「平城遷都1300年祭」(2010年)は、空前の大成功に終わりました。今年(2011年)の元旦、私は当ブログに《後世、奈良県の歴史は「戦前・戦後」ならぬ「1300年祭以前」と「ポスト1300年祭」(祭前・祭後)に区分されることになることでしょう。このお祭りで、奈良県の対外イメージは、著しく改善・向上しました。何より県民の意識が変わり、自信がつきました》云々と書きました。この成功体験を踏まえ、最近になって3人の有識者が提言を書かれました。いずれも傾聴に値する貴重な意見ですので、以下に要点部分を引用させていただきます。
※写真はすべて、今年の平城京天平祭(4/29)
1.「奈良の観光振興への3つの視点」 奈良県立大学教授 麻生憲一氏
※南都経済センター「センター月報」11年5月号「Opinion」欄
平城遷都1300年祭は、当初の予想を大幅に上回る来場者を迎え、無事成功裏に終えることができた。開催期間中の県内全体の総来場者数は延べ2140万人、主会場の平城宮跡では363万人を数えた。記念事業協会では、来場者全体の消費支出を約1280億円と推計し、全国への経済波及効果を約3210億円、県内では約970億円に上ると算出した。
今後、この成功を奈良の観光振興にどのように結びつけていけばよいのだろうか。それには3つの視点が必要であろう。
第一に、県内の観光拠点の広域連携を充実させることである。1300年祭では、「巡る奈良」をテーマに広域事業を展開し、来場者が県内を回遊できる道筋を作り上げてきた。今後、この連携をより強固なものとして、南部地域をも取り込んだ回遊システムを作り上げていけば、来場者の滞在時間は拡大し、宿泊者も増え、観光消費も拡大していくのではないだろうか。
第二は、人的交流を促進させることである。今回、県内地域のイベント会場では、来場者とスタッフ、ボランティアの人たちとの交流がこれまで以上に活発に行われ、来場者に喜んでもらえるもてなしを提供することができた。全国の成功事例をみると、多くの観光地では、これまでの「視察型観光から体験交流型観光」へと脱皮しており、地元民との人的交流により多くのリピーターが根付いている。奈良でも、いまその転換期を迎えているのではないだろうか。
第三は、観光地に対する住民意識の醸成である。
観光地としての住民の自覚があればこそ、来場者に対するもてなしの心も自ずと持つことができる。奈良の観光資源をより魅力的なものに磨き上げていくためには、行政や観光業者の力だけでは不十分であり、住民レベルでの観光に対する意識醸成が必要である。
[tetsuda私見]
《県内の観光拠点の広域連携を充実させること》は、ポスト1300年祭の最優先課題である。北和の宿泊施設の人たちは「大阪・京都に近いから泊まってくれない」という。南和の人たちは「遠いから敬遠されて泊まってくれない」という。これでは堂々めぐりである。北和だけでなく《南部地域をも取り込んだ回遊システムを作り上げ》ることが必要だが、それも「自治体がやってくれるだろう」と手をこまねいていてはいけない。まず動くべきは受益者だ。また、奈良県民自身が県内に泊まることも大切だ。宿泊統計によれば、県内客、県外客、外国人観光客のうち、他府県と比べて大幅に見劣りするのは「県内客」(観光客としての県民)なのである。来週、私は職場の慰安旅行で南和へ行く(吉野山に泊まり、御所・五條を回る)。ちょっとした心がけが必要だ。
2.「奈良でしか織れない旗 平城遷都1300年祭」 奈良県地域振興部長 田中敏彦氏
(前 社団法人平城遷都1300年記念事業協会事務局 副局長)
※奈良観光弘業「奈良文化・観光クォータリー」11年4月1日号
1年間、県内各地への来場者総数約2,000万。内、平城宮跡会場にはなんと363万人もの方々に訪れていただいた。夏は暑く冬は寒い1年であったが、予想を遥かにに上回る来県・来場者をお迎えする結果となった。特に顕著な傾向は、平城宮跡への来場者の約6割が県内各地に訪れていることである。1300年祭の開催により、平城宮跡がゲートウェイとなったのである。私自身も奈良の持つポテンシャルの偉大さを再認識することになる。奈良は「大仏商法」、動かない土地柄と言われて久しい。それは、観光に関して決定的な危機的状況に見舞われたことがないからではないだろうか。
しかし近年、修学旅行離れと相まって観光客数の減少が顕著になることに危機感を感じた一部の県民は地域を元気にしようと立ち上がる。しかし、その素材の観光拠点は全て点であることから脱しきれなかった。そんな時、1300年祭という大きな旗が挙がる。奈良には素材が有り余るほどある。その素材を活かし、点を線でつなぎ旗を織ることに挑戦すること、そのために一歩を踏み出すための実験こそが1300年祭である。一歩を踏み出さない限り、文字通り一歩も進めないのである。
知恵のある人は知恵を出す、金のある人は金を出す、どちらもない人は汗をかく、これでイベントの役割が決まる。平城遷都1300年祭は奈良でしか織れない旗、10年がかりで旗を織り、その旗印に県民が集まり、我も我もとその旗を振り続けたのだと感じた。
[tetsuda私見]
全く《奈良には素材が有り余るほどある》。観光資源の宝庫であるはずなのに、「倉庫」に成り下がっている。阿修羅像を倉庫から出した途端、東京だけで94万人を集めた。これまでは「演出力」が不足していたのだろう。足元の観光資源を見直すところから、ポスト1300年祭の企画が始まる。
3.「ポスト1300年祭の奈良観光」 奈良交通株式会社 取締役社長 中村憲兒氏
(奈良市観光協会 会長)
※奈良観光弘業「奈良文化・観光クォータリー」11年4月1日号
奈良県では、平成23年度予算に誘客(観光客誘致)の推進として、総額10億76百万余円が計上されました。特に、平城遷都1300年記念事業の継承に5億41百万余円、またポスト1300年記念事業として記紀・万葉プロジェクトの推進に43百万余円が計上される等、観光振興への新たな取り組みが進められています。
1300年祭を一過性のものにせず、更なる活性化に繋げるための今後の奈良観光を考えたとき、引き続き進めなければならないことは、まずは情報発信力の強化です。奈良の魅力、奈良の価値を全国各地に更に発信し続けることであり、その為には巡る奈良事業の発展継続や、新しい魅力ある旅行商品の企画等が必要であると考えています。
次に、地元の「おもてなし体制」の更なる充実です。1300年祭で活躍されたボランティアをはじめとする県民皆様の更なるおもてなしの心の醸成はもとより、宿泊施設の充実やパークアンドバスライドの活用といった交通渋滞対策などハード面の整備も引き続き進めなければなりません。
また、今後積極的に進めなくてはならないのが観光関係のリーダー、コーディネーターの育成です。今、奈良は「なら燈花会」、「なら瑠璃絵」、「バサラ祭り」等々、若手リーダーに育てられたイベントが、伝統的な行事にプラスする年中行事として奈良の魅力を高めています。素晴らしい事であり、こういった人材が育つ奈良であって欲しいと思います。
そして、それらを単発的なイベントに終わらせるのではなく、付加価値をつけることで更に奈良観光を盛り上げることができるのではないかと考えています。そのために「奈良らしい」根本的なコンセプトを定めること、そしてそれに沿ってそれぞれのイベントや催しに繋がりや広がりをもたせる総合プロデューサー役の登用や育成が今後必要であると思います。
今後も何度でも奈良に足を運んでいただくための取組みを、各界が一致協力したオール奈良で進める事が必要であると考えます。
[tetsuda私見]
奈良では《新しい魅力ある旅行商品の企画》が必要だ。そのためにもランドオペレーター(着地型旅行のプランナー)役が求められる。「なら燈花会」も「バサラ祭り」も、発足当初の「若者」たちが、今も現役で働き続けている。そろそろ若い人が代わってあげないと…。《根本的なコンセプト》も《総合プロデューサー》も奈良には欠けている。1300年祭の成功は、それらが揃っていたから実現した。大手広告代理店に頼らずとも、地元に人材はいる。埋もれた人材を登用して、やらせてみることが必要である。自治体職員の発想だけでは、限界がある。コンセプトを統一して《オール奈良》で取り組めば、必ず成功する。それを実証したのが、1300年祭の大成功である。
直接・間接に観光振興に携わっておられる有識者の意見はポイントを突いており、説得力があります。ポスト1300年事業に向けて、県の予算も計上されました。これを生かすか殺すか、奈良の力量が問われます。
※写真はすべて、今年の平城京天平祭(4/29)
1.「奈良の観光振興への3つの視点」 奈良県立大学教授 麻生憲一氏
※南都経済センター「センター月報」11年5月号「Opinion」欄
平城遷都1300年祭は、当初の予想を大幅に上回る来場者を迎え、無事成功裏に終えることができた。開催期間中の県内全体の総来場者数は延べ2140万人、主会場の平城宮跡では363万人を数えた。記念事業協会では、来場者全体の消費支出を約1280億円と推計し、全国への経済波及効果を約3210億円、県内では約970億円に上ると算出した。
今後、この成功を奈良の観光振興にどのように結びつけていけばよいのだろうか。それには3つの視点が必要であろう。
第一に、県内の観光拠点の広域連携を充実させることである。1300年祭では、「巡る奈良」をテーマに広域事業を展開し、来場者が県内を回遊できる道筋を作り上げてきた。今後、この連携をより強固なものとして、南部地域をも取り込んだ回遊システムを作り上げていけば、来場者の滞在時間は拡大し、宿泊者も増え、観光消費も拡大していくのではないだろうか。
第二は、人的交流を促進させることである。今回、県内地域のイベント会場では、来場者とスタッフ、ボランティアの人たちとの交流がこれまで以上に活発に行われ、来場者に喜んでもらえるもてなしを提供することができた。全国の成功事例をみると、多くの観光地では、これまでの「視察型観光から体験交流型観光」へと脱皮しており、地元民との人的交流により多くのリピーターが根付いている。奈良でも、いまその転換期を迎えているのではないだろうか。
第三は、観光地に対する住民意識の醸成である。
観光地としての住民の自覚があればこそ、来場者に対するもてなしの心も自ずと持つことができる。奈良の観光資源をより魅力的なものに磨き上げていくためには、行政や観光業者の力だけでは不十分であり、住民レベルでの観光に対する意識醸成が必要である。
[tetsuda私見]
《県内の観光拠点の広域連携を充実させること》は、ポスト1300年祭の最優先課題である。北和の宿泊施設の人たちは「大阪・京都に近いから泊まってくれない」という。南和の人たちは「遠いから敬遠されて泊まってくれない」という。これでは堂々めぐりである。北和だけでなく《南部地域をも取り込んだ回遊システムを作り上げ》ることが必要だが、それも「自治体がやってくれるだろう」と手をこまねいていてはいけない。まず動くべきは受益者だ。また、奈良県民自身が県内に泊まることも大切だ。宿泊統計によれば、県内客、県外客、外国人観光客のうち、他府県と比べて大幅に見劣りするのは「県内客」(観光客としての県民)なのである。来週、私は職場の慰安旅行で南和へ行く(吉野山に泊まり、御所・五條を回る)。ちょっとした心がけが必要だ。
2.「奈良でしか織れない旗 平城遷都1300年祭」 奈良県地域振興部長 田中敏彦氏
(前 社団法人平城遷都1300年記念事業協会事務局 副局長)
※奈良観光弘業「奈良文化・観光クォータリー」11年4月1日号
1年間、県内各地への来場者総数約2,000万。内、平城宮跡会場にはなんと363万人もの方々に訪れていただいた。夏は暑く冬は寒い1年であったが、予想を遥かにに上回る来県・来場者をお迎えする結果となった。特に顕著な傾向は、平城宮跡への来場者の約6割が県内各地に訪れていることである。1300年祭の開催により、平城宮跡がゲートウェイとなったのである。私自身も奈良の持つポテンシャルの偉大さを再認識することになる。奈良は「大仏商法」、動かない土地柄と言われて久しい。それは、観光に関して決定的な危機的状況に見舞われたことがないからではないだろうか。
しかし近年、修学旅行離れと相まって観光客数の減少が顕著になることに危機感を感じた一部の県民は地域を元気にしようと立ち上がる。しかし、その素材の観光拠点は全て点であることから脱しきれなかった。そんな時、1300年祭という大きな旗が挙がる。奈良には素材が有り余るほどある。その素材を活かし、点を線でつなぎ旗を織ることに挑戦すること、そのために一歩を踏み出すための実験こそが1300年祭である。一歩を踏み出さない限り、文字通り一歩も進めないのである。
知恵のある人は知恵を出す、金のある人は金を出す、どちらもない人は汗をかく、これでイベントの役割が決まる。平城遷都1300年祭は奈良でしか織れない旗、10年がかりで旗を織り、その旗印に県民が集まり、我も我もとその旗を振り続けたのだと感じた。
[tetsuda私見]
全く《奈良には素材が有り余るほどある》。観光資源の宝庫であるはずなのに、「倉庫」に成り下がっている。阿修羅像を倉庫から出した途端、東京だけで94万人を集めた。これまでは「演出力」が不足していたのだろう。足元の観光資源を見直すところから、ポスト1300年祭の企画が始まる。
3.「ポスト1300年祭の奈良観光」 奈良交通株式会社 取締役社長 中村憲兒氏
(奈良市観光協会 会長)
※奈良観光弘業「奈良文化・観光クォータリー」11年4月1日号
奈良県では、平成23年度予算に誘客(観光客誘致)の推進として、総額10億76百万余円が計上されました。特に、平城遷都1300年記念事業の継承に5億41百万余円、またポスト1300年記念事業として記紀・万葉プロジェクトの推進に43百万余円が計上される等、観光振興への新たな取り組みが進められています。
1300年祭を一過性のものにせず、更なる活性化に繋げるための今後の奈良観光を考えたとき、引き続き進めなければならないことは、まずは情報発信力の強化です。奈良の魅力、奈良の価値を全国各地に更に発信し続けることであり、その為には巡る奈良事業の発展継続や、新しい魅力ある旅行商品の企画等が必要であると考えています。
次に、地元の「おもてなし体制」の更なる充実です。1300年祭で活躍されたボランティアをはじめとする県民皆様の更なるおもてなしの心の醸成はもとより、宿泊施設の充実やパークアンドバスライドの活用といった交通渋滞対策などハード面の整備も引き続き進めなければなりません。
また、今後積極的に進めなくてはならないのが観光関係のリーダー、コーディネーターの育成です。今、奈良は「なら燈花会」、「なら瑠璃絵」、「バサラ祭り」等々、若手リーダーに育てられたイベントが、伝統的な行事にプラスする年中行事として奈良の魅力を高めています。素晴らしい事であり、こういった人材が育つ奈良であって欲しいと思います。
そして、それらを単発的なイベントに終わらせるのではなく、付加価値をつけることで更に奈良観光を盛り上げることができるのではないかと考えています。そのために「奈良らしい」根本的なコンセプトを定めること、そしてそれに沿ってそれぞれのイベントや催しに繋がりや広がりをもたせる総合プロデューサー役の登用や育成が今後必要であると思います。
今後も何度でも奈良に足を運んでいただくための取組みを、各界が一致協力したオール奈良で進める事が必要であると考えます。
[tetsuda私見]
奈良では《新しい魅力ある旅行商品の企画》が必要だ。そのためにもランドオペレーター(着地型旅行のプランナー)役が求められる。「なら燈花会」も「バサラ祭り」も、発足当初の「若者」たちが、今も現役で働き続けている。そろそろ若い人が代わってあげないと…。《根本的なコンセプト》も《総合プロデューサー》も奈良には欠けている。1300年祭の成功は、それらが揃っていたから実現した。大手広告代理店に頼らずとも、地元に人材はいる。埋もれた人材を登用して、やらせてみることが必要である。自治体職員の発想だけでは、限界がある。コンセプトを統一して《オール奈良》で取り組めば、必ず成功する。それを実証したのが、1300年祭の大成功である。
直接・間接に観光振興に携わっておられる有識者の意見はポイントを突いており、説得力があります。ポスト1300年事業に向けて、県の予算も計上されました。これを生かすか殺すか、奈良の力量が問われます。