フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』(新潮文庫、原著1973年)を読む。
何しろ長く、脈絡なくハチャメチャな法螺話が詰め込まれているので、読み通すのに時間がかかった。
ここにどかんと展開されるものは、アメリカ大リーグとは別にかつて存在したという「愛国リーグ」、その中でもひときわ弱く、シーズンの最初から50ゲーム差(笑)も付けられるようなマンディーズというチームについての、ウソの歴史である。語り手=騙り手は、クーパーズタウンの野球殿堂でも、誰の記憶とも重ならない知識を披露し、嘲笑される始末。それでも饒舌は延々と続く。ときどき、唐突にわけのわからぬ輩が登場してきて発作的な引き攣り笑いに襲われてしまう。
おそらく日米の野球文化の違いはこんなところにあらわれている。ゲームを直接楽しむ者=野球選手については変わらないのだとしても。かたや求道的、精神主義。かたや、何かおかしなことをやり、話し、笑い飛ばす者たちの集合体。読売ジャイアンツの選手たちの間で『海賊とよばれた男』が流行したことがあったそうだが、そんなもんよりこれを読んではどうか、坂本選手。
原題は『偉大なるアメリカ小説』。つまり騙りの対象はアメリカ小説でもあり、この面でもやたら可笑しい。ヘミングウェイをただの下半身の人にしてはダメでしょう、と眉をひそめてはならない。
●村上柴田翻訳堂
ウィリアム・サローヤン『僕の名はアラム』(1940年)
カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』(1946年)
コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』(1976年)