奈良新聞「明風清音」欄に月2回程度、寄稿している。昨日(2020.7.30)掲載されたのは「定年後 お金の使い方」だった。楠木新著『定年後のお金~貯めるだけの人、上手に使って楽しめる人~』(中公新書)のレビューだ。
昨年の「2000万円問題」のように、定年後のお金について云々されることが多いが、普通に定年まで勤めて普通に退職金や公的年金をもらっていれば、お金に困ることはない。そのことを知ってもらいたくてこの本を紹介した。では、記事全文を以下に紹介する。
楠木新著『定年後のお金~貯めるだけの人、上手に使って楽しめる人~』(中公新書)を読んだ。ベストセラーとなった『定年後』『定年準備』に続く第3弾だ。本書の帯には「本当にやりたいことに出費を惜しまず人生を楽しむべきと提言」とある。楠木氏は66歳の私とほぼ同年代。大手生保出身ということもあり、豊富な事例をまじえ実践的な提言をされている。
定年後のお金といえば、昨年の「2000万円問題」が思い浮かぶ。金融庁・金融審議会の「高齢社会における資産形成・管理」で示された話で、本書にも登場する。「収入が公的年金だけの無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万円~2000万円が必要になると指摘した」。つまり5万円×12ヵ月×30年で約2000万円の赤字という単純計算だ。
これに対し本書では「この年齢では夫婦とも何の収入も得ていない人はかなり少数派だ」。パートで月5万円稼ぐだけで赤字は帳消しになるし、公的年金のほかに企業年金を受け取っている人もいる。このような「老後の不安をやや大げさに見せる」話法には、注意した方が良いと助言する。私もこれには同感だ。
ファイナンシャルプランナーなどはお金の貯め方・増やし方のアドバイスはするが「使い方」をアドバイスすることはない。楠木氏は定年退職前後の人々を取材するうち「ひょっとすると、彼らはお金をどのように使えばよいのか分からないのではないか」という結論にたどり着いた。
「私は、サラリーマンに対して50歳ぐらいから、『会社員の自分』のほかに、自分の個性にあった『もう一人の自分』を創ることを勧めてきた。それは将来の独立に向けての準備や趣味、地域活動やボランティア、学び直しなど自らの個性に合ったものであれば何でもよい」。
私自身、こんな経験をした。「奈良検定1級に合格したので、次はソムリエをめざしたい。勉強方法を教えてほしい」という人に会った。雑談のなかで、彼がゼネコンを定年退職し、今は大手リース会社で週5日働く73歳であることを知った。ゴルフが趣味という健康な紳士で、年収は年金を合わせて約600万円あるという。
私が「小学館から文庫で出ている『大系日本の歴史』の古墳時代と飛鳥・奈良時代の2冊をお読みになれば参考になりますよ」と申し上げると「図書館に置いていますか」と問われてのけぞった。1冊1000円程度の文庫本である。この年収で、しかもこの年齢で、まだ節約を考えているとは…。
楠木氏は「定年後の生きがいを支える大切な手段の一つはお金である。しかしそれは目的ではない」「お金を稼ぐことは、社会に必要とされている証(あかし)であり、使うことは社会に何かを還元する行為である」。「お金を通じて人間関係をつくることや、自らの感動や楽しみに変換させることが大切だ」。
私は週2日の会社勤務のほかは、奈良まほろばソムリエの会でボランティア活動に打ち込んでいる。収入は少ないが赤字ではない。外食代、書籍代、交際費は惜しまないことにしていて、毎日を楽しんでいる。
本書にはこのほか「財産増減一括表」の作成、固定費の削減策などについて、具体的な指針が示されている。ご一読をお薦めしたい。
昨年の「2000万円問題」のように、定年後のお金について云々されることが多いが、普通に定年まで勤めて普通に退職金や公的年金をもらっていれば、お金に困ることはない。そのことを知ってもらいたくてこの本を紹介した。では、記事全文を以下に紹介する。
楠木新著『定年後のお金~貯めるだけの人、上手に使って楽しめる人~』(中公新書)を読んだ。ベストセラーとなった『定年後』『定年準備』に続く第3弾だ。本書の帯には「本当にやりたいことに出費を惜しまず人生を楽しむべきと提言」とある。楠木氏は66歳の私とほぼ同年代。大手生保出身ということもあり、豊富な事例をまじえ実践的な提言をされている。
定年後のお金といえば、昨年の「2000万円問題」が思い浮かぶ。金融庁・金融審議会の「高齢社会における資産形成・管理」で示された話で、本書にも登場する。「収入が公的年金だけの無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万円~2000万円が必要になると指摘した」。つまり5万円×12ヵ月×30年で約2000万円の赤字という単純計算だ。
これに対し本書では「この年齢では夫婦とも何の収入も得ていない人はかなり少数派だ」。パートで月5万円稼ぐだけで赤字は帳消しになるし、公的年金のほかに企業年金を受け取っている人もいる。このような「老後の不安をやや大げさに見せる」話法には、注意した方が良いと助言する。私もこれには同感だ。
ファイナンシャルプランナーなどはお金の貯め方・増やし方のアドバイスはするが「使い方」をアドバイスすることはない。楠木氏は定年退職前後の人々を取材するうち「ひょっとすると、彼らはお金をどのように使えばよいのか分からないのではないか」という結論にたどり着いた。
「私は、サラリーマンに対して50歳ぐらいから、『会社員の自分』のほかに、自分の個性にあった『もう一人の自分』を創ることを勧めてきた。それは将来の独立に向けての準備や趣味、地域活動やボランティア、学び直しなど自らの個性に合ったものであれば何でもよい」。
私自身、こんな経験をした。「奈良検定1級に合格したので、次はソムリエをめざしたい。勉強方法を教えてほしい」という人に会った。雑談のなかで、彼がゼネコンを定年退職し、今は大手リース会社で週5日働く73歳であることを知った。ゴルフが趣味という健康な紳士で、年収は年金を合わせて約600万円あるという。
私が「小学館から文庫で出ている『大系日本の歴史』の古墳時代と飛鳥・奈良時代の2冊をお読みになれば参考になりますよ」と申し上げると「図書館に置いていますか」と問われてのけぞった。1冊1000円程度の文庫本である。この年収で、しかもこの年齢で、まだ節約を考えているとは…。
楠木氏は「定年後の生きがいを支える大切な手段の一つはお金である。しかしそれは目的ではない」「お金を稼ぐことは、社会に必要とされている証(あかし)であり、使うことは社会に何かを還元する行為である」。「お金を通じて人間関係をつくることや、自らの感動や楽しみに変換させることが大切だ」。
私は週2日の会社勤務のほかは、奈良まほろばソムリエの会でボランティア活動に打ち込んでいる。収入は少ないが赤字ではない。外食代、書籍代、交際費は惜しまないことにしていて、毎日を楽しんでいる。
本書にはこのほか「財産増減一括表」の作成、固定費の削減策などについて、具体的な指針が示されている。ご一読をお薦めしたい。
