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原題:『野性の証明』
監督:佐藤純彌
脚本:高田宏治
撮影:姫田真佐久
出演:高倉健/中野良子/薬師丸ひろ子/夏木勲/舘ひろし/梅宮辰夫/三國連太郎
1978年/日本
「野性」と「狂気」の関係について
薬師丸ひろ子が演じた長井頼子が劇中で発した「お父さん怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しにくるよ」という台詞がテレビCMで流されたようで、いわゆる‘父性’を刺激されて自分を高倉健に置き換えて劇場まで足を運んだ父親たちがけっこういたのかもしれないが、その頼子の心情を解することは意外と難しい。例えば、暴漢に襲われた主人公の味沢岳史が中戸多助の頭を斧で割る光景を目撃した頼子は、かつて味沢が自分の実の父親の頭を同じように斧で割った光景を思い出すのであるが、何故か実の父親の時は目の前で目撃した光景を、中戸の頭を斧で割る味沢の背後から頼子は目撃して思い出すのである。
あるいは皆川二等陸佐が乗っているヘリコプターから逃れるためにトロッコに乗って逃げている味沢と頼子はトンネルの中まで逃げのびた後に、味沢は千葉にある実家の住所とお金を渡して頼子を残して、一人で皆川と対決しようと歩いて表に出るのであるが、実の父親を殺した犯人として毛嫌いしていた頼子が、何の回想シーンも挿入されないまま、「お父さん!」と叫びながら唐突にトンネルから出てきて皆川に撃たれて殺されてしまう。何をきっかけにして頼子が心変わりしたのかがよく分からない。
その後、死んだ頼子を背負って味沢は自衛隊軍に一人で向かっていくのであるが、勇ましいというよりも完全に狂ってしまったようにしか見えない。「活劇」を目指したような大野雄二の音楽は戦闘シーンを飾るには相応しいものの、人間の心情を慮ることは遮り、娘を失った父親の気持ちをイメージしたというのであれば、それはそれでいいのだけれど、果たして「野性」が証明されたのかどうかは、『人間の証明』(佐藤純彌監督 1977年)同様に微妙である。