「とーりまかし」という情報誌をご存じだろうか。リクルートの「じゃらんリサーチセンター」(JRC)が発行する「心を動かす、日本を元気にする 観光・レジャーのプロデューサー応援情報誌」で、「一般個人の方への送付は行っておりませんのであらかじめご了承ください 」というレア物(非売品)である。
同誌のHPから6月号の中身を拾うと、
・【プロジェクトレポート】 パンフ充実、仲居さんのクチコミetc…
リピーター増に効く 着地での情報提供
・【第2特集】全国89カ所のゲレンデが19歳無料!いま取り組むべき課題と先進事例を検証
スノーエリア再活性化のための若者需要創出プロジェクト
雪マジ! 19~SNOW MAGIC~
・【第3特集】地域が継続的に成長し続けるために…
地域の構成要素とつながりを探り、強みと課題を可視化!
検証!じゃらん流・地域活性化フレーム
「(第1特集の)リピーター増に効く 着地での情報提供が面白いよ」と長岡光彦さん(奈良市観光協会事務局長)がこのレア物を見せてくださった。確かに、これは目からウロコが落ちた。インターネットによる全国調査がベースになっていて、きちんと分析もできている。ぜひ皆さんに紹介したいので、少し長くなるが全8ページのこの特集の勘所を、以下に列挙してみる。まずは結論「とーりまかし的考察」(P11)の全文を紹介する(以下、引用文中の下線は、すべて私がつけた)。
とーりまかし的考察
近年、地域主体で地域資源を発掘し磨いて、旅行商品を造成・発信する「着地型観光」の動きが各地で生まれている。それぞれ地域の魅力が詰まった内容と推察されるが、まだまだ旅行者への認知・流通には課題を感じている地域も多いのではないだろうか。今や、日本人の国内旅行市場の約9割を、個人で宿泊施設や交通を手配する旅行が占める時代となっている。着地型観光の流通を考えるときには、団体ツアーヘの組み込みだけではなく、約9割を占める個人旅行者にどのようにPRしていくかが鍵となるのは間違いない。一方、宿泊も交通もネットで手配して目的地に到着したのはいいが、旅先で今日をどう過ごせばいいか分からない人がいる。
今回の調査では、旅の満足度を飛躍的に高め、リピーターを生むことに、旅先(着地)での想定外の体験や、その土地ならではの経験が寄与している との結果となった。地域で次々と生まれている着地型観光の情報が、着地にて、旅行者が欲するタイミングにて提供され「思い立って参加」することができる受け皿があれば、旅行者に「想定外」で「地域ならでは」の旬な体験をもたらす可能性を生む。着地型観光というコンテンツと、旅行者の情報接触タイミングにあわせた情報発信の両輪が実現すれば、結果として、地域滞在時間が増え、満足度は上がりリピート意向も高まるという好循環が生まれていくのではないか。(文責:JRC研究員加藤史子)
以下、P4から、記載順に抜粋して紹介する。
Step1.着地での情報収集の充実度が旅の満足度を左右する
旅の情報への接触度合いと、その旅の満足度の間にはどんな関係があるのか?出発前と到着後、各タイミングでの情報収集に関するデータを見てみると、地域を訪れた旅行者への情報提供の大切さが浮き彫りとなった
まずは各旅行者が実際に行った直近の旅について、情報への接触状況と満足度がどんな関係にあったかを見てみよう。なおここでいう情報とは、「観光する」「体験する」「遊ぶ」「食べる」「買い物する」など、着地(旅先)での行動を決めるための情報であり、新幹線や飛行機など着地までの移動手段や、宿泊施設についての情報は含まない。
「綿密に計画した」(出発前)、「追加変更がたくさん」(着地で)で「非常に満足した」と答えた率が高いということは、出発前、到着後にかかわらず、より多くの情報に触れた人ほど旅の満足度が上がることを示している。綿密な計画も追加変更も、情報なしにはできないからだ。出発前の情報収集について、着地側でコントロールできることには限界がある。しかし、地域を訪れてくれた人に向けた情報なら比較的発信しやすい。着地で情報を得て計画の追加変更をしている人が「非常に満足した」と感じているというこの結果は、着地での情報提供も十分効果的であることを物語っている。
7割の旅行者が着地でも情報収集して予定を追加・変更
「現地で人手した情報をもとに予定を追加したり、変更することがたくさんある/いくつかある」と答えた人は7割を超え、着地での情報提供の重要性を感じさせる結果となった。とろこで、着地で情報収集や計画変更をするのは、出発前の情報収集が不十分なせいかというと、決してそうではないようだ。
基本情報は十分押さえた上で計画変更をする旅行者に必要なのは、出発前には得られない、現地ならではのプラスαの情報ではないだろうか。
Step2.「非常に満足」と言わせる情報提供とは? すきま時間の活用、旬な体験、想定外の楽しみが差をつける
「非常に満足」な旅をした人は、他の人とは違うどんな体験をしたのか?どんな体験が旅行者の満足度アップにつながるのかが分かれば、着地で提供すべき情報の内容も見えてくる
「非常に満足」な旅には想定外の体験が多い
ここまでのデータにより、旅行者が着地で計画を追加・変更できるよう情報を提供することが、「非常に満足」と感じてもらい、ひいてはリピートしたいと感じてもらうための有効な手段になり得る、ということが見えてきた。では、どのような情報を提供すれば、満足度アップにつなげることができるのだろうか。これを知るために、まずは旅行者が旅の間に実際に体験したことと、その旅の満足度の関係を見てみよう。
今回探りたいのはあくまで、強いリピート意向につながる「非常に満足」を実現するためのポイントだ。そこで注目したいのが「非常に満足」した人と、単に「満足」した人で体験率に差のある項目。
「出発前に予定していなかったレジャー・観光スポット・食事処・お店などで想定外の良い体験をすることができた」については、「非常に満足」した人の68%が体験しているのに対し、「満足」した人は47%とその差20ポイント以上。予定外・想定外の体験は、より強い満足度につながると言えるだろう。同様に、その土地・その季節ならではの旬な体験や、すき間時間の有効活用なども「非常に満足」と「満足」を分ける重要な項目。体験率そのものは低いが、「地元の人とのふれあい」も大きな差の付くポイントとなった。
着地での情報提供によって、重要項目の体験率を上げる
旅を終えて「非常に満足」と感じてもらうためには、とくにこれらの項目についての体験率を上げていくことが有効と考えられる。そしてそのために欠かせないのが、その体験に関する情報提供だ。たとえば、地元の人しか知らない現地情報は、出発前の計画にはなかった「想定外」の体験を生むだろう。「今日は地元でお祭がある」「市場には出回らないこんなおいしい魚がある」といった情報は、その土地、その季節ならではの「旬」な体験につながる。電車の待ち時間や急な天気の変化によって生まれる「すきま時間」は旅につきものだが、そのような手持ち無沙汰な時間を予測して、短時間で行ける近隣の観光スポット情報を提供したり、手軽にできる体験メニューを紹介したりするのも喜ばれるだろう。地元の人と旅行者をつなぐ情報も、地域だから提供できるものの一つ。こういった情報の一つひとつが、リピート意向を生か強い満足につながるのだ。
Step3.効果的な情報提供方法は? 有効なツールは「紙」と「人」。勝負タイムは「ついで」のひととき
旅行者に情報を提供するには、いつ、どんな方法で行うのがよいのか。旅行者が実際に参考にした情報源、情報を得たタイミングを尋ねたデータから、着地での情報提供に最適な方法を探ってみた
地元発の情報誌やチラシ クチコミ情報が活用度大
図6は、旅行者が目的地に着いてから利用し、「参考になった」と感じた情報源は何かを挙げてもらった結果だ。目立つのは、チラシ、小冊子、割引チケット、地図、旅行情報誌といった「紙」メディアの活用度の高さ。自ら持参したとみられる旅行専門雑誌や旅行ガイドブックよりも、現地で入手したメディアのほうが活用されている点も見逃せない。
もう一つ注目すべきは「人」への依存度の高さだ。中でもとくに多いのは、「ホテル・旅館など宿泊施設の従業員」を情報源としたケース。このことは、情報を入手するタイミングとも深い関わりがある。情報を人手したタイミングで最も多いのは、「宿泊施設でチェックインした際に」で、着地で情報を得た人の3割以上。宿へのチェックインという、必ず発生する手続きのついでに情報収集している人が多いのだ。同じ「人」でも、観光案内所のスタッフ以上に宿泊施設の従業員に頼る例が多いのは、情報収集がこのような「ついで」のタイミングで行われていることの証とも言えるだろう。
目的地で情報源に接触し、それを活用した人のうちでは、紙メディア利用者は約4割、人に頼った人は約3割。しかし、真の最多回答は「情報には接触していない・覚えていない・わからない」で、全体の3割以上を占めることにも気をつけたい。これまで見てきた情報提供の重要性を考えると、改善すべき事態だといえるだろう。ちなみに、現地の紙メディアや人は、「想定外の体験」や「すきま時間の活用」「地元の人とのふれあい」など、「非常に満足」につながる体験の情報源としての利用率が高いという結果も出ている。これから取り組むなら、まずはここから着手してみるとよいのではないだろうか。
ITよりクチコミに軍配 ただし若年層はITも活用
今すぐIT環境を整えるの難しくても、まずは人が積極的に情報提供をするこ
とで満足度アップは図れるということだ。同時に、IT環境を整え、旅行者の主体性に任せて情報収集してもらうだけでなく、着地側から働きかける情報提供も求められているのだということを肝に銘じておきたい。
金沢ニューグランドホテル(じゃらんnetより)
事例 着地で伝えて満足度アップ! 技アリ情報伝達事例
いざ着地から情報発信するとなると、誰が主役となって進めるのか、どのように情報を集め、どのように形にすればよいのかと悩みは多い。すでに情報発信に取り組んでいる事例をもとに、その解決方法を学んでみよう
技アリ情報伝達事例①
地元出身スタッフの手書きマップを宿泊プラン予約者の分だけコピー配付
金沢ニューグランドホテル 客室数/215室 従業員数/100名
金沢ニューグランドホテルの技アリ
内容 想定外の体験
金沢っ子であるスタッフが選ぶ、ガイドブックには載らない情報が、旅行者にとっては計画の変更に役立ち、「想定外」の体験を生む
伝えたツール A4用紙1枚のマップ(6種類)
旅行者が手に持って歩きやすい1枚もののマップ。スタッフ自ら手描きしたものなので、コストもほとんどかからない
伝えたタイミング チェックイン時または部屋への案内時
できる限りチェックイン時のフロントで作成者自身が説明を添えて手渡すが、難しい場合は客室への案内係が案内時に手渡す
技アリ情報伝達事例②
クーポン付き地元観光情報誌を制作し 組合加盟宿の全4000室に配置
河口湖温泉旅館協同組合 加盟宿/23施設
河口湖温泉旅館協同組合の技アリ
内容 想定外の体験、お得な情報
目指すのは一般ガイドに載らない地域ならではの情報の紹介。割引等のサービスを設け、本誌を手にした人にだけのお得感も演出
伝えたツール フリーペーパー(B5版28ページ)
持ち歩きやすさを考えたサイズで発行。実制作は広告代理店に依頼するため費用はかかるが、広告収入でプラスになっている
伝えたタイミング 客室で過ごす時間、食事時など
組合加盟宿の全客室に配置。さらにあらゆる「ついで」の機会に手にしてもらうため、飲食店や立ち寄り施設にも置いた
引用は、以上である。冒頭に掲げた「
着地型観光というコンテンツと、旅行者の情報接触タイミングにあわせた情報発信の両輪が実現すれば、結果として、地域滞在時間が増え、満足度は上がり リピート意向も高まる」(とーりまかし的考察)の意味が、よくお分かりいただけたのではないだろうか。織田裕二の「事件は現場で起きている」ではないが、「お客の満足度を左右する行為は、現場で起きている」のである。
私にも、こういう経験はよくある。最近では
「ホテルのせ川」(野迫川村)、
「吉野荘 湯川屋」(吉野町)、
「ホテルかみきた」(上北山村=現在閉鎖中)などでこのような体験をしたが、ダントツは、やはり7年前(2005年)に泊めていただいた
「民宿あおば」(天川村)である。当時、県が「『もてなしの心』に触れた提言・体験談」を募集していたので、私はこんな体験談を書いて応募し、思いがけず「もてなし賞」をいただいた。
「民宿あおば」の外観(楽天トラベルのホームページより)
「もてなしの心に触れた事例」と聞かれて、まず思い出すのは天川村での体験である。今年(05年)8月末近く、遅い夏休みを取ってこの村を訪ねた。家族との日程調整がつかず、思いがけない3日間の気ままな一人旅となった。村ではずいぶん多くの方のご厄介になった。総合案内所の職員さん、「栃尾観音堂」のご近所さん、「みずはの湯」の常連さん……。
なかでも特筆すべきは、3日間お世話になった「民宿あおば」(吉野郡天川村北小原24)だ。浪花っ子のご主人は、都会人の目線で、この世界遺産の村の素晴らしさを語って下さった。地元出身の女将さんの手料理は、とても美味しかった。アマゴの塩焼き、名水豆腐に刺身こんにゃく、それに地場の野菜を使った郷土料理の数々。自家製のトウモロコシやスイカは、とろけるように甘かった。
「民宿あおば」の洋室(同民宿のホームページより)
夜、ご主人から「星を見ませんか」と誘われた。表に出ると、澄みわたった満天の星空に天の川、そこに幾筋もの流れ星。夜風に乗って、川のせせらぎと虫の声が聞こえて来る。いつまで見ていても見飽きなかった。あんなに長い時間、星空を眺めたのは何年ぶりのことだったろう。翌日はご主人の薦めに従って、観音峰という山に登ることにした。女将さんは昼食のおにぎりに、名水のペットボトルとおやつの「ゴマせんべい」まで持たせてくれた。頂上では、開き始めたススキの穂が風にゆらゆら揺れていた。涼風に吹かれながら食べたおにぎりの味は、格別だった。
同民宿名物・
朴の葉寿司(同)
訪れた土地の生活文化を体験するのが旅行の醍醐味だとは常々思っていたが、今回の旅は、まさに目的にかなったものとなった。思えば最近は、宿泊といえばマニュアル対応のリゾートホテルや会話がなくてすむビジネスホテルばかりだった。久々に心のこもった歓待を受け、どこかに置いてきた忘れ物を突然思い出したような気持ちになった。今度は家族を連れて再びこの村を訪れよう、そして「民宿あおば」に泊めていただこう、と今から楽しみにしている。
栃尾観音堂(天川村大字栃尾)に4体の円空仏があることや、観音峰がこんなに登りやすい山であることは、ガイドブックを読んでいてもなかなか分からない。ましてや、こんなに星がきれいだったとは…。
私はわりと調べてから旅に出るタイプであるが、現地情報も大事にする。「とーりまかし」に出ていたように、現地のパンフレットや、女将さんやご主人からのクチコミは、とても有り難い情報源であるし、こうして地元の方と話すこと自体が「旅行の醍醐味」なのである。
「民宿あおば」はその後、楽天トラベルで5つ星を獲得し、今、ネットを見ると、楽天トラベルの「全国 人気ホテル・旅館ランキング(総合)」で5位、「全国 一人旅向け 人気ホテル・旅館ランキング(総合)」では3位、そして
「全国 一人旅向け 人気民宿・ペンションランキング(総合)」では、堂々の全国1位!なのである。ご夫婦は今に至るまで、毎年「朴(ほお)の葉寿司」を送ってくださるし、先日は久々に奈良市内で再会した。バスで奈良市に来られた折、スケジュールの途中でわざわざ足を運んでくださったのである。
あまり書かない方が良いのかも知れないが、「民宿あおば」には堂本剛が泊まりに来たそうで、今でもステージトークで「天川村の民宿では、よくしゃべるおばさんがいてね…」などとネタにしているそうである。よほど印象に残ったのだろう。天河大辨財天社(天河神社)は、芸能の神さま・市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)をお祀りするので、芸能人には縁が深いのだ。
最後にもう一度、要点を掲げておく。
Step1.着地での情報収集の充実度が旅の満足度を左右する
Step2.すきま時間の活用、旬な体験、想定外の楽しみが差をつける
Step3.有効なツールは「紙」と「人」勝負タイムは「ついで」のひととき
「リピーターの増加」が、観光地活性化のカギである。県下の宿泊施設は、ぜひこの3点を励行し、リピーターを引きつけていただきたいと思う。
長岡さん、貴重な情報をご提供いただき、有難うございました!