田村隆一『自伝からはじまる70章 大切なことはすべて酒場から学んだ』(詩の森文庫、2005年)を読む。
1992年から、1998年に亡くなる直前まで連載された短いエッセイをまとめたものである。
古本屋で見つけ、気分転換にと読み始めた本だが、なんと、歌舞伎町のジャズ喫茶ナルシスのことが何度も書かれている。もっとも、ナルシスの壁には、「いまは/どこにも/住んでいないの/隆一」と記された色紙が飾ってあり(川島ママによると田村氏が風呂敷に包んでもってきたのだという)、常連だったことは知っているから、不思議ではない。
何でも、1940年あたりに現在の新宿二丁目に店があったころから、「洋風居酒屋」ナルシスに入りびたっていたという。そして、エッセイには、先代ママ(故人)もときどき登場する。しかも、娘さん(現ママ)、孫娘さんを伴って。詩人が亡くなったのは1998年、先代ママが亡くなったのは2001年だというから、まだまだ健在だったわけだ。
ナルシスのマッチのイラストは、辻潤と伊藤野枝の息子・辻まことの手による。これがなぜなのか。酔っ払い詩人は、山本夏彦『夢想庵物語』を読んでいたらナルシスのことが出てきたといって、辻まことと、結婚相手のイヴォンヌと、ナルシスのことを解説するのだが、何だかよくわからない。
今度ナルシスに行ったら、川島ママにいろいろ訊いてみよう。
辻まことのマッチ
●参照
○バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス
○堀田善衛『若き日の詩人たちの肖像』(かつてのナルシスが舞台であり、田村隆一が「冬の皇帝」のモデルとなっている)
○新宿という街 「どん底」と「ナルシス」
○歌舞伎町の「ナルシス」、「いまはどこにも住んでいないの」
田村隆一も辻まことも好きで、よく読んでいました。田村隆一が材木座に住んでいた頃、ボクは大船に住んでいたので、出会わないかなあ、と小町で呑んでいた頃が懐かしいです。
久々に彼らの本を読もうかと思いました。