原題:『The Death of Stalin』
監督:アーマンド・イアヌッチ
脚本:アーマンド・イアヌッチ/ヴィッド・シュナイダー/アン・マーティン/ピーター・フェローズ
撮影:ザック・ニコルソン
出演:スティーヴ・ブシェミ/サイモン・ラッセル・ビール/オルガ・キュリレンコ/パディ・コンシダイン
2017年/イギリス・フランス・ベルギー
「史実」と「フィクション」と「冗談」と
本作はある程度の史実を知っていなければ楽しんで(?)観ることは難しいように思う。もちろん主人公でソビエト連邦の最高指導者のヨシフ・スターリンを知らずに観る人はいないだろうが、スターリンが倒れた後に、最初にスターリンの部屋に入ったのはラヴレンチー・ベリヤで内務人民委員部(NKVD)と呼ばれる秘密警察の長官である。ベリヤは「粛清リスト」からヴャチェスラフ・モロトフと彼の妻のポリーナの項を抜き取ってしまう。モロトフは外務大臣でスターリンの忠実な僕(しもべ)だったのだが、スターリンの反感を買い、妻のポーリンは既に逮捕され、自身も閑職に追いやられて粛清寸前だったのである。ベリヤはモロトフの代わりに台頭してきたはずなのだが、首相となったゲオルギー・マレンコフとニキータ・フルシチョフに対抗するためにモロトフを救ったのである。
マレンコフは傀儡だったがフルシチョフは狡猾だった。ここでキーマンとなるのが軍を掌握している国防次官のゲオルギー・ジューコフの存在なのだが、軍と秘密警察の相性が良いはずがなく、権力闘争に敗れたベリヤは粛清されたというのが「本作」のあらすじだと思うけれど、単純化しすぎだろうか。
しかし史実に詳しいからといって本作が正確に理解できるとも限らない。例えば、スターリンに渡すレコードに忍ばせたメモを書いた著名なピアニストのマリヤ・ユーディナは当時53歳だったはずだが、マリヤを演じたオルガ・キュリレンコは現在38歳である。あるいはスターリンの娘であるスヴェトラーナ・アリルーエワは当時27歳なのだが、スヴェトラーナを演じたアンドレア・ライズボローは現在36歳で、歴史に詳しい観客にとっては違和感しかないであろうが、これもギャグの一環であるのならば言うことはないのである。