ヘンリー・スレッギル『Old Locks and Irregular Verbs』(Pi Recordings、2015年)を聴く。
Henry Threadgill (composition)
Jason Moran (p)
David Virelles (p)
Roman Filiu (as)
Curtis MacDonald (as)
Christopher Hoffman (cello)
Jose Devilla (tuba)
Craig Weinrib (ds)
新グループ「Ensemble Double Up」ではこれまでとは違って、スレッギルは作曲に専念している(クルト・ヴァイル曲集『Lost in the Stars』において1曲だけ参加した「The Great Wall」でも同じような形ではあったけれど、とにかくこれはフルアルバムなのだ)。ブッチ・モリスの「Conduction」に捧げられたものであり(たとえば『Possible Universe / Conduction 192』)、モリスの発展が今後のスレッギルの方向ということかもしれない。
かれのアルトを聴けないのは残念だが、ジャック・デジョネット『Made in Chicago』(2013年)やワダダ・レオ・スミス『The Great Lakes Suites』(2014年)などの最近の吹き込みにおいて、かつての時空間を切り裂くパワーが衰えていることは事実であり、作品を出してくれるだけで歓迎である。
編成は近年の「Zooid」からずいぶん変化している。チェロのクリストファー・ホフマンとチェロのホセ・デヴィラは継続だが、何しろアルトがふたり、ピアノがふたり。他のアルト奏者を入れることも寂しいような気がするが、それは置いておいても、ピアノを入れるのはあまりなかったのではないか。マイラ・メルフォードやアミナ・クローディン・マイヤーズの名前を思い出すくらいである。
そんなわけで不安と期待を感じつつ聴いてみたところ、紛れもなくスレッギルの音楽である。これまで通りチューバやチェロを入れたアレンジはスレッギル得意のものだっだが、ピアノもアルトもスレッギルの雰囲気を再構築する。演奏のフォーカスは、ピアノに、チェロに、チューバに、アルトにと自在にシフトしていく。ただ、ピアノとアルトとに依存する分、これまでの低音アンサンブルの異常なる緊密性がさほどでもないような印象がある。ということは、今後のこのグループでの発展が楽しみだということでもある。
●参照
ヘンリー・スレッギル(1)
ヘンリー・スレッギル(2)
ヘンリー・スレッギル(3) デビュー、エイブラムス
ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと
ヘンリー・スレッギル(5) サーカス音楽の躁と鬱
ヘンリー・スレッギル(6) 純化の行き止まり?
ヘンリー・スレッギル(7) ズォイドの新作と、X-75
ヘンリー・スレッギル(8) ラップ/ヴォイス
ヘンリー・スレッギル(9) 1978年のエアー
ヘンリー・スレッギル(10) メイク・ア・ムーヴ
ヘンリー・スレッギル(11) PI RECORDINGSのズォイド
ワダダ・レオ・スミス『The Great Lakes Suites』
ジャック・デジョネット『Made in Chicago』