ベルギーの古い街ブリュージュから海に出たところに、オーステンデという街がある。まさに海に面したKAAPという小さいハコで、デイヴィッド・マレイのヨーロッパツアーのトリオを観た(2019/5/26)。ついでに海を眺めようと歩いていくとポールさんが居て、今年のあと2回の日本ツアーのことや最近のビザ問題について話をした。
David Murray (ts, bcl)
Ingebrigt Haker Flaten (b)
Paal Nilssen-Love (ds)
近年のマレイは衰えて味だけ残ったのかなと寂しくも思っていたのだが、いやそんなことはなかった。精悍で生命力に満ちているようにみえたから、本人の変化もあるかもしれない。あるいはポール・ニルセン・ラヴ、インゲブリグト・ホーケル・フラーテンというウルトラ実力者に突き上げられて、また目覚めたのかもしれない。
それにしてもマレイのテナーは唯一無二である。ちょっとピッチが外れた音、悠然とした大きなヴィブラート、独特のブルージーな節回し、過度のフラジオによる高音を中心に持ってくる豪放さ、ソウル曲でのちょっと引いた小唄的な余裕。バスクラも良い。撥音での表現も、ひとしきり吹いてもとに戻ってくるときの快感さ。どれを取ってもマレイである。
ニルセン・ラヴは、いつもの低めに据えたドラムセットに渾身の力で叩く。それはたんなるパワープレイではない。たとえばブラシも先っぽの柔軟性ではなく、根っこのしなりがサウンドになっている。この力ゆえの音の広がりが迫ってくる。
フラーテンの指のパワーも並外れているのだが、固く張られた弦がその力でたわんだり、引っぱって容赦なく離したりすることの快感がやはりある。うっかり手を出したら切断されそうだ。そしてまだ残る余裕があり、全体としてはデイヴ・ホランドを思わせる踊りのベース。この人はかなり「歌う」ソロを取るのだということが嬉しい発見だった。
マレイのオリジナル(「Acoustic Oct Funk」など)の他、なんと、ユセフ・ラティーフの「The Plum Blossom」(『The Eastern Sounds』に収録)や、ブッチ・モリスの曲も演った。ソウルの曲は何だったか。このメンバーでライヴ盤を録音してほしい。
Fuji X-E2、XF60mmF2.4
●デイヴィッド・マレイ
デイヴィッド・マレイ feat. ソール・ウィリアムズ『Blues for Memo』(2015年)
デイヴィッド・マレイ+ジェリ・アレン+テリ・リン・キャリントン『Perfection』(2015年)
デイヴィッド・マレイ・ビッグ・バンド featuring メイシー・グレイ@ブルーノート東京(2013年)
デイヴィッド・マレイ『Be My Monster Love』、『Rendezvous Suite』(2012、2009年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
ワールド・サキソフォン・カルテット『Yes We Can』(2009年)
デイヴィッド・マレイの映像『Saxophone Man』(2008、2010年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Edinburgh Jazz Festival』(2008年)
デイヴィッド・マレイの映像『Live in Berlin』(2007年)
マル・ウォルドロン最後の録音 デイヴィッド・マレイとのデュオ『Silence』(2001年)
デイヴィッド・マレイのグレイトフル・デッド集(1996年)
デイヴィッド・マレイの映像『Live at the Village Vanguard』(1996年)
ジョルジュ・アルヴァニタス+デイヴィッド・マレイ『Tea for Two』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『Special Quartet』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『The London Concert』(1978年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Lower Manhattan Ocean Club』(1977年)
●インゲブリグト・ホーケル・フラーテン
ロッテ・アンカー+パット・トーマス+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン+ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ『His Flight's at Ten』(2016年)
ジョー・マクフィー+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Bricktop』(2015年)
アイスピック『Amaranth』(2014年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Birds』(2007-08年)
スティーヴン・ガウチ(Basso Continuo)『Nidihiyasana』(2007年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)
●ポール・ニルセン・ラヴ
Arashi@稲毛Candy(2019年)
ボーンシェイカー『Fake Music』(2017年)
ペーター・ブロッツマン+スティーヴ・スウェル+ポール・ニルセン・ラヴ『Live in Copenhagen』(2016年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
ジョー・マクフィー+ポール・ニルセン・ラヴ@稲毛Candy(2013年)
ポール・ニルセン・ラヴ+ケン・ヴァンダーマーク@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Concert for Fukushima / Wels 2011』(2011年)
ジョー・マクフィーとポール・ニルセン-ラヴとのデュオ、『明日が今日来た』(2008年)
4 Corners『Alive in Lisbon』(2007年)
ピーター・ヤンソン+ヨナス・カルハマー+ポール・ニルセン・ラヴ『Live at Glenn Miller Cafe vol.1』(2001年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)