Sightsong

自縄自縛日記

坂本光太チューバリサイタル「暴力 / ノイズ / グロボカール」@北千住BUoY

2020-03-03 07:28:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

北千住のBUoY(2020/3/1)。チューバ奏者の坂本光太さんについては、昨年Ftarriで観た特殊奏法を交えた演奏から興味を持っていた。

このプログラムで演奏されたのはヴィンコ・グロボカールの作品である。

1970年代前半の短い曲は演奏技術や演奏方法そのものに注目したコンセプチュアルなものであり、最初に演奏者が視えないようカーテンで隠されていたのはそれを強調する意図があったのかもしれない。確かに坂本さんの姿が視えるまで、さまざまな音がソロなのか複数によるものかわからなかった。それらの特殊なノイズに鼓膜を預け、演奏行為を凝視していると、音そのものが突き離されるようなおもしろさがみえてきた。

休憩をはさんで、1時間のシアターピース「変わらない一日」。クルド人弾圧をもとにしており、前後に配布されたテキストなしでもその悲惨さは強調される。人間の顔がそれとして提示されるのがソプラノの根本真澄さんだけであり、彼女は途中で屍と化す。それが常に視界に入ってくることが効果的だった。そしてそのような特異点があっても世界は日常に支配され麻痺させられる。

BUoYという意図的な廃墟空間に、この特別な作品の体験を求めた人たちがマスクを着けてずらりと座り、終わったあとはふたたび明るい外部に出ていく。いまの日本にあっていつ非人間的に抹消されるかわかったものではない。おそらく参加者は、北千住の住宅街を歩きながら別の眼鏡をかけているのだった。

●坂本光太
山田光+坂本光太@Ftarri(2019年)


障子の穴 vol.4@ZIMAGINE

2020-03-03 00:48:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

南青山のZIMAGINE(2020/3/2)。

Midori Kurata 蔵田みどり (vo, recorder)
Kosetsu Imanishi 今西紅雪 (箏)
Masami Sakaide 坂出雅海 (b, ocarina)
Kazuto Shimizu 清水一登 (p, key, perc)

蔵田さんと紅雪さんが澄んだ鐘を鳴らし、清水さんがもうちょっとこっち側の世界のがちゃがちゃした金属音を鳴らすところから始まる「数ゑ歌」。鐘に続いて澄んで通る歌声の蔵田さんは響きを身にまとっている。とはいえアメノウズメの歌だというからそこにはどこかに笑いがある。

宮沢賢治の歌を清水さんがアレンジした「剣舞の歌」は囃し立てるよう。ベースのうねり、弦をつまむようにする紅雪さん、それだけでなく全員で気持ちのプラトーを創り上げる。

ここで清水さんが、モンクの「エピストロフィー」とウェーベルンの「ピアノのための変奏曲作品27」とをちょいちょいと弾き比べてミックスし、その高度な遊びのまま「乳房のボンジュール」に突入した。変なコードと変な歌詞(「私の靴を脱がせて/紅い唇を舐める」って何?)。官能とユーモアが波のように寄せたり引いたり。

続く「エチオピアハガーレ」ではさらに斜め上に悪ノリし、蔵田さんは照れくさそうに居直り「お前のメンタマ」と叫んだりする。いえーい、人間は正直がいちばんである。

セカンドセットは「サクヤコノ花」から。ピアノと箏が春のようだけれど、一方で曲が複雑に進んでゆき、それにもかかわらずしっとりとした良い曲。

「沙羅双樹」。紅雪さんは金属片を使って自律的に弦を鳴らさせ、坂出さんはスプーンを使って模索する。いつまでも音を試行する人たちなのである。スペイン風のコードを使った「A Word Is Dead」はまたさらに逸脱し、オカリナと口笛と細い棒。ここで坂出さんと清水さんがみせるグルーヴはさすがなのだった。

そして「ティラッタ」からアンコールの「タスマニアフロート」になだれ込み、蔵田さんのスキャットでサウンドと気持ちは浮揚しまくる。

落ち着いたり興奮したりして、実は演っている当人たちが愉しみたくてうずうずし続けているようなグループ。そんなわけでずっとどこかのシナプスに妙な信号が到来してきておもしろい。この先もシリーズとして続くみたいだし、聴きにいったほうがいいですよ。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●蔵田みどり
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)

●今西紅雪
トム・ブランカート+ルイーズ・ジェンセン+今西紅雪+田中悠美子@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
今西紅雪+S.スワーミナータン@葛西レカ(2019年)
August Moon@浜町August Moon Cafe(2019年)
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)
今西紅雪「SOUND QUEST 2019 〜谺スル家〜」@千住仲町の家(2019年)
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
ピーター・エヴァンス@Jazz Art せんがわ2018(JazzTokyo)(2018年) 

●坂出雅海
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)
クリス・ピッツィオコス+ヒカシュー+沖至@JAZZ ARTせんがわ(JazzTokyo)(2017年)
ヒカシュー@Star Pine's Cafe(2017年)

●清水一登
長沢哲+清水一登+向島ゆり子@入谷なってるハウス(2019年)
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)
クリス・ピッツィオコス+ヒカシュー+沖至@JAZZ ARTせんがわ(JazzTokyo)(2017年)
ヒカシュー@Star Pine's Cafe(2017年)