『富樫雅彦 スティーヴ・レイシー 高橋悠治』(水牛、2000年録音)という、素晴らしい顔合わせの録音が世に出ている。富樫雅彦、スティーヴ・レイシーともに、既に鬼籍に入っている。遠いので未だ足を運んだことのないホール・エッグ・ファームでの記録である。なぜこんな凄い音源が10年もお蔵入りだったのか。
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4回の演奏のうち、このトリオによるものは2回。あとは高橋悠治のピアノソロと、高橋と富樫のデュオだ。
ブルースのかけらもない、中心もなさそうな高橋の演奏は好きだが、実のところ何なのかよくわからない。富樫のパーカッションは、いつもながら、職人的に磨かれた音と響きである。そしてレイシー。ビブラートは全くなく平板、しかし微妙に、不穏に音色が変化する。レイシーの手癖に違いないインプロヴィゼーションのフレーズも、時折音量を下げたときに挿入される息が詰まるようなノイズも、最高である。
3人の匠たちの間合いを感じるためにも、このセッションを直に観ておきたかった。もう取り返しがつかない。全員、別々の機会に目の当たりにしたことはあるのだけれど。
レイシーの初期の盤に、『Soprano Sax』(Prestige、1957年)と『Reflections』(New Jazz、1958年)がある。有名な作品であり、借りて聴いたことはあったが、また手元に置きたいと思っていたら、2枚のお得なカップリングCDが出た。両方ともピアノトリオをバックにソプラノサックスを吹いており、前者はウィントン・ケリーのピアノ、後者はエルヴィン・ジョーンズのドラムスとマル・ウォルドロンのピアノも聴きどころだ。
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改めて、レイシーの音は(枯れる前ではあるが)既に独自の個性が染みついていることがよくわかる。それでも、吹かされたのか、『Soprano Sax』での「Alone Together」や「Easy to Love」といった小唄では、何だか居心地の悪さを感じてしまう。それが、セロニアス・モンク曲となると突然うきうきとしはじめるようで不思議だ。特に『Reflections』は全曲モンクであり、エルヴィンやマルの個性と相まって本当に素晴らしい。そうか、この2人も既にこの世の人ではない。
●参照
○『Point of Departure』のスティーヴ・レイシー特集
○レイシーは最後まで前衛だった
○中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』におけるレイシーの写真
○富樫雅彦が亡くなった
○姜泰煥・高橋悠治・田中泯
○姜泰煥・高橋悠治・田中泯(2)