴く。韓国では無形文化財に指定された音楽家だが、実際には誰に訊いても、キムのことを知るものはいない。やがてドンウォンという音楽家と出会い、キムが病気のためあまり演奏していないのだと聞かされる。バーカーとドンウォンは、キムに会えるかどうかわからないながら、他の音楽家たちと会いながら、キムのいる釜山へと旅をすることにする。
パンソリの歌い手、ペ・イルドンは、滝の音に負けないよう、山中に住んで7年。毎日、滝のそばに座って練習を続けている。音楽とは、希望と現実との間をつなぐものだと考えている。また、幼少時に神が降りてきて女性シャーマンとなった降神巫、チョン・ソンドク。巫女は息が続く限り歌うから、太鼓には最初しか定型のリズムがなく、即興性があるのだと説くパク・ビョンチョン。忘我の境地で太鼓を叩きまくる女性、ジン・ユリム。
出てくる音楽家達が、ことごとくもの凄い迫力を持っている。テクニックを習得することは大前提だと言ってはいるが、まさに息遣いと呼吸のリズム、武道にも通じるようなリラックスした動きから出てくる音は、人間的というよりも霊的に思われる。そして手拍子とともに大勢が高揚していく様子には興奮させられてしまう。
バーカーは、遂にキム・ソクチュルに会えることになる。彼の体調が悪いのは、姉が亡くなったせいであり、その悪影響を取り除く儀式を行うところに立ち会えることになった、のだった。他人向けではない儀式という、極めて珍しい場で、キムも太鼓を叩き、ダブルリードの笛を吹く。老いても迫力のある音を出す姿があった。そしてその3日後、キムは亡くなる。
録画して放ってあったのだが、キム・ソクチュルの貴重な映像であった。観てよかった。
●参照
○ユーラシアン・エコーズ、金石出