MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『表象の奈落』の表象の「ブレ」について

2018-09-20 00:43:09 | Weblog

 『表象の奈落』(蓮實重彦著 青土社 2018.6.11)は既に2006年に上梓されており、今回は新装版なのであるが、問題のある書籍である。それは内容ではなく活字の問題である。
 例えば、「しかし、秩序はそこからしか生じえないはずのものでのり、」(p.149)の最後は「ものであり、」であるという間違いや「サールが判断したといういう以外の」(p.271)という文章に余計な「いう」が紛れ込んでいるという些末な誤植をあげつらうつもりはないのだが、「塙民」(p.121)は「塙氏」であろうし、「ベルト―の農園でシャルがエンマと出会い、」(p.288)はもちろん「シャルル」であろうし、「二つの異なるテクスト問に見られるこの反復は、」(p.304)はもちろん「テクスト間」であろうし、「同時に観察している複数の入々」(p.307)は文脈から察して「人々」であろう。
 実は2006年版でもかなりの誤植があり、訂正されてもいるのだが、相変わらず酷い誤植があるのは何故なのだろうか? もちろん「それくらい察しろ!」という意見もあるだろうが、問題なのは本書の編集者は本書を真剣に読んでいるのだろうかという疑問が生じてしまうことにある。容赦なく「素人読み」を弾劾している本書が著しく「動体視力」が低下している編集者によってなされているために「ひっかき傷」がついているのであるが、ロラン・バルトをこよなく愛する著者ならば気にしないものなのだろうか。
 あとがきで著者は新装版の編集者と別の企画を進行させていると記しているが、この編集者の凡庸な「動体視力」による著者の仕事への多少なりの影響は気になる。


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