tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

吉野山灯り10周年記念フォーラム

2008年09月30日 | 林業・割り箸
9/27(土)13:00~16:00、県橿原文化会館で開かれた「吉野山灯(やまあか)り10周年記念フォーラム」(基調講演とパネルディスカッション)に参加してきた。フォーラムには、業界や行政の関係者、一般消費者など約170人が出席した。テーマは「木の住まいと吉野の森」だ。
http://www.biz.yoshino.jp/akari/010c/10_f.htm

事前にいただいたパンフレットには《木を大好きな日本の人々 その木が私達の暮らしの場から遠ざかりつつあります。その一方で日本の山や森では沢山の木が放置されています。木の好きな人々の暮らしに、木を近づけるために 私たちは何ができるでしょう?》とあった。単に木の家をどう売るかということではなく、相当根源的なところから問題提起されている。

冒頭、吉野山灯り実行委員会の中井神一会長に続き、吉野町長の北岡篤氏が挨拶(写真)。《吉野は「モノが良いから売れる」と高をくくり、川下の先(エンドユーザー)のことを考えてこなかった。その間にブランド力に劣る他所は、懸命に創意工夫して頑張っていた。林材業が元気にならないと、吉野は元気にならない。素晴らしい吉野材をどう売っていくか、今日のフォーラムで考えていただきたい》と語った。


挨拶される北岡町長

■基調講演…千田要宗氏(せんだ・としむね (株)飛行船スタイル代表)
千田氏(=冒頭の写真)は、大阪でプロダクトデザイナーの仕事をされ、週末には上千本(吉野山)の工房で、山灯りの作品を制作されている。

氏は、これまで手がけられた仕事をスライド上映しながら、《吉野は「優美」という言葉がよく似合う。京都は「優雅」だ。また京都のハレ(晴=非日常)に対し吉野はケ(褻=日常)、「雅(みやび)」でなく「俚(さとび)」だ》。

《自然材と人間の知恵をうまく組み合わせることが大切》《マンションのクローゼットや下駄箱はビルトイン(作りつけ)されているが、これは日本の発想だ。押し入れも床の間も、ビルトインだ》と語り、自ら考案した、壁に引いたレールの上に引っ掛ける形の家具などを紹介された。

■パネルディスカッション 
コーディネーターは千田氏。パネラーとプロフィール(会のHPより抜粋)は、
○栗本修滋氏…㈱共同設計企画(栗本技術士)
社会と自然の共生や森林生態など自然環境に関する分野の専門家。日本全国の森林・林業に精通。
○阪口浩司氏…坂口製材所代表
木材の天然乾燥や品質管理した材の提供等。次代の先を見据えた経営で吉野の製材業を牽引。
○福井綱吉氏…㈱ケイ・ジェイ・ワークス代表
日本の風土に似合う国産材による木造在来住宅の設計・施工に携わり、木の暮らしをトータルに提案
○坂本良平氏…吉野中央森林組合専務理事
林業家・森林インストラクター・山灯り実行委員会創設時のメンバー。森林環境保護活動等を企画・運営。

吉野林業の歴史を振り返った坂本良平氏の話が面白かった。《安土桃山時代~江戸初期にかけて、城などを建てるために日本の森は乱伐された。近江に良材がなくなったため(仕方なく)急峻な吉野の木を伐った。大台ヶ原という日本有数の多雨地帯を控えた吉野の材は、脂が乗って腐りにくい、耐久性のある良材だった。そこで大規模な伐採が行われ、人工造林が実施された。伐採・造林を一体的に行ったのは、吉野が初めてだった》。


坂本氏(右)と福井氏

《間伐材は、数寄屋建築の材料となった。70~80年物の材は樽丸(酒樽用の木)になった(用途と施業が一体だった)。吉野の木は筏で和歌山へ流していたが、明治になって、吉野町で引き揚げて製材・加工するようになった。鉄道も開通し、全国へ出荷された》。

製材業の阪口浩司氏は《市場の「吉野材は値段が高い、ほしいものがない」という声に耳を傾けてこなかった。材を見ず、寸法と等級だけで売っていた。エンドユーザーのことを考えてこなかった。20年前から出てきた「木材乾燥」の問題についても、これを聞き流した地域ときちんと対応した地域で、(産地間競争の中で)大きな差がついた》。


阪口氏(右)と栗本氏

「木材乾燥」の問題とは、乾燥していない木材を使用して家を建てたり製品を作ったりすると、完成後に乾燥が進み、不具合が生じる。これを防ぐためには、十分乾燥させた材を使わなければならない。材の収縮や寸法の狂い、反り、ワレ・ヒビは乾燥する過程で発生するものなので、乾燥させた木材はそのような現象は起きず、安定した製品となるのだ。逆に未乾燥材を使用して何か製品を作ると、作った直後は問題がなくても、時間の経過により乾燥が進み、寸法の変化や反り、ワレが生じる。家の柱や壁などに使用した場合は、大きな問題となりクレームとなるのだ。
http://www.mokunokai.jp/sumaikagaku4.htm

千田氏は《外材は安いから売れているのではなく、洋風住宅にマッチしているから売れているのだ。ヨーロッパでは、やたら楢(ナラ)の木を使う。日本で多用する杉は、英語で“Japan Wood”という。鉄が高騰している今、3階建て住宅を木造で作る家が増えている》。

栗本修滋氏の話は具体的だ。《林野庁は岐阜・愛知・三重に巨大生産・流通基地を設ける計画だが、残念ながら吉野は入っていない。昨年、近畿の100~150の社寺で「神仏習合の巡礼ルート」を作るという計画が発表された。改修が必要になる社寺が多いから、吉野にとっては大きなビジネスチャンスとなるが、誰かこれに伴う改修計画を調査しただろうか》。
※参考:「神仏習合」巡礼ルート、近畿の100社寺で今秋創設(07.1.5付 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/tabi/news/20070105tb04.htm

千田氏の《今の時代は、同じことをしていては生き残れない。製材業者は、規模の小さいことを活かして、多様な活動をした方が良いのでは》という問題提起に対し、阪口氏は《吉野の製材業は、小規模だから生き残れた。コスト競争に加わらず、技術で勝負してきた。「吉野材センター」ができてから、意識が高まった。「ここなら、必要な材が全部すぐ揃う」ということを発信し続けたい》。

なお吉野材センターとは、吉野製材工業協同組合傘下の約100社によって、1974(昭和49)年に建設された木材製品市場(倉庫・展示場も備える)。共同取引を進め、吉野材の品質管理・販路拡大を行い、流通機構の合理化に努めるなど多様な機能を発揮している。
http://www.yoshino-wing.jp/

質問タイムになって、会場から3人の質問を受けることになった。2人はすぐ手を挙げたが、3人目がなかなか出てこない。で、私が日頃から疑問に思っていたことをぶつけてみた。

それは「外材と国産材の比率は8:2になり、材価はこの20年で1/3になった。しかも、今や世帯数より家の戸数の方が上回っている有様だ。こういう状態なのに、吉野で新たな動きが見られないのは、“またいつか、高度成長期のような良い時代が来るだろう”と高をくくっているのか。そうでなければ、高いプライドが邪魔になって身動きがとれないでいるのか」という質問だ。買い手は「国産材は高いから買えない」、売り手は「国産材は安いから伐り出せない」と、いつまで経ってもにらめっこだ。

栗本氏から回答があった。《危機感がないのは事実だ。材の販売価格が下がると、販売業者はその値下がり分を山主に負担させている。つまり、販売努力をしないで川上へ川上へとしわ寄せしているのだ。先ほどは社寺改修計画の話をしたが、もっと販売努力をすべきだ》。なるほど、これはありえる話だが、とても情けない。立場の弱い者をいじめているのだ。林業経営が厳しいはずだ。


見事に手入れされた杉の人工林(川上村高原地区)

この日のフォーラムを聞きながら、所どころで思い出したのが、田中淳夫著『森林からのニッポン再生』(平凡社新書)の「日本林業が没落した本当の理由」のくだりである。

《林業関係者が「日本の林業が不振になった理由」として口にするのは、たいてい「安い外材に押されたこと」と、「日本の山は急峻だからコストがかかること」だろう。(中略) だか、これははっきり言ってウソだ。実は、外材は決して安くない。国産材の値段とさして変わらない。いや、むしろ国産材より高いのである》(同書)。

山元(やまもと)価格では、国産材の方が外材より安い。しかし、流通と加工コストが高いので、建築現場に着く頃には、外材より高くなっている。日本は林道が未整備で、また高性能機械が普及していないため、効率が悪いのだ。《多くの外材は、不当に安いわけではない。日本とは比べ物にならない合理化ときめの細かい経営により、低コストで利益が出る構造を作り上げているのだ》(同)。

国産材が売れない理由に、乾燥度の違いがある。《現場で最大のポイントとなるのは、木材の乾燥度である。(中略) ところが国産材の中の乾燥材の割合は、いまだに2割に達しない》(同)。ハウスメーカーは《クレームの出ない家にするために、建築後に変化することの少ない素材を使いたくなる。それは完全に乾燥させている外材であり、エンジニアードウッドと呼ばれる工業化された木材だ》(同)。

《そのうえ日本の木材業界はユーザーの求める商品を出荷していないという。住宅1つとっても、斬新な機能や構法が次々と登場して、それに合わせた新しい木材のニーズが発生している。にもかかわらず国産材には、それらのニーズに対応した商品がない》(同)。また供給の安定性も問題だ。《現場の大工に、国産材を使いたくない理由を尋ねると、「安定供給されない」ことだといわれた》(同)。

何だか、『森林からのニッポン再生』の話のウラをこのフォーラムで取ったような具合になった。

コーディネーターの千田氏は、「自ら“変わる”ことが大切」と訴えたが、このような流通・加工、品質管理、供給という問題は、変えようと思えば変えられることばかりである。冒頭の北岡町長ではないが、林材業が元気にならないと奈良県が元気にならない。われわれ消費者としては、伐採→植林→保育・間伐→伐採のサイクルがうまく回るよう、もっと木を使わなければ。
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大阪のモツ鍋「暁-AKATSUKI-」

2008年09月28日 | グルメガイド
お取引先のYさんに、美味しいお店にお連れいただいた(9/18)。梅田の「暁(あかつき)」という鍋専門店である。

太融寺町北側の「北区神山町」にあり、建物は昭和初期の洋風建築だ。もとは個人病院だったそうだが、よく焼け残ったものである。表に「白鍋…1800円 赤鍋…1800円 アサヒ熟撰…550円」という蛍光灯の看板が出ている。

入ると、だだっ広い畳の大広間があり、厨房は薬剤部のような場所にある。壁には、芸能人のサイン入り色紙が50枚近く貼られている。お笑い系や若いタレントの名前が目立つ。

ここの名物は、日向赤鶏で取ったスープの「白鍋」と、そこに四川風の「辛味ダレ」を加えた「赤鍋」だ。最初に白鍋→タレを加えて赤鍋、という食べ方もできるが、この日は7人の大所帯だったので、最初から白と赤の2つの鍋が運ばれてきた。



グラグラと煮立ってきた白鍋のスープをひと口、じんわりと美味しい鶏スープだ。あっさりとしているのに、鶏の旨味が凝縮しているのだ。味付けの塩は、ミネラルたっぷりの内モンゴル「天外天塩」だそうだ。具の鶏肉も豚肉(岡山県の「大山餅豚」)もてっちゃん(牛のシマ腸)も、新鮮でとても美味しい。ニラやタマネギにも、肉の味がよくしみ込んでいる。ポン酢をふりかけても良い。



次に、隣の赤鍋をひと口。これは辛い! ニンニクがよく効いている。私には辛すぎるので、白鍋のダシを半分加えると、ちょうど良い具合になった。てっちゃんは赤鍋によく似合う。これはまさに「大阪のモツ鍋」だ。
http://blog.kansai.com/maa/500


上が馬刺し

一品の馬刺しは、サシが入りトロリとした絶品だ。少しニンニクをつけていただくと、口の中で馬が暴れ出すような趣きがある。豚肉とキャベツがたっぷり入ったふわ卵(600円)は、鍋の合間に食べるのにちょうど良い。従業員の応対も、てきぱきとして気持ちがいい。


ふわ卵(キャベツ入りのとん平焼)

途中、トイレを使ったが、まさに昔の医院のトイレそのもので、とても懐かしい思いがした。

こういうお店は、残念ながら奈良にはない。ワイルドな大阪のパワーを象徴するような店だ。若い芸人はここで元気をつけて、明日のステージに立つのだろう。いかにも大阪に似つかわしいお店である。

翌日、家内や同僚からさんざん「ニンニク臭い」と言われたので、赤鍋は休前日に限るのが良さそうだが、これからの鍋の季節には自信を持ってお薦めできる店である。
Yさん、有り難うございました。

※ホットペッパーの同店サイト(クーポン付き)
http://www.hotpepper.jp/A_20100/strJ000017116.html
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吉野ハート プロジェクト

2008年09月27日 | 林業・割り箸
関係者から、こんな話を聞いた。吉野の林業はじめ地域産業の活性化をめざす「吉野の地域産業を発展させる会(仮称)」の発足説明会が、10/4(土)14:30~17:00、大淀町文化会館(小ホール)で開かれるという。

設立発起人は内原商店(箸問屋)、瀬上林業、中神木材とハートツリー株式会社。前3者は地元業者で、ハートツリー㈱は東京の企画・マーケティング会社である。

ハートツリー㈱の服部進社長は、大塚の「SOY JOY」の企画などで知られる著名なマーケターである。同社はすでに「Yoshino Heart(吉野ハート)プロジェクト」を立ち上げている。

HPによると、同プロジェクトの趣旨は、「木(き)づかい」により森林に資金を環流させ、森の整備→伐採→植林という好循環を回すことだという。木材の用途は、家具、建材、紙(間伐材を使った「3.9ペーパー」)などが考えられるが、まずは「割り箸」から着手するのだそうだ。
http://heart-tree.com/index.html



「吉野」は東京で著名なだけでなく、全国・全世界的なブランドだという。このブランドを冠した木製品などを普及させることで吉野をPRするとともに、疲弊した林業を再構築する。同社は、「Yoshino Heart」ブランドの商標登録も申請しているそうだ。

10/4の説明会は、『割り箸はもったいない』の著者・田中淳夫氏の基調講演「日本の活性化は割り箸から!」に始まり、ハートツリー㈱からの概要説明、賛同企業(「かごの屋」のキンレイなど)および来賓(吉野・大淀・下市の各町長)の挨拶などが行われる。現在、地元の製箸業者、林業家、箸問屋などを中心に参加を呼びかけているという。


川上村高原(たかはら)の森林 9/1撮影

行政も注目しているそうなので、大きな動きに発展しそうな予感がある。報道機関には情報が伝わっていない模様で、新聞などで紹介されないのが残念である。

「Yoshino Heart」プロジェクトが、果たして疲弊しきった吉野林業の救世主になるかどうかは、今後の地元の協力次第だが、暗いニュースの多い過疎地には、久々の明るいニュースだろう。「吉野のココロ」を全国・全世界に、という構想は、なかなか地元ではできないグローバルな発想だ。県民として、とても嬉しいし期待が持てる。説明会は次の土曜日なので、参加してみて、経過は当ブログで紹介することにしたい。

※説明会の問い合わせ先:ハートツリー㈱ 興津(おきつ)氏
 ℡03-6403-5399(FAX03-6403-5455) E-mail:seiroku@heart-tree.com

※冒頭写真は、吉野町宮滝(6/1撮影)。
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観光地奈良の勝ち残り戦略(19)地域間競争の中でどう生き残るか

2008年09月25日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
9/19(金)、(財)南都経済センター主催の「第33回ならやまセミナー」が県社会福祉総合センター(畝傍御陵前)で開催された(13:30~17:00)。商工団体や観光関連業者、行政関係者など53人が出席した。

この日のテーマは「地域間競争の中で、観光地・奈良はどう生き残る~平城遷都1300年祭に向けて~」だった。セミナーは2部構成で、第1部は村田武一郎氏(奈良県立大学地域創造学部教授)の基調講演、第2部はパネルディスカッションだ。

1.基調講演「訪れてくださる方々との信頼関係づくり」
同センター・奥村理事長の挨拶に続き、村田氏が演壇に立った。いきなり「今日のテーマは“観光地・奈良はどう生き残る”ですが、奈良は生き残れません!」という先制パンチ。同氏の紹介する各種調査結果は、惨憺たるものだ。


いつもシニカルな村田武一郎氏

まず入込客が少ない。青森県の4841万人(人口の約34倍)に比べ、奈良県は3500万人(人口の約25倍)。宿泊客は入り込み客の9.7%の340万人(国交省調査によれば、わずか3.3%の117万人)に過ぎない。

日帰り客(日本人)の消費額も少なく、奈良県3140円に対し、京都6100円、神戸は8800円に達する。お客のニーズが分かっていないから、サービスが提供できないのである。

観光の形態は、これまでの「名所旧跡めぐり中心の非日常型旅行」から、「テーマ性の強い生活体験型旅行」に移行する(社会経済生産性本部 余暇創研)。しかも「社寺参詣」「遺跡・文化の鑑賞」という観光行動は、過去10年間で2~3割も減っている(全国旅行動態調査結果)。

奈良の問題点は「県内各地の資源・魅力を活かしていない」ということだ。1~5万人×100か所という規模の観光交流地を作らなければならないのだ。10カラットのダイヤモンド1個より、0.1カラットのダイヤ100個が大切、ということだ。良いお手本として、高取町の「町家の雛めぐり」を挙げられた。

観光客の満足度調査を見ると、不満が多いのは、美術館・博物館の「もてなし対応」、飲食店、みやげもの店、まち・むらの「値段」、史跡・公園、飲食店、みやげもの店、まち・むらの「案内表示」だった。

観光資源は持っているだけではダメで、情報発信→マスコミによる報道→興味を持つ人が訪れる→交流・意見交換→評価→誇り→情報発信、という好循環を回さなければならない。つまり「訪れて下さる方々との信頼関係づくりが大切だ」として、講演を締めくくられた。

2.パネルディスカッション「観光地・奈良の魅力づくり~平城遷都1300年祭に向けて~」

第2部は、コーデイネーターが麻生憲一氏(奈良県立大学地域創造学部教授)、パネリストは野村幸治氏(高取土佐街なみ天の川計画実行委員会代表)、松本辰雄氏(奈良交通株式会社常務取締役)、一柳茂氏(平城遷都1300年記念事業協会事務局次長)というメンバーだった。


コーディネーターの麻生氏。左は南都経済センターの武村氏(司会)

最も印象に残ったのは、野村氏の発言だ。野村氏は1942年生まれ。証券会社で勤務され、東京・大阪・名古屋などで単身赴任生活を送られた後、02年に故郷の高取町に戻ってまちづくりの活動を開始した。高取のまちづくりのことは、私も当ブログで少し触れたことがある。野村氏は、高取町を訪れる観光客を「ゼロから3万人にした男」として知られる。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/1bfbc687d05faff4b89797599dd3735a


野村氏だけは、マイクが要らない

氏によれば、《「通過型の観光」は観光ではない。観光で大切なのは、いかにおカネを落としていただくか。「観光客数×1人当たりの消費額=観光消費額」だが、観光客数を増やすにはキャパの問題がある。だから「観光客1人1人に、いかにおカネを使っていただくか」が大切。そのためには、正確なデータを把握しておかなければならない》。
http://www.hinameguri.jp/


高取藩の下屋敷表門が移築された医院(高取町下土佐)


壺阪漢方堂薬局(高取町観覚寺)

驚いたのは、このデータだ。野村氏は、「雛めぐり」イベント開催中(3/1~31)の観光客数(「雛の里親館」の来館者数)を毎日カウンターで正確に計り、その日の天候・気温を付記して一覧表にまとめたという。大手コンビニも顔負けの「データベース・マーケティング」だ。それで、平日か土日か、という違いより、「晴れか曇り・雨か」「暖かいか寒いか」「風は強いか弱いか」という違いの方が客数に影響するということが分かった。つまり、天気予報を見れば翌日の客数が読める、それに従って準備をすれば良いわけだ。

アンケートも取っていて、それによると「楽しかった」が94.8%。訪れた人の79.8%が「女性」。しかも78.5%が「50代以上」というおばちゃんだ。おばちゃんなら土日は関係ないし、寒さや雨は苦手だろう。このイベントのことは「口コミで知った」が38.6%「新聞雑誌」が26.7%「ならリビング」(奈良新聞社発行の折込PR紙)が20.4%。住まいは「奈良県内」が74.1%だったという。

また野村氏は、会場からの質問に答えて《これまで、既存の組織(観光協会、商工会など)は一切使わないで来た。町からは、おカネももらっていない。時間だけはたっぷりあったので、町内の1人1人を(免許がないので)自転車で訪ねて話をした。だから「全体会議」のようなものはしたことがない。話をするとお年寄りは喜んでくれる。雛めぐりでも、「観光客と話ができる」とお年寄りにとても喜んでいただいた》。お年寄りの生きがいづくりという「社会福祉」面でも、ひなめぐりは有意義だったようだ。



このほか奈良交通の松本氏は《これからは生活体験型の観光が主流になり、町がそのまま観光業になる。「着地型観光」も増えるので、ぜひわれわれ事業者をうまく使ってほしい》と話された。ボランティア団体などと連携しようとしても《「つなぎ」の機能がどこにもないので、誰に頼んで良いのか分からない》ということだ。これは、やはり当ブログでも書いた「ランドオペレーター」が必要ということなのだろう。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/fa0f7a902e18a70a7670b2d99ed017aa

1300年協会の一柳氏は《高さ制限や発掘調査が嫌われて、ホテルが少ないのがネックだった。「奈良でイベントをすれば、京都・大阪が喜ぶ」という構図だ。リピーターを求めるという考えがなく、「もてなし」はなおざりにされてきた》という。このほか氏は、1300年祭の最近の動きを紹介された。最後にコーディネーターの麻生氏は《観光客に迎合するのではなく、住民が喜び誇りを持つことが大切だ》と締めくくった。

それにしても、とても有意義なセミナーだった。予想どおり、野村氏の存在感が突出していた。いつもシニカルな村田氏の発言もサエていた。単発の講演会ではなく、奈良を代表する5人の話が同時に聞けるという、ぜいたくな機会だった。

超有名人の話や全国的なテーマは、テレビで十分だ。「地元でしか聞けない、地元にしかいない」人の最新の話が聞けるというのが、地元のセミナーの良いところだ。このセミナーも33回目ということだが、次回が楽しみだ。

※冒頭の写真は、橿原市内のコスモス畑(07.10.20 撮影)
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中村てつじ氏の“森林再構築”論

2008年09月23日 | 環境問題
9/19(金)、中村てつじ(哲治)氏の話をお聞きした。中村氏は、奈良県選出(民主党)の現役の参議院議員である。氏の主張の要点は、“地球温暖化と「林業」(中村てつじの「日本再構築」Vol.7)”というA4版1枚のチラシに、分かりやすく出ている。

《京都議定書で定められた日本の削減枠6%のうち、3.8%が森林吸収源だということはあまり知られていません。期限までに3.8%を使い切るためには、あと5年間で間伐を100万ha増やす必要があります。そのために今年5月9日に森林間伐促進法ができました》。

《しかし、間伐促進法ができたからといって簡単には間伐は進みません。(中略) 間伐が進まない最大の原因は、長期間に及ぶ林業の不振により、下がった木材価格(材価)に応じた搬出方法が普及してこなかったからです。例えば、奈良県の林業では、ヘリコプターで木材を搬出していました。森林所有者や材木業者の皆様は、30年前の高かった材価が念頭にあり、下がった材価によって意欲を失っていらっしゃいます》。

森林所有者の代わりに森林作業をするのが「森林組合」であるが、臨時雇用であり、組織的・継続的には取り組めない状態にある。《解決策としては、小規模の森林所有者の土地を集めて管理をする「提案型集約化施業」があります。小口の土地を集めて団地化することで、搬出コストを押さえられる高密度の林道(作業道&私道)を整備することができます》。


間伐材加工センター(宇陀郡・御杖村森林組合 8/14撮影)

《山の稜線に幹線の林道を引くことによって、森林所有者が私道で作業道を引くインセンティブを与えることができます》。幹線さえ引いてやれば、森林作業者が私道を伝って木材を運び込むことができる。そこからは、2トントラックで搬出すれば済むのだ。

幹線的な林道を引くべきは行政の仕事だろうが、肝心の行政は「森林組合の改革が先だ(しかも予算が足りない)」として、林道整備は一向に進まない。これが1つめのネックになっている。

もう1つのネックは、住宅メーカーが国産材を使わないことだ。《世界から選りすぐりの外材が入ってきています。結局、国産の並材よりも倍ぐらいの価格で取引されているのですが、乾燥もキチンとし数量も大規模な注文に応じられる外材に、国産材は対抗できていません。生産から流通まで林業が直面している問題は多岐に及んでいますが、手をこまねいているわけにもいきません》。

確かに生産だけでなく、流通側にも問題が多い。その辺りの改革やマーケティングにより、消費者のニーズを十分把握し、求められるものを提供するという当然の努力が必要だ(この辺りは、田中淳夫著『森林からのニッポン再生』平凡社新書 に詳しい)。

上記2つの問題点を、氏は「政策提言レポート」(1,2)に敷衍(ふえん)してまとめられた。内容は氏のブログに出ているが、このレポートの要点を以下に挙げると、

1.日吉町森林組合(京都府南丹市)は、上記「提案型集約化施業」を実践している。これは森林組合の構成員(=森林所有者)に対して、小規模に分かれている林地を「集約」して「施業(間伐)」することを「提案」するシステムのことである。組合は「間伐の代金がいくら所有者に環流されるか(=間伐材の販売代金+補助金-出材コスト)」を明記して、各所有者と契約を締結している。


丹生川上神社(吉野郡川上村)からの遠望(07.7.24撮影)

2.これにならい氏は、「林地共同所有株式会社」の設立を提案する。現在の森林の荒廃は、森林所有者がコストに見合わないという理由から、間伐をしないところに原因がある。この仕組みでは、まず会社が森林所有者から森林(立木+林地)の提供を受ける(その見返りとして、同社の株式を譲渡する=現物出資)。これにより森林組合は、個別に所有者の了解を取らなくても間伐ができる。所有するだけでなく資産を運用し管理するので、投資事業組合のようなイメージになるだろう。

3.あわせて「幹線林道の整備」を提案する。間伐補助金(間伐促進法により出ている)を作業道(私道)の整備に回すことも考えられる。ヨーロッパで普及している「高性能林業機械の開発」も必要だ。日本の地形や林道の幅に合った機械が要るのだ。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080805

4.なお「林地共同所有株式会社」が森林を買い取る際には、森林の評価が必要となる。現在、森林の評価額は相続税(国税)の評価に任されているが、氏は新たな「森林評価基準づくり」が必要であると提案する。金融機関の担保評価などは「立木の市場単価×本数-出材コスト」で計算していて、これだと「評価ゼロ」になってしまうのだ。地域の実情を踏まえ、不動産鑑定士が行政と共同で基準を作ることになるだろう。

5.住宅については、県産材を使い、奈良県の気候に合った快適な住宅を提供するため、奈良県独自の住宅評価制度の創設を提案する。北海道には「北方型住宅制度」がある。北海道の住まいにとって最も必要とされる「暖かさ」を左右する断熱性能や気密性能を確保するために、道庁はBISという資格制度を作り、この資格者が設計・施工に携わることを義務づけている。奈良県下でこれを実現しないと、ニュータウンがオールドタウン化し、若い世代が奈良に住まなくなる懸念がある。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080817

6.現在あまり知られていない「定期借家制度」(99年創設)の活用を提案する。使わない住宅を賃貸に回せば、まちづくりの活性化になる。これを空き家対策とセットで考える。例えば市町村が固定資産税納付書を送る際に、遠隔地の建物所有者などに、この制度をアピールする。賃貸物件としての住宅価値価値が高まるとことにより、奈良県の住宅市場の活性化につながる。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20080228

全体として、氏の主張は正鵠を射たものである。確かに吉野の森林所有者は《30年前の高かった材価が念頭にあり、下がった材価によって意欲を失って》おり、反面「もう少し待てばチャンスが巡って来るかも知れない」という甘い見通しもあるようだ。しかし、待っていてもチャンスは巡ってこないのだ。

私見では、「林地共同所有会社による提案型集約化施業」が、この状況を打開する起爆剤になるだろう。それがダメでも「林道の整備」と「高性能機械の導入」が進めば、現状は大きく変わる。37歳の中村氏の若いパワーで、この膠着状態にクサビを打ち込んでいただきたいと思う。
中村さん、有益なお話、有り難うございました。

※中村氏の「政策提言」に関する意見や反論が掲載された、森林ジャーナリスト田中淳夫氏のブログ
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2008/08/post_cd0b.html#comments

※冒頭の写真は、川上村高原(たかはら)地区の見事な人工林(9/1撮影)


http://tezj.jp/index.php
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