MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『寝ても覚めても』

2018-09-06 20:29:38 | goo映画レビュー

原題:『寝ても覚めても』
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介/田中幸子
撮影:佐々木靖之
出演:東出昌大/唐田えりか/瀬戸康史/山下リオ/伊藤沙莉/渡辺大知/仲本工事/田中美佐子
2018年/日本・フランス

「ダブル」を巡る考察について

 2018年9月号の『ユリイカ』の「濱口竜介特集」において映画批評家の蓮實重彦が監督にインタビューしている。蓮實は逃げる丸子亮平を泉谷朝子が追いかける超ロングショットで撮っているシーンの美しさなどを称えるだけでなく、3つの問題点まで指摘しているのであるが、「朝子と麦が出会って、それから焼肉屋の場面になります。そこで『運命だ』と麦が言って、そこは非常にいい麦のショットが入るわけですけれど、次に『乾杯』と麦が言うときに焦点が朝子だけに合って、麦が非常にボケるんです。あれはいいんですか。」「二つめは、朝子がポットを取りにいって、亮平から逃れるように喫煙所のある階段に行くと、そこで二人が向かいあうところ、場面としては非常に素晴らしい。よく外であれを撮ってくれた、と思うのですが、亮平が朝子の頬に手を伸ばします。そこでショットが変わる。そしてキャメラは被写体の二人に近づくんですが、あそこはわれわれの感覚からすると、二重(=ダブルアクション)に見えるんです。」「東北から帰ってきた朝子が大阪の家の前に現れるシーンがありますね。そして右からポーンとボールがきて、それを投げ返すと、その後ろに亮平が立っている。そこは素晴らしい。ところがそのあと玄関の柵を挟んで二人がしゃべりますね。(中略)あそこのみ、わたくしはショットがゆるいと思った。手前に亮平がきて、『帰れ』とか『お前頭がおかしいんじゃないか』とか言っているところが、どうもいままでのショットとは違う感じがしたんですけれども。」という指摘がいちいちごもっともで、新作を撮った映画監督にこれほどのインタビューが出来る若手現役の映画評論家や映画ライターが存在するだろうか。
 そういうことで本作に関して私が語ることは無くなってしまっているのであるが、一度は鳥居麦と駆け落ちしてしまった朝子が丸子亮平の元に戻った動機として、かつて一緒に元気で過ごしていた岡崎伸行に久しぶりに再会した際に岡崎は筋萎縮性側索硬化(ALS)を患っており、つまり丸子亮平と鳥居麦と同様に「瓜二つ」であっても全く違うという現実を見たからであろう。
 本作のラストは『流れる』(成瀬巳喜男監督 1956年)のラストを彷彿とさせる。


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