奈良新聞「明風清音」欄に月1回程度、寄稿している。今月(2022.2.17付)掲載されたのは〈「森林」常識のウソ〉、田中淳夫さんの最近著『虚構の森』(新泉社刊)のレビューである。この本はまさに「巻(かん)を措(お)く能(あた)わず」、1泊2日の東京出張中に一気に読み終えた。本稿掲載日の翌日、田中さんのブログに「奈良新聞に『虚構の森』評」としてご紹介いただいた。
そこには〈この奈良新聞の記事を読んで、なるほど、こういう点に驚いてくれているんだな、おや私がつまんないと思って書いたところを引用しているよ(^^;)とか、ここに引っかかったか!と……私もいろいろ考えてしまう。今後の参考にさせていただこう。驚きの感覚、センスオブワンダーが大切だなあ、と改めて思ったのである〉とお書きいただき、光栄至極である。では、記事全文を以下に紹介する。
「森林」常識のウソ
この本を読んで、目からウロコが落ちた。日本で唯一の森林ジャーナリスト田中淳夫氏の最新刊『虚構の森』新泉社刊(税込み2200円)だ。
本書カバーには〈地球温暖化とCO₂排出量は関係ない、いやある! 緑のダムがあれば洪水や山崩れは防げる、いや防げない! などなど、環境問題に関しては異論だらけで、果たして何が正解かわかりません。地球環境を巡る常識に対して異議を申し立て、不都合な真実を明らかにしました〉。以下、本書の内容を抜粋する。
▼世界の森林は増えている
2018年8月に公表された「ネイチャー」論文によると、〈地球上で植物に覆われている土地面積を1982年と2016年を比べたところ、大幅に拡大していた。(中略)35年間に樹冠被覆地、つまり森林が7%も増えていた。面積にして224万平方キロメートルにも達する〉。これは、日本の国土の6倍以上という巨大な面積になる。
森林の増えた主な要因は、
①中国やインドで大規模な植林が推進されたこと。
②地球温暖化とCO₂濃度の上昇で、植物の生長が良くなったこと。
▼森林はCO₂を吸収しない
〈森は二酸化炭素を吸収して酸素を放出する一方で、出した酸素を再び吸収して二酸化炭素を排出するから差し引きゼロになる〉。森には菌類(キノコやカビなど)が生息する。菌類は光合成をせず、落ち葉や枯れた植物などの有機物を分解しCO₂を排出する。菌類の排出するCO₂は植物が光合成で吸収するCO₂に匹敵する。だから森全体では、CO₂と酸素の差し引きはプラスマイナスゼロになるのだ。
▼森は水を消費して減らす
これも驚きの真実だ。〈森は水を増やさない。むしろ消費して減らすのだ。水源の森の地下に水はたいしてない。これは異説というより学界の定説と言ってよい。(中略)なぜ森は水を減らすか。それは、森が植物のほか動物や菌類など生き物の集合体だからだ。生物は、生きていくのに水が欠かせない。常に水を消費する。わかりやすいのは、光合成だろう。これは水を分解する化学反応でもある〉。
▼橿原神宮と神武陵の森比較
〈橿原神宮の森は、主にカシの大木が立ち並んでいるが、その下に中低層の植生がない。地面にも草はあまり生えていない。林床は薄暗いが、遠くまで見通せる。一方、御陵の森には、地表の草から大木までさまざまな木々・草が階層をつくって生えていて、見通しは悪く地面も見えないほどだ〉。紀元2600年祭(昭和15年)を迎えるにあたり、どちらも「万葉の森」をめざした。
〈神宮は、最初に植えたカシなど照葉樹が大木になったものの、その下に草木が生えていない。おそらく照葉樹が大きく樹冠を広げたため地表が暗くなり、後継樹が生えなくなったのだろう。(中略)御陵は最初こそカシなども植えたが、献木などによる大規模な植林はせず、また基本的に立入禁止である。そのため畝傍山などから種子が飛んでくることもあって、自然植生に近くなったのだろう〉。
▼照葉樹林が本物の植生か
このように〈人が、最終的な植生の姿を最初からつくろうとそれらの樹種を植えても、それに合った生態系を築けず、いびつになってしまう。むしろ自然の遷移に任せた方が最終的に落ち着いた森を成立させる。(中略)「照葉樹林こそ本物の森」という主張は滑稽だ。森に本物も偽物もない。植物は土地の環境条件にもっとも適したものが生える。そして時とともに移り変わる。その過程で植生は変化する〉。
いかがだろう。固定観念にしばられず、幅広く情報を集めて判断することの大切さを痛感されたのではないだろうか。ご一読をお薦めしたい。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)
そこには〈この奈良新聞の記事を読んで、なるほど、こういう点に驚いてくれているんだな、おや私がつまんないと思って書いたところを引用しているよ(^^;)とか、ここに引っかかったか!と……私もいろいろ考えてしまう。今後の参考にさせていただこう。驚きの感覚、センスオブワンダーが大切だなあ、と改めて思ったのである〉とお書きいただき、光栄至極である。では、記事全文を以下に紹介する。
「森林」常識のウソ
この本を読んで、目からウロコが落ちた。日本で唯一の森林ジャーナリスト田中淳夫氏の最新刊『虚構の森』新泉社刊(税込み2200円)だ。
本書カバーには〈地球温暖化とCO₂排出量は関係ない、いやある! 緑のダムがあれば洪水や山崩れは防げる、いや防げない! などなど、環境問題に関しては異論だらけで、果たして何が正解かわかりません。地球環境を巡る常識に対して異議を申し立て、不都合な真実を明らかにしました〉。以下、本書の内容を抜粋する。
▼世界の森林は増えている
2018年8月に公表された「ネイチャー」論文によると、〈地球上で植物に覆われている土地面積を1982年と2016年を比べたところ、大幅に拡大していた。(中略)35年間に樹冠被覆地、つまり森林が7%も増えていた。面積にして224万平方キロメートルにも達する〉。これは、日本の国土の6倍以上という巨大な面積になる。
森林の増えた主な要因は、
①中国やインドで大規模な植林が推進されたこと。
②地球温暖化とCO₂濃度の上昇で、植物の生長が良くなったこと。
▼森林はCO₂を吸収しない
〈森は二酸化炭素を吸収して酸素を放出する一方で、出した酸素を再び吸収して二酸化炭素を排出するから差し引きゼロになる〉。森には菌類(キノコやカビなど)が生息する。菌類は光合成をせず、落ち葉や枯れた植物などの有機物を分解しCO₂を排出する。菌類の排出するCO₂は植物が光合成で吸収するCO₂に匹敵する。だから森全体では、CO₂と酸素の差し引きはプラスマイナスゼロになるのだ。
▼森は水を消費して減らす
これも驚きの真実だ。〈森は水を増やさない。むしろ消費して減らすのだ。水源の森の地下に水はたいしてない。これは異説というより学界の定説と言ってよい。(中略)なぜ森は水を減らすか。それは、森が植物のほか動物や菌類など生き物の集合体だからだ。生物は、生きていくのに水が欠かせない。常に水を消費する。わかりやすいのは、光合成だろう。これは水を分解する化学反応でもある〉。
▼橿原神宮と神武陵の森比較
〈橿原神宮の森は、主にカシの大木が立ち並んでいるが、その下に中低層の植生がない。地面にも草はあまり生えていない。林床は薄暗いが、遠くまで見通せる。一方、御陵の森には、地表の草から大木までさまざまな木々・草が階層をつくって生えていて、見通しは悪く地面も見えないほどだ〉。紀元2600年祭(昭和15年)を迎えるにあたり、どちらも「万葉の森」をめざした。
〈神宮は、最初に植えたカシなど照葉樹が大木になったものの、その下に草木が生えていない。おそらく照葉樹が大きく樹冠を広げたため地表が暗くなり、後継樹が生えなくなったのだろう。(中略)御陵は最初こそカシなども植えたが、献木などによる大規模な植林はせず、また基本的に立入禁止である。そのため畝傍山などから種子が飛んでくることもあって、自然植生に近くなったのだろう〉。
▼照葉樹林が本物の植生か
このように〈人が、最終的な植生の姿を最初からつくろうとそれらの樹種を植えても、それに合った生態系を築けず、いびつになってしまう。むしろ自然の遷移に任せた方が最終的に落ち着いた森を成立させる。(中略)「照葉樹林こそ本物の森」という主張は滑稽だ。森に本物も偽物もない。植物は土地の環境条件にもっとも適したものが生える。そして時とともに移り変わる。その過程で植生は変化する〉。
いかがだろう。固定観念にしばられず、幅広く情報を集めて判断することの大切さを痛感されたのではないだろうか。ご一読をお薦めしたい。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)