クロード・ランズマン『ショアー』(1985年)を観る。566分、DVD 4枚の長尺ドキュメンタリーである。
絶滅・強制収容所において死を免れたユダヤ人、旧ナチの官吏・軍人、収容所のあったポーランド市民などから、延々と、当時の記憶を引き出したドキュメンタリーだ。まさに命と共に口を封じられた者が多いにも関わらず、複層的な声によって、史上稀にみる虐殺のオーラルヒストリーを形作っている。
この厚みは文字通り圧倒的だ。細かな点のみを突いてホロコーストを否定する歴史修正主義的な言説など、この声の前ではまったく力を持たない。このことは、沖縄や中国における旧日本軍の犯罪をかき消そうとする言説にも当てはまるだろう。
アウシュビッツやトレブリンカなどにおけるユダヤ人殺戮は、凄まじいものだった。ガス室だけではない。裸にして焼却炉で燃やす、排ガスを直結した荷台にぎっしりと立たせて運転中に殺す、首を撃つなど、残虐の限りを尽くした。下手人は、ユダヤ人を消すという「final solution」を実行に移したナチSSだけではなく、ポーランド人やウクライナ人、さらには同胞のユダヤ人なども含まれた。
やがて、収容所の中ではレジスタンス運動も生まれたが、戦況の悪化に伴い、収容所に送られるユダヤ人が激減し、叛乱ならず終わっている。何しろ、もっとも多い時期には、毎日次々に列車とトラックで運ばれ、その人々をとにかく殺していたという。
旧ナチの取材は、名前と顔を出さないという前提にも関わらず隠しカメラで撮ったり、また、自分は「final solution」など知らされていなかったと弁解するゲットー責任者を直接批判し続けるなど、熾烈を極める。ポーランドの傍観者を含め、限られた戦争犯罪者のみに責任を負わせることを許さない。
撮る者と撮られる者の強度に圧倒され、結局、1日で9時間以上を観てしまった。なお、DVDは韓国版が廉価に入手できる(英語字幕あり)。
●参照
○アラン・レネ『夜と霧』
○マーク・ハーマン『縞模様のパジャマの少年』
○プリーモ・レーヴィ『休戦』
○フランチェスコ・ロージ『遥かなる帰郷』
○クリスチャン・ボルタンスキー「MONUMENTA 2010 / Personnes」
○ジョナス・メカス(3) 『I Had Nowhere to Go』その1(『メカスの難民日記』)
○徐京植『ディアスポラ紀行』(レーヴィに言及)