Sightsong

自縄自縛日記

ベルギー王立美術館のマグリットとブリューゲル

2018-02-12 10:46:06 | ヨーロッパ

ブリュッセルで空いた時間に、ベルギー王立美術館を覗いた。入館の際のチェックは厳重で、わりと時間がかかる。

ちょうどルネ・マグリットの特別展をやっていた。ブリュッセルにはマグリットが住んでいた家があって、2004年に観に行った。暖炉の上から列車が出てくる絵などはその家で描かれていて、中では暖炉と絵とを観ることができる。しかし、こちらの王立美術館に入るのははじめてだ。

中学生の頃から大好きな画家でもあり、もはやサプライズはないのだけれど、「光の帝国」2種類などの作品を観ることは嬉しい。

ところで、入口に、マグリットとマルセル・ブロータスが自動車に乗っている人形が展示されていた(ヨラ・ミナッチーというアーティストによる)。手にはマラルメの写真。後ろの座席にいる女性がカメラを持っており、それはおそらくニコマート(海外版ならNikkormatか)。ちょっと時代考証が甘いぜと思い調べてみると、ニコマートFTの発売は1965年、マグリットの没年は1967年、ブロータスの没年は1976年。おかしくはない。

 

それよりも(文字通り)度肝を抜かれたのはブリューゲル父子の作品群である。

「ベツレヘムの戸籍調査」は父子両方の作品が並べられており、比べると愉しい。偉大さでいえばオリジネイターの父なのだろうけれど、子の筆も仔細でまがまがしく、ポップでもあり、どれだけ凝視してもキリがないほど面白くドキドキする。

「謝肉祭と四旬節の喧嘩」は子の作品が展示されている(父の作品はウィーンにあるようだ)。なんなんだ、この奇怪な人たちは。おそるべしヨーロッパ中世。以下参照。

ああ、そういえば上野での展示も観に行かないと。


ベルリンのキーファーとボイス

2018-02-11 13:09:31 | ヨーロッパ

ベルリンでは夜以外に空き時間なんて無かったのだけど、移動日の朝に、ハンブルガー中央駅(という名前の駅を改造した美術館)を覗いた。

ちょうど「彫刻は彫刻は彫刻」と「マルクス・コレクション」の展示をやっていた。中でも目当てはやはりドイツでもあり、アンゼルム・キーファーとヨーゼフ・ボイス。このふたりはデュッセルドルフでともに学んだ仲である。

キーファーはナチ時代の弾圧と戦後の忘却に抗した作品を作り続けている。「Leviathan」は1939年に実施された統計調査を意識しており、文書が描き込まれている。それはホロコーストを行うための資料にもなったものだった。

また「Lilith at the Red Sea」は、アダムの最初の妻リリスが平等を求めて罰せられ、紅海へと移り住み、魔と化した神話をもとにしている。これと古着が貼り付けられていることとの関連は壁の解説を読んでもはっきりわからなかったのだが、放逐された者を古着で表現することは、やはりホロコーストを意識したクリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーション「MONUMENTA 2010 / Personnes」にも共通しており、記憶の強い掘り起こし力を持つもののように思えた。

ヨーゼフ・ボイスのインスタレーションは贅沢な広いスペースを利用していくつも展示されていた。「Dau Kapital Raum 1970-1977」ではピアノと環境との共存がずいぶんラディカルな形で表現されている。また「Tallow」は羊や牛の大量の脂肪を溶かし押し固めたものであり、アクションを想像することとともに観るべき作品だった。

いまとなっては素朴かもしれないのだが、ボイスの精神はまだまだ過激なものとして伝わってくる。

ところで、ひとしきり観終わったあとに併設のカフェレストランに入り、サンドイッチを注文したところ、想像とは大きくかけ離れたものが出てきた。うまかったのだが、とても食べにくく、ぼろぼろとこぼしてしまった。

●参照
チェルシーのギャラリー村
クリスチャン・ボルタンスキー「MONUMENTA 2010 / Personnes」


ブライアン・アレン+広瀬淳二+ダレン・ムーア@Ftarri

2018-02-11 01:11:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarri(2018/2/10)。

Brian Allen (tb)
Junji Hirose 広瀬淳二 (ts)
Darren Moore (ds)

なんとフタリに、アレン氏がむかしピアノを教えていたという小さな女の子がふたり。演奏中ずっとまじまじと観て、スマホで写真を撮ったりして、ほのぼのとしたインプロの場。こういうのももちろん悪くない。

ファーストセットはブライアン・アレンのソロ。かれは地べたに座り、周囲に並べた玩具とトロンボーンによって飄々と楽しい音を出した。こうなるとトロンボーンのユーモラスな感じが活きてくる。

セカンドセットはトリオ。やはりダレンさんはスティックや針や発泡スチロールの摩擦によって浮遊の場を提示し、その中でパルスを発する。広瀬さんも最初は擦れ音で攻めていたのだが、ヒートアップしたときのテナーの何層もの重なり音に耳を持っていかれる。そのようにテナーの管が鳴るときに、アレンさんのトロンボーンとともにぶるんぶるんと共鳴し、さすがの時間を創り上げた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●広瀬淳二
ロジャー・ターナー+広瀬淳二+内橋和久@公園通りクラシックス(2017年)
クリス・ピッツィオコス+吉田達也+広瀬淳二+JOJO広重+スガダイロー@秋葉原GOODMAN(2017年)
広瀬淳二+今井和雄@なってるハウス(2017年)
広瀬淳二+中村としまる+ダレン・ムーア@Ftarri(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
広瀬淳二『SSI-5』(2014年)
広瀬淳二+大沼志朗@七針(2012年)
広瀬淳二『the elements』(2009-10年)

●ダレン・ムーア
池田陽子+山㟁直人+ダレン・ムーア、安藤暁彦@Ftarri(2018年)
サイモン・ナバトフ@新宿ピットイン(2017年)
広瀬淳二+中村としまる+ダレン・ムーア@Ftarri(2017年)
Kiyasu Orchestra Concert@阿佐ヶ谷天(2017年)


ビニー+スミス+マーセル+ブランチャード@Archiduc

2018-02-06 14:53:14 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブリュッセル。Archiducに足を運んだ(2018/2/4)。

David Binney (as)
Abel Marcel Calderon Arias (p)
Patrice Blanchard (b)
Greg Smith (ds)

デイヴィッド・ビニーを観るのは、昨年2017年9月のNY以来である。そのビニーが、欧州を拠点とする3人のミュージシャンと共演する形。とは言え、みんな出自は別々の場所である。ドラムスのグレッグ・スミスはカナダ出身でいまはロッテルダムが拠点。それゆえかヨアヒム・バーデンホルストとも共演している。ピアノのアベル・マーセル・カルデロン・アリアスはキューバ出身でいまはアムステルダムとロッテルダムが拠点。最近はデイヴィッド・マレイのバンドメンバーだったとのことである。ベースのパトリス・ブランチャードはマルティニーク(行政区域でいえば欧州なのだが)、やはり最近欧州本土に拠点を移している。

ハコは小さく、真ん中に2本の柱があり、2階席がぐるっと作られた、変わった形。そのためわたしにはスミスとブランチャードの演奏の様子がまったく視野に入らなかった。そしてやはり鷹揚で、女性スタッフも奇声をあげて楽しみまくっているし、出入りも管理しているものの適当、扉が適当に開くたびに寒くて誰かが適当に閉める。このくらいが良いのだ。

ビニーは樹脂のようにぬめぬめとしたマチエールの音色でアルトを吹き、エフェクターも少しかける。これ見よがしに前に出てくるプレイヤーでないのだが、こうしたシンプルな形であれば音の凄みがとても伝わってくる。フレーズはM-BASEからの系譜上にありそうなもので硬派、しかしときに「Straight, No Chaser」を引用するなど柔軟でもあった。周囲の観客もかなり圧倒されていたように見えた。

そしてブランチャードのファンクな感じのベースも、敢えて割れる音で激しくアタックするスミスもそれぞれに良かったのだが、鮮やかなプレイに驚かされたのはマーセルのピアノである。微妙に時間をずらして和音を出し、そのずれがサウンドの拡がりを創り出していた。ちょっとフォーク的でもあり、70年代のキース・ジャレットも想起させるものだった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●デイヴィッド・ビニー
デイヴィッド・ビニーと仲間たち@Nublu(2017年)
デイヴィッド・ビニー『The Time Verses』(2016年)
ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』(2016年)
デイヴィッド・ビニー『Anacapa』(2014年)
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)  


7 of 8 @ Jazzkeller 69

2018-02-03 16:21:19 | アヴァンギャルド・ジャズ

ベルリン。Jazzkeller 69に足を運んだ(2018/2/2)。開場が21時と遅く、1時間ほど1階のAufsturzでビールを飲んで時間をつぶした。

7 of 8:
Andreas Willers (g)
Matthias Schubert (ts)
Florian Bergmann (as, cl, bcl)
Nikolaus Neuser (tp)
Meinrad Kneer (b)
Christian Marien (ds)

ギターのアンドレアス・ヴィラーズがリーダーとなり、テナーのマティアス・シューベルトがかなりフィーチャーされている形。

しかし、全員がそれぞれに見せ場を発揮するというのか、個人の演奏家として集団即興に参加し、そのことが役割という構造上のものにとらわれない個々の存在感を際立たせていた。こうして聴くと、たとえばブルースだとか歌の雰囲気だとかブラック・ミュージックの背負うものだとか、そうしたアメリカ的なものから自由なヨーロッパの集団即興なのだった。もちろんICPだってグローブ・ユニティだってコレクティーフだって共通の感覚を強く持っている。

何しろ印象付けられたのは、シューベルトのテナーである。何かあざとく野生的な音を出すわけでもないのに、テナーの重たさがそのまま音のフラックスの太さや重さとなり、竜が空中でくねるかのようなサウンドを創り出した。ちょっと驚いた。藤井郷子グループでの演奏歴もある。

また、フローリアン・バーグマンのテクは大したものであり、クラもバスクラもとにかく管を鳴らし切り、一心にグループのサウンドに貢献していた。

バンドサウンド全体は、自発的な個々の働きかけで大きな流れとして生成されつつも、ヴィラーズのゆるやかな指示によって、余裕もユーモアもあって、とても楽しめるものだった。終盤に、ヴィラーズが笑顔を浮かべながら両手で大きな輪を描き、それに合わせて全員(とオーディエンス)が「うおおおお」と唸り、それを2回。そして3回目はヴィラーズが床の当たりで両手をひらひらと揺らしてタメをつくり、また両腕で一周。このわけのわからない笑いもまた、ヨーロッパに違いない。帰路、この笑いの感覚がずっと体内に残り、嬉しかった。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4


PIP、アクセル・ドゥナー+アンドレアス・ロイサム@ausland

2018-02-02 15:50:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

ベルリン。ドイツに来るのは3度目だがベルリンははじめてである。

せっかくなので、ベルリン在住の奥田梨恵子さんとお喋りをして(Dock 11でのダンスとのコラボレーションに出る前)、そのまま、auslandに足を運んだ。開場は20時だが寒いしちょっと前に入れてもらった。スタッフはふたりとも日本のインプロの場所について知っていて、七針、Ftarri、スーパーデラックス、キッドアイラックなんて名前が出てきた。

■ PIP

Torstein Lavik Larsen (tp)
Frederik Rasten (g)

ラーセンは延々と長い音を吹き、ミュートも使いつつ、音色や強さを変化させてゆく。一方のラステンだが、最初は小さな弓で弦を擦り、この連続的な音のラインを2本にした。そしてギターを横にしてエフェクターも使いつつ、朦朧とさせられるサウンドを作った。この異空間ぶりがなかなかのものであり、時差ボケのわたしは落ちそうになった。

■ アクセル・ドゥナー+アンドレアス・ロイサム

Axel Dorner (tp)
Andreas Roysum (cl)

ドゥナーのプレイを直に観るのは、1996年のベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ(BCJO)の来日公演以来だからもう20年以上が経っている(!)。その後日本に何度も来ていたが機会はなかった。

ロイサムのクラリネットは時間軸にすれば長めのうねりを作っている。その横で、ドゥナーはスライドトランペットを使い、「作業」のように奇妙なことを行い、奇妙な音を発し続ける。ピストンを左手で緩め、ピストンを押し、スライドさせ、そのひとつひとつの動きがそれぞれ固有の音となって現れる。また、沸騰するような効果を含め、ヘンな音を次々に提示する。その確信犯的なサウンドに驚きながら凝視した。

ドゥナーはまもなく来日する(2018年2月、4月)。2月は2/12のFtarriと2/15のスーパーデラックスの2回。4月はまだ固まっていないと話していた。

トリスタン・ホンジンガーらと共演した盤を含め、2枚のCDを20ユーロで買った。そういえばたしかIntaktから出たはずの「失望」の新作を聴くことを忘れていた。

Fuji X-E2、Xf35mmF1.4

●アクセル・ドゥナー
「失望」の『Vier Halbe』(2012年)
アクセル・ドゥナー+オッキュン・リー+アキム・カウフマン『Precipitates』(2011、-13年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbestandige Zeit』(2008年)
『失望』の新作(2006年) 


ジェームス・ブランドン・ルイス+チャド・テイラー『Radiant Imprints』(JazzTokyo)

2018-02-01 00:00:00 | アヴァンギャルド・ジャズ

ジェームス・ブランドン・ルイス+チャド・テイラー『Radiant Imprints』(Off-Record Label、-2018年)のレビューを、JazzTokyo誌に寄稿しました。

>> #1485 『James Brandon Lewis & Chad Taylor / Radiant Imprints』

James Brandon Lewis (ts)
Chad Taylor (ds, mbira on tracks 3 & 5)

●ジェームス・ブランドン・ルイス
ジェームス・ブランドン・ルイス『No Filter』(JazzTokyo)(-2017年)

●チャド・テイラー
ジェイミー・ブランチ『Fly or Die』(-2017年)
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015、16年)
エリック・レヴィス『In Memory of Things Yet Seen』(2014年)
ジョシュア・エイブラムス『Represencing』、『Natural Information』(2008-13年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
マーク・リボーとジョルジォ・ガスリーニのアルバート・アイラー集(1990、2004年)
Sticks and Stonesの2枚、マタナ・ロバーツ『Live in London』(2002、03、11年)