いきなり下品に急降下するが、山上たつひこである。『がきデカ』は置いておいても、少年時代に買ってもらった傑作漫画集のようなものに、『喜劇新思想体系』の一篇が掲載されていて、余りのエグさに純粋な少年はやられてしまった。大人になってからその記憶が疼き、講談社文庫として復刊されたとき、つい買ってしまった。しかし、やはりエグいので手放してしまった。その後、コンビニで雑誌を立ち読みしていると、「こまわり君」が大人になって『中春こまわり君』という作品になっていた。コンビニで声を出して笑うわけにはいかず悶絶した。
そんなわけで、なかなかファンにはなれないものの、山上たつひこは気になる存在ではあったのだ。それで先日、仙台の古本屋「火星の庭」で、『アフリカの爆弾』(ペップコミック文庫、1976年)を見つけたときには思わず掴んでしまった。しかも200円。筒井康隆『腹立半分日記』か何かで、自作の漫画化ということで触れられていた記憶がある。
相変わらず、どうしようもなく下品である。表紙も最悪に汚い。子どもの手の届くところに置くわけにはいかない。しかし、高速で反復し(ここがポイント)、畳みかけてくるギャグの切れは凄まじい。
そういえばブックオフの105円コーナーに、と思い出して、山上たつひこが小説家・山上龍彦として出した短編集『兄弟! 尻が重い』(講談社文庫、1996年)を手に入れてきた。(つまりその後、一度はピリオドを打った漫画を再開して『中春こまわり君』を書いたわけである。)
これまで漫画化の余興かキワモノくらいにしか見ていなかったものだが、これが面白い。漫画の爆発的なギャグというよりは、一度沈ませてさまざまな人物の奇怪さを臆面なく見せつけてくるような印象がある。しかも、何とも言えないクライマックスで話を断ち切る凄みもある。漫画の原作として使った(使わされた?)こととはまったく別に、筒井康隆のスラップスティック全盛期の作品群に共通する作風でもある。やはり天才である。これらの小説群はどう評価されたのだろうか。