Sightsong

自縄自縛日記

デイヴィッド・マレイ+ポール・ニルセン・ラヴ+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン@オーステンデKAAP

2019-05-28 15:40:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

ベルギーの古い街ブリュージュから海に出たところに、オーステンデという街がある。まさに海に面したKAAPという小さいハコで、デイヴィッド・マレイのヨーロッパツアーのトリオを観た(2019/5/26)。ついでに海を眺めようと歩いていくとポールさんが居て、今年のあと2回の日本ツアーのことや最近のビザ問題について話をした。

David Murray (ts, bcl)
Ingebrigt Haker Flaten (b)
Paal Nilssen-Love (ds)

近年のマレイは衰えて味だけ残ったのかなと寂しくも思っていたのだが、いやそんなことはなかった。精悍で生命力に満ちているようにみえたから、本人の変化もあるかもしれない。あるいはポール・ニルセン・ラヴ、インゲブリグト・ホーケル・フラーテンというウルトラ実力者に突き上げられて、また目覚めたのかもしれない。

それにしてもマレイのテナーは唯一無二である。ちょっとピッチが外れた音、悠然とした大きなヴィブラート、独特のブルージーな節回し、過度のフラジオによる高音を中心に持ってくる豪放さ、ソウル曲でのちょっと引いた小唄的な余裕。バスクラも良い。撥音での表現も、ひとしきり吹いてもとに戻ってくるときの快感さ。どれを取ってもマレイである。

ニルセン・ラヴは、いつもの低めに据えたドラムセットに渾身の力で叩く。それはたんなるパワープレイではない。たとえばブラシも先っぽの柔軟性ではなく、根っこのしなりがサウンドになっている。この力ゆえの音の広がりが迫ってくる。

フラーテンの指のパワーも並外れているのだが、固く張られた弦がその力でたわんだり、引っぱって容赦なく離したりすることの快感がやはりある。うっかり手を出したら切断されそうだ。そしてまだ残る余裕があり、全体としてはデイヴ・ホランドを思わせる踊りのベース。この人はかなり「歌う」ソロを取るのだということが嬉しい発見だった。

マレイのオリジナル(「Acoustic Oct Funk」など)の他、なんと、ユセフ・ラティーフの「The Plum Blossom」(『The Eastern Sounds』に収録)や、ブッチ・モリスの曲も演った。ソウルの曲は何だったか。このメンバーでライヴ盤を録音してほしい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●デイヴィッド・マレイ
デイヴィッド・マレイ feat. ソール・ウィリアムズ『Blues for Memo』(2015年)
デイヴィッド・マレイ+ジェリ・アレン+テリ・リン・キャリントン『Perfection』(2015年)
デイヴィッド・マレイ・ビッグ・バンド featuring メイシー・グレイ@ブルーノート東京(2013年)
デイヴィッド・マレイ『Be My Monster Love』、『Rendezvous Suite』(2012、2009年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
ワールド・サキソフォン・カルテット『Yes We Can』(2009年)
デイヴィッド・マレイの映像『Saxophone Man』(2008、2010年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Edinburgh Jazz Festival』(2008年) 
デイヴィッド・マレイの映像『Live in Berlin』(2007年)
マル・ウォルドロン最後の録音 デイヴィッド・マレイとのデュオ『Silence』(2001年)
デイヴィッド・マレイのグレイトフル・デッド集(1996年)
デイヴィッド・マレイの映像『Live at the Village Vanguard』(1996年)
ジョルジュ・アルヴァニタス+デイヴィッド・マレイ『Tea for Two』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『Special Quartet』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『The London Concert』(1978年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Lower Manhattan Ocean Club』(1977年)

●インゲブリグト・ホーケル・フラーテン
ロッテ・アンカー+パット・トーマス+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン+ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ『His Flight's at Ten』(2016年)
ジョー・マクフィー+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Bricktop』(2015年)
アイスピック『Amaranth』(2014年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Birds』(2007-08年)
スティーヴン・ガウチ(Basso Continuo)『Nidihiyasana』(2007年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)

●ポール・ニルセン・ラヴ
Arashi@稲毛Candy(2019年)
ボーンシェイカー『Fake Music』(2017年)
ペーター・ブロッツマン+スティーヴ・スウェル+ポール・ニルセン・ラヴ『Live in Copenhagen』(2016年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
ジョー・マクフィー+ポール・ニルセン・ラヴ@稲毛Candy(2013年)
ポール・ニルセン・ラヴ+ケン・ヴァンダーマーク@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Concert for Fukushima / Wels 2011』
(2011年)
ジョー・マクフィーとポール・ニルセン-ラヴとのデュオ、『明日が今日来た』(2008年)
4 Corners『Alive in Lisbon』(2007年)
ピーター・ヤンソン+ヨナス・カルハマー+ポール・ニルセン・ラヴ『Live at Glenn Miller Cafe vol.1』(2001年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)


ICP+Waterlandse Harmonie@アムステルダムBimhuis

2019-05-28 14:13:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

アムステルダムのBimhuis(2019/5/25)。

20時に着いてみるとまだ日中みたいに明るい。Bimhuisは大きな運河に面したモダンな建物の2階にある。

目当てはミシャ・メンゲルベルク亡きあとのICP(Instant Composers Pool)。地元のオーケストラと共演する趣向で、総勢30人くらいがステージ上にぎっしり。トリスタン・ホンジンガー、メアリー・オリヴァーらICPのメンバーだけではなく、オケの面々も混ざって前面に出ている。指揮者はときおり出てきてすっくと立ち、指揮をするが、それ以外の時間は最前列に座っている(笑)。わたしも最前列に座ったらあまりのかぶりつきでちょっと驚いた。

ICP:
Tristan Honsinger (cello)
Ab Baars (sax, cl)
Michael Moore (sax, cl)
Thomas Heberer (cor)
Wolter Wierbos (tb)
Mary Oliver (viola)
Guus Janssen (p)
Ernst Glerum (b)
Han Bennink (ds)

Waterlandse Harmonie

この日は、ミシャと、やはり故人だがオランダで活動したサックスのショーン・バージン(Sean Bergin)(トリスタン・ホンジンガー『Sketches of Probability』なんかにも参加している)の曲が演奏された。

演奏前も和やかな雰囲気で、演奏者たちが登壇しながら「Hi there」と口々に挨拶する。それが皆に伝播していって「Hi there, hi there」とおもむろに音楽になっていった。生活から自由に音楽とつながる、いきなりの自由さである。ここからICP劇場が始まった。

アブ・バースのクラはときに刺すように尖り、ときにユーモラスによじれる(ミシャの「Who's Bridge」を演った!)。マイケル・ムーアのサックスは擦れて渋く、含みがある。メアリー・オリヴァーの悠然とボスのように振る舞うヴィオラ。ピアノのフース・ヤンセンは猫のように柔らかいミシャとはまた違い、端正でありながら奇妙な音楽に溶け込んでゆく。「ドレミファソファミレ」から段々と崩し、ずれを盛り上げに変えてゆくソロは見事だった。それにトリスタン・ホンジンガーがチェロを乗せた。トロンボーンのウォルター・ウィールボスは笑いも何もすべてを音色に込めていた(1997年のベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラの中野ZERO公演では、いきなりデジカメで客席を撮っていた)。

トリスタンのチェロの音色は、発せられるたびに、幽玄で心のどこかを触るようである。それだけでない。かれはいきなり立って、くるくる回ったりしゃがんだりして奇妙な指揮をした。歌いもした。そしてハン・ベニンクも健在で、さほどソロの機会はなかったものの、背後にあのエネルギーの塊が動いているだけで色が付くというものだ。アンコールでのブラシも、嬉しいハンのノリだった。

この過激な自由さ。多幸感が溢れていた。

(フリッカーが出てしまった)

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、XF35mmF1.4

●ICP
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)

●トリスタン・ホンジンガー
ジャスト・オフ『The House of Wasps』(2015年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2)(2010年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2007年)
トリスタン・ホンジンガー『From the Broken World』、『Sketches of Probability』(1991、96年)
セシル・テイラー『Corona』(1996年)
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
浅川マキ『Stranger's Touch』(1989年)
1988年、ベルリンのセシル・テイラー(1988年)

●ハン・ベニンク
ハン・ベニンク『Adelante』(2016年)
ハン・ベニンク@ディスクユニオン Jazz Tokyo(2014年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年)

ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(2006年)
ハン・ベニンク キヤノン50mm/f1.8(2002年)
ハン・ベニンク+ユージン・チャドボーン『21 Years Later』(2000年)
エリック・ドルフィーの映像『Last Date』(1991年)
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
レオ・キュイパーズ『Heavy Days Are Here Again』(1981年)
レオ・キュイパーズ『Corners』(1981年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981、91、98年)
アネット・ピーコック+ポール・ブレイ『Dual Unity』(1970年)
ウェス・モンゴメリーの1965年の映像(1965年)

●ミシャ・メンゲルベルグ
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』(2011年) 
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
カンパニー『Fictions』(1977年)