tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

思い出の昭和「大学受験参考書」/奈良新聞「明風清音」第34回

2020年02月29日 | 明風清音(奈良新聞)
奈良新聞の「明風清音」欄に月2回程度、寄稿している。一昨日(2020年2月27日)に掲載されたのは「懐かしの受験参考書」だ。予備校や塾に恵まれない環境にあったので、受験参考書選びには慎重を期した。その中でも特に印象に残っていた4冊が、本橋信宏著『ベストセラー伝説』(新潮新書)にそのまま紹介されていたので、これは懐かしかった。しかも4冊とも、今でも入手できるのである。

とりわけ森一郎氏は奈良県出身(畝傍中学卒)で、晩年は奈良市にお住まいだった。今、私の手元に同氏の『試験に出る英文法』がある。通常の文法書は名詞で始まり、感嘆詞で終わる。しかしこの本は、最も重要な不定詞、動名詞、分詞を第1章、第2章、第3章に置いているのだ。これについて同書の「はじめに」には、こんなことが書かれている。

高校生や、ことに一般受験生にとっては、準備勉強の期間は長くても2年、1年あるいは半年と制限されている。そのうえ、英文解釈・英作文・英単語・熟語、国語(この中には古文・現代文・国文法それに漢文も含まれることがある)、数学、物理、世界史その他いろいろな学課目の勉強があり、たまにはデートやボーリングもしてみたいとあれば、最も重要なものから始めるというのは、きわめて当たりまえのことであって、読者諸君は迷わず本書の第1ページから始めてもらってよいわけである。そういう英文法学習のための「めやす」を読者の眼前に明確に設定するのが本書の狙いの1つであった。

このような思い切りの良さは『試験に出る英単語』でも生かされていて、収録語数はわずか1800語、頻出語から順に並べ、しかも単語1つに訳語は1つだけという斬新な単語集が出来上がったのである。では、そろそろ全文を以下に紹介する。

本橋信宏著『ベストセラー伝説』(新潮新書)を興味深く読んだ。カバーには「60年代から70年代にかけて、青少年を熱中させた雑誌や書籍には、前代未聞の企画力や一発逆転の販売アイディアが溢れていた。その舞台裏を当時の関係者たちから丹念に聞き出した秘話満載のノンフィクション」。

1956年生まれの本橋氏と私はほぼ同世代。紹介された昭和のベストセラーはどれも懐かしいものばかりだったが、特に目を引いたのが大学受験参考書だ。蛍光ペンではなく赤鉛筆で線を引き引き読んだ懐かしの参考書を以下に紹介する(各参考書の著者はすべて故人)。

▼『古文研究法』洛陽社
著者は小西甚一。三重県宇治山田市(現・伊勢市)に生まれ東京文理科大学(現・筑波大学)を卒業、35歳の若さで「文鏡秘府論考」で日本学士院賞を受賞、国文学界を代表する学者で、筑波大学の副学長も務めた。

本書の「はしがき」には「これからの日本を背負ってゆく若人たちが、貴重な青春を割いて読む本は、たいへん重要なのである。学者が学習書を著すことは、学位論文を書くのと同等の重みで考えられなくてはいけない」。 

安直な試験対策本ではなく大学の授業のような内容で、国語が得意だった私は夢中になって読みふけった。「受験勉強は味気ない」というが、こんな楽しみもあったのだ。本書は「ちくま学芸文庫」として復刊されている。

▼『新釈 現代文』新塔社
著者は高田瑞穂。静岡県白須賀町(現・湖西市)に生まれ東京帝国大学を卒業、高校の教諭や校長を務めた後、成城大学文芸学部教授。本書冒頭の「読者へのことば」には「この本は、結局『たった一つのこと』を語ろうとするものです」。

それは論理の流れをきちんと追うということであり、本書の問題文も解説文も、そのような方針で一貫していた。現代国語の参考書というより、現代文学の研究書として読み継がれ、こちらも「ちくま学芸文庫」として復刊されている。

▼『試験に出る英単語』青春出版社
著者の森一郎は奈良県立畝傍中学、東京文理科大学卒。奈良女子高等師範学校附属高等女学校(現・奈良女子大学附属中等教育学校)教諭、東京都立日比谷高等学校教諭、関西学院大学教授(この頃から奈良市に移住)などを歴任した。

「赤尾の豆単」では頭に入らなかった私は、「しけ単」と呼ばれた本書を発見して飛びついた。何しろ豆単の収録語集が3800語に対し、本書はわずか1800語。ABC順に並んだ豆単と違い、本書は頻出語から順に並んでいた。しかも単語1つに訳語は1つだけ。大学入試問題を徹底的に調べ上げ、日比谷高校で生徒に配っていたプリントを本にしたのだという。本書は今も販売中だ。

▼『新々英文解釈研究』研究社
著者の山崎貞(ヤマテイ)は長野県生まれ、正則英語学校を卒業。早稲田大学、早大高等学院で教鞭を執るが、肋膜炎により48歳で死去。本書には教養主義に満ちた人生訓が盛り込まれていた。例えば「A man of learning is not always a man of wisdom.」(学者が必ずしも賢人とは限らない)。現在も、一部改訂した復刻版が店頭に並ぶ。

ここでは受験参考書ばかりを紹介したが、『ベストセラー伝説』には『少年画報』、『科学』と『学習』、『平凡パンチ』、『ノストラダムスの大予言』と、一世を風靡したベストセラーが満載だ。ご一読をお薦めしたい。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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西方極楽浄土をイメージした円成寺本堂/毎日新聞「やまと百寺参り」第

2020年02月28日 | やまと百寺参り(毎日新聞)
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は『奈良百寺巡礼』(京阪奈新書)の刊行を記念して、毎日新聞奈良版に「やまと百寺参り」を連載している。本年(2020年)2月13日付で掲載されたのは「西日差す本堂 法悦の時/円成寺(えんじょうじ 奈良市)」、執筆されたのは同会会員でアーティストの藤井哲子さん。
※トップ写真は、阿弥陀如来坐像を安置する本堂=奈良市忍辱山町の円成寺で

多芸多才な女性で、ご本人からいただいたプロフィールには「ピアノ・電子オルガン講師を経て心象風景を絵(油彩・アクリル・墨・CG)や音楽(コンピューターで多重録音)で表現 自主制作 CD8 枚 講演活動(奈良まほろばソムリエ)」とある。今は奈良テレビ放送の「ゆうドキッ!」(木曜日)の「お出かけ情報」を友松洋之子(ともまつ・よしこ)さんと交代で担当されている。私は「ソムリエの会の女神」というニックネームをつけた。

藤井さんは『奈良百寺巡礼』でも円成寺を書かれたが、そちらは運慶の大日如来坐像(国宝)の話が中心だった。新聞ではがらりと視点を変え、本堂を紹介された。お寺のHPには《本堂内陣母屋四本柱には、本尊阿弥陀如来に従うように観音菩薩、勢至菩薩をはじめ、様々な楽器を演奏し舞い踊る諸菩薩が極彩色で描かれています。阿弥陀二十五菩薩来迎の構成を意識したもので、本尊阿弥陀如来と一体となった空間構成をつくることを考慮にいれて制作されたものだと思われます》とある。では記事全文を紹介する。

春日山原始林の東方に位置する円成寺。少し陽が傾き始めるころ、本堂に一歩足を踏み入れると、西側の障子からの柔らかな日差しに、本堂の中は格別の空気に包まれます。湧(わ)き雲の白が鮮やかな内陣の柱が、参拝者の視線をいざないます。

描かれた二十五菩薩(ぼさつ)が楽器を奏でながら飛翔(ひしょう)する姿は、さながら浄土の音色が舞っているようです。持国天と多聞天の間から見上げる本尊、阿弥(あみだ)陀如来坐像(ざぞう)(重文)の横顔は、柔らかな黄檗色(きはだいろ)の輪郭を帯び、いっそう優しく浮かび上がります。

「仏の本様」と称(たた)えられる定朝様式の調和のとれた温雅な様相が、波動となって参拝者にとびこんでくるようです。宝相華(ほっそうげ)唐草文様の光背に残る金箔(きんぱく)を目にすると平安時代後期の造立当時の煌(きら)びやかさに思いがめぐります。

本堂の階段を下りる時、そのアングルからしか目にできない楼門の門と三つの窓がかもしだす四つの額の絵のような光景に、また心ときめくのです。(奈良まほろばソムリエの会 会員 藤井哲子)

(宗 派) 真言宗御室派
(住 所) 奈良市忍辱山(にんにくせん)町1273
(電 話) 0742・93・0353
(交 通) 近鉄奈良駅からバス「忍辱山」下車徒歩2分
(拝 観) 9時~17時、大人500円、中高生400円、小学生100円
(駐車場) 有(無料)


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大満足!ホテルフジタ奈良の「和洋中ランチバイキング」

2020年02月27日 | グルメガイド
2月20日(木)、ホテルフジタ奈良で「和洋中ランチバイキング」をいただいた。料金は2,200円(税サ込)だが、私はシニア(65歳以上)なので1,980円(税サ込)になる。なお「ホームページを見た」と言って予約を入れると220円引きになるそうだ(2020年3月末まで。1日限定4組)。
※トップ写真は私の1巡目。写真はすべて本年(2020年)2月20日(木)に撮影





ランチバイキング会場は1階だが、間違って7階のレストランに行くと、もと会社の同期のOさんと奈良まほろばソムリエの会のKさんがランチ(大和の昼膳 税サ込@2,600円)されていて、驚いた。ランチバイキングについて、ホテルのHPによると、





和食、洋食、中華の専属シェフが料理を担当。地元野菜をたくさん取り入れたメニューはヘルシーで皆さまに大好評。手作り、出来立てを心掛けています。さらに「スイーツコーナー」や「ドリンクバー」まで楽しめる大満足のバイキングです。心ゆくまでお食事をお楽しみくださいませ。





料金 大人 2,000円 (税サ込 2200円)/シニア(65才~) 1,800円 (税サ込 1,980円)/小人(4才~小学生) 1,100円 (税サ込 1,210円)/幼児(3才以下) 無料



プラン内容【3月のメニュー例】
■今月のビュッフェメニュー
★洋の料理 若鶏のミラノ風、ローストビーフ山葵ソース、スペイン風オムレツ、合鴨のスモーク、春野菜のペンネトマトソース、カナッペ、本日のスープ、マルゲリータピッツァ、野菜カレー&ライス 他





★和の料理 竹筒豆腐、つぶ貝と若芽の黄金和え、白魚の南蛮漬け、豆腐の肉味噌田楽、羽二重蒸し、鰆の和若草焼き、野菜の天婦羅、筍のちらし寿司


酢豚は、なかなかお目にかかれない深みのある味だった!

★中華の料理 鶏肉と水菜のサラダ、黒ミル貝と野菜の山椒風味、牛肉とピーマンの細切り炒め、広東風酢豚、わさび焼売、海鮮焼そば
★スイーツ 豆乳ヨーデル、抹茶ようかん、フルーツゼリー、アイスクリーム、パウンドケーキ、カットフルーツ



この本格中華焼きそばがことのほか美味しかった!どんどんなくなり、どんどん追加される

【リニューアル記念クーポン】 
「ホームページを見た」と予約すると各料金から220円引きに!!!
※3/31までの期間限定です/1日限定4組様(1組4名迄)
※仕入れの都合により、内容が一部変更となる場合がございます。



これは太はるさめ

豪華な料理がずらりと並び、何から食べていいか迷った。従業員さんにお聞きすると「中華料理が最も人気です。本格的な中華です」とのことだっので、酢豚、蒸し鶏や焼きそばを選んだ。いただいたところ、確かにこれは本格中華だ。


こちらは二巡目。ことのほかカレーライスが重かった!

この日は奥の部屋で団体客(日本人のシニア男性)が入っていた。同窓会のような雰囲気で、シニア割引がきくので、「ランチバイキングをうまく活用しているな」と感心した。デザートやフルーツも充実していて、アイスクリームも3種類。コーヒーも美味しい。








外は寒いのに、ついついアイスクリームを取ってしまった

こんな豪華なランチがわずか2,000円で味わえるとは!ただし、つい食べすぎるのでご注意を。私は休みを取って行ったので、これは正解だった。ホテルフジタ奈良の「和洋中まんぷくランチバイキング」、ぜひご利用ください!
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日本最大の塔心礎が残る 尼寺廃寺跡/毎日新聞「やまと百寺参り」第34回

2020年02月26日 | やまと百寺参り(毎日新聞)
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は、『奈良百寺巡礼』(京阪奈新書)の発刊を記念して、毎日新聞奈良版に「やまと百寺参り」を掲載している。本年(2020年)2月6日(木)付で掲載されたのは、「日本最大級の塔心礎(とうしんそ)/尼寺(にんじ)廃寺跡(香芝市)」、執筆されたのは香芝市在住の柏尾信尚さんである。
※トップ写真は、模造礎石が置かれ復元された北廃寺の塔基壇。左奥は学習館

私は昨年秋(2019.10.20)に初めて「尼寺廃寺跡」を訪ねた。王寺町から南下し、香芝市の閑静な住宅地を抜けると忽然と大伽藍跡が現れ、これには驚いた。「誰が建てた寺なんやろ?」という疑問が湧くが、どうもこれがよく分からないようだ。


以下4枚の写真は、私が2019.10.20に撮影した

『奈良まほろばソムリエ検定 公式テキストブック』には「寺の由緒についてはよくわからないが、聖徳太子建立の葛城尼寺とする説や敏達(びだつ)天皇の孫の茅渟王(ちぬのおおきみ)とその一族による造営などの説がある。また、この北と南の遺跡について北遺跡を僧寺、南遺跡を尼寺と推定し、僧尼一対の寺院とみなす考えも提起されている」。



香芝市のHPには、「現存するものとしては全国最大の塔心礎とともに、耳環などの舎利荘厳具(市指定文化財)もみつかりました。周辺には平野古墳群や平野窯跡群もあり、7世紀代の古墳と寺院、窯跡が近接して存在する数少ない地域です。そのため、古代における葛城地域の様相を考える上で重要な寺院として位置づけられています」。



なお「心礎」とは「塔の心柱(しんばしら)の礎石。中心に柱を受ける座や孔のあるものが多く、奈良前期以前のものでは舎利(しゃり)を納める孔をもつものもある」(デジタル大辞泉)。では、そろそろ記事全文を紹介する。



尼寺廃寺跡は香芝市の北端にあります。寺の由緒はよく分かっていませんが、1991(平成3)年から市教育委員会による発掘調査でその実態が判明し、北廃寺、南廃寺の二つの寺院跡が存在することが分かりました。

北廃寺の創建は7世紀後半に始まるとみられ、塔・金堂・回廊を確認、東向きの法隆寺式伽藍(がらん)配置で、東回廊に中門が存在すると推定されます。3・8㍍四方と日本最大級の巨大な塔心礎が見つかり、耳環(じかん)・刀子(とうす)・水晶玉やガラス玉など多彩な舎利荘厳具が出土しました。

約200㍍南の南廃寺でも同じ配置で南向きの建物基壇が確認され、北廃寺より早く造営されたようです。北廃寺が僧寺、南廃寺が尼寺だったと思われます。

2002(平成14)年、北廃寺跡は国史跡に指定され、公園として整備、基壇などが復元されました。学習館では塔心礎の模型など、市二上山博物館には荘厳具の実物、心柱の実物大模型などが紹介され、見て知って楽しく学ぶことができます。(奈良まほろばソムリエの会 会員 柏尾信尚)

(住 所) 香芝市尼寺2
(交 通) JR和歌山線畠田駅から南西へ徒歩約10分
(入 館)<学習館>9時~16時半、無料、原則月曜休館
(駐車場) 有(無料)

◇香芝市二上山博物館
(住 所) 香芝市藤山1の17の17
(駐車場) 0745・77・1700
(入 館) 9~17時、入館料200円、原則月曜休館


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早ずし、なれずし、柿の葉ずし/奈良新聞「明風清音」第33回

2020年02月25日 | 明風清音(奈良新聞)
木曜日の奈良新聞「明風清音」欄に、月2回程度寄稿している。先週(2020年2月20日)掲載されたのは、「大和と紀州 すし比べ」だった。奈良県民があまり知らない「早ずし」(ラップでくるんだサバずし)、十津川村を除いてあまり食べない「なれずし(熟れずし・馴れずし)」、そして吉野川・紀の川流域の郷土食(行事食)「柿の葉ずし」について考えてみた。記事を準備する期間中に、たくさんの写真を撮ったので、あわせて以下に紹介する。
※トップ写真は、弥助寿司(和歌山市本町4丁目31)から取り寄せたサバの早ずしとなれずし

NHK奈良放送局「ならナビ」の「岡本教授の大和まだある記」では、12月17日1月14日の2回、「大和の寿司」を紹介していた。興味深く視聴したが、「なれずし」のことなどを少し補足しておきたい。


こちらがサバの早ずし(サバずし)。オークワ富雄中町店の店頭に並ぶが、早々に売り切れる

▼早ずし(サバずし)
私は平成17年にブログ「どっぷり!奈良漬」をスタートさせた。アクセス状況は翌朝に判明する。毎日50件近いアクセスをいただくのが「早ずしは和歌山名物/うまい、安い、ボリュームたっぷり!」という記事だ。和歌山県生まれの私が、同県で普通に販売されている早ずし(ラップで包んだサバずし)を紹介している。




奈良県内でも、和歌山に本社のあるオークワでは、時々店頭に並ぶ。平成10年頃、和歌山ラーメンが大ブームになった。和歌山に行ったお客が「和歌山ではラーメン屋にサバずしが置いてある」と驚き、ネットなどで評判になった。この早ずし、奈良県民にはあまり知られていないようだ。



値段は柿の葉ずしの半額程度、大きさは倍ほどもあるので、リーズナブルでしかも美味しい。柿の葉の防腐作用がないので、消費期限は当日となるが。早ずしは、和歌山県民にとっては「発酵させていないすし」なのだが、奈良県民には「柿の葉の代わりにサランラップで巻いたすし」ということになろう。



『聞き書 和歌山の食事』(農山漁村文化協会)という本のカバーに、橋本市出身で「前畑ガンバレ」の兵藤(旧姓前畑)秀子さんがコメントを寄せていた。「今も母がつくつてくれた『サバずし』の味を忘れることができません。母は当時の二銭銅貨を竹筒にためておき、お祭りになると、その竹筒を割って『サバずし』をつくってくれました」。サバずしは、和歌山県民のソウルフードなのだ。


十津川村のFさんが送ってくれたサンマのなれずし「あやこさんが作ったなれ寿し」
(三重県南牟婁郡御浜町阿田和3414-1)。和歌山県田辺市の「道の駅奥熊野古道ほんぐう」
(Aコープ)で買っていただいた(2/6撮影)。三重県→和歌山県→奈良県のリレーだ!

▼な(熟・馴)れずし
「塩蔵の魚に飯を合わせ、その自然発酵によって酸味が生じた鮨」(『デジタル大辞泉』)。なれずしは琵琶湖のフナずしが有名だが、和歌山県にはサバやサンマのなれずしがあり、私も時々取り寄せている。十津川村では正月のご馳走用として作られ、今もスーパーなどでなれずしが普通に販売されている。野趣に富んだ味わいで酒肴にはもってこいなのだが、それが苦手な人もいる。



あやこさんが作ったなれ寿し(サンマのなれずし)


こちらはサバの早すし(向かって左)となれずし。トップ写真のすしだ

ならナビ(前編)では「つるべすし弥助」(下市町)の宅田彌助さんが登場。釣瓶鮨(つるべすし)はもともと5日間ほど発酵させたアユの「半なれずし」だったが、その味が好まれなくなったので、昭和63年を最後に、発酵させていない「押しずし」を提供しているそうだ。


こちらはなれずし。3週間寝かせたものを送ってもらった


こちらは早ずし。嵩は同じでも、サバの厚みが全く違う。発酵の段階で縮むのだ

▼柿の葉ずし
番組後編では、熊野灘のサバを漁師がかついで吉野に運んできた(サバ街道)という話のあと「柿の葉ずしの北限は御所市、南限は下市町のまん中あたり」という解説があった。南限と北限はその通りで、これは概ね吉野川(紀の川)流域である。



「季節料理・山菜料理 静亭」(吉野町吉野山952)の自家製柿の葉ずし

しかし「熊野からサバをかついで運んできた」とう説には、私はやや懐疑的である。和歌山県の紀の川筋(橋本市や伊都郡)にも柿の葉ずしを作る風習があるからで、漁師が川舟で紀の川を遡ってサバを運んできた可能性がある。今も柿の収穫量日本一は和歌山県だ(奈良県は2位)。

物流や保存技術が発達し、今は海のない本県でも新鮮なにぎりずしなどが味わえるが、伝統の味も忘れないようにしたい。 

乳酸発酵したなれずしは、酸味が強い。サバやサンマのなれずしは「フナずし」などに比べてずっと食べやすい。試しに14人の奈良県民にサバのなれずし(3週間寝かせたもの)を少し試食してもらったところ「美味しい」「臭味がない」「フナずしよりずっと食べやすい」とご好評いただいた。

なれずしは、東南アジアから米作の伝来とほぼ同じ時期に日本に伝わったそうだ。先人の知恵が詰まったなれずしに、ぜひいちどチャレンジしていただきたい。

(2/25追記)以前、「早ずしは和歌山名物」の話をFacebookに載せたところ、和歌山市出身の尾崎敦士さんから、こんなコメント(1/21付)をいただいた。
「早ずしは一夜漬けですから、本当に美味しいのはなれずしだと思います」「親父が有田の湯浅町なんで、秋祭りになれずしと、もくず蟹をよく食べてました。やはり南の方ですかね。最近は残念ながら食べてません。でも私も柿の葉寿司にはこだわってますね。茶がゆも毎朝食してましたが、今その味はどうして出せません。多分ですが茶葉が良すぎると思われます。今のほうじ茶では、残念ながら出ません。こう考えると和歌山と隣合わせている奈良の地域にもそういう習慣がありますね」。

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