先日、産経新聞Web版(2024.9.3 7:30)に〈奈良市の観光客数は好調に回復も、経済効果は市外流出〉という記事が出ていた。これは奈良市のニュースリリース〈宿泊客数がコロナ前の2019年超えの174.8万人!(2019年比1万人増)2023年 奈良市観光入込客数調査について【市長会見】(令和6年7月31日発表)〉に基づいて書かれた記事である。
※写真・グラフは、奈良市観光戦略課のHPから拝借した
産経の記事や奈良市のニュースリリースは楽観視しているが、私としてはもう少し慎重に考えている。まずは記事全文をお読みいただきたい。なおアンダーラインと番号は私がつけた。
奈良市は、令和5年(2023年)の観光入り込み客数が1219万9千人①で、前年を31・3%上回ったと発表した。新型コロナウイルス禍前の元年(2019年)の約7割まで回復し、宿泊客数も前年比、元年比とも増で好調。
ただ、経済波及効果は、観光消費額994億7千万円のうち約35%が市外の業者らへの支払いで、観光サービスを支える市内での産業の育成や支援が課題となりそうだ。コロナの感染症法上の分類が5類相当に移行したほか、旅行代金を割り引く全国旅行支援が後押ししたとみられる。
日帰り客数は前年(2022年)比32%増の1045万1千人で、元年比では33・3%減。一方、宿泊客数は174万8千人で、前年比で26・8%増、元年比では0・6%増②③だった。宿泊客数は1~12月の全月で前年同月を上回り、宿泊需要の底堅さを示した。
外国人観光客数は184万5千人。前年の約10倍に膨れ、インバウンド効果が顕著だったが、元年比では44・4%減と回復途中④であることを示した。宿泊者の国籍別では中国が5万4千人でトップだったが、全体に占める割合は20・8%で元年を37・8ポイント下回った。中国政府による団体旅行の解禁が昨年8月まで遅れた影響とみられる。代わって米、台湾、仏などが急増した。
観光消費額は994億7千万円。ただ、経済波及効果の推計では、市外からの原材料購入やサービス料などを除いた直接効果が648億円とされ、差し引き346億円程度が市外へ支払われたとみられる。直接効果から波及する間接的な波及効果を合わせると、全体の経済波及効果は857億円⑤だった。
①入り込み客数(日帰り客+宿泊客)は1219万9千人で、2019年の70%、さほど回復したとは思えない。
②宿泊客数は174万8千人で、2019年よりは0.6%(1万人)増えているが、コロナ禍前のピークである2017年の180万6千人より3%(5万8千人)も減っている。また、コロナ渦中の2022年よりは増えているが、宿泊施設数も増えているので、「宿泊需要の底堅さを示した」とまでは言い切れない。
③宿泊率(宿泊者数÷入り込み客数)は14.3%で、前年(2022年)の14.8%より減っている。
④外国人観光客数は徐々に戻って来てはいるが、肝心の「外国人の宿泊客数」が分からないので、どれだけ消費に貢献したかが分からない。また中国経済が低迷する中、かつてのような「爆買い」は期待できないだろう。
⑤奈良市への経済波及効果は857億円(入り込み客1人あたり7千円)ということだが、これは長年の商慣習など構造的な要因があるので、大幅に増やすことは難しいだろう。
冷静に数字を読めば、上記のようになるだろう。奈良公園や東向商店街に観光客が増えているのは有り難いことだが、もっと「おカネを落としてもらえる仕組み」を作らなければ、「ゴミだけ落として帰る」ことになりかねない。
※写真・グラフは、奈良市観光戦略課のHPから拝借した
産経の記事や奈良市のニュースリリースは楽観視しているが、私としてはもう少し慎重に考えている。まずは記事全文をお読みいただきたい。なおアンダーラインと番号は私がつけた。
奈良市は、令和5年(2023年)の観光入り込み客数が1219万9千人①で、前年を31・3%上回ったと発表した。新型コロナウイルス禍前の元年(2019年)の約7割まで回復し、宿泊客数も前年比、元年比とも増で好調。
ただ、経済波及効果は、観光消費額994億7千万円のうち約35%が市外の業者らへの支払いで、観光サービスを支える市内での産業の育成や支援が課題となりそうだ。コロナの感染症法上の分類が5類相当に移行したほか、旅行代金を割り引く全国旅行支援が後押ししたとみられる。
日帰り客数は前年(2022年)比32%増の1045万1千人で、元年比では33・3%減。一方、宿泊客数は174万8千人で、前年比で26・8%増、元年比では0・6%増②③だった。宿泊客数は1~12月の全月で前年同月を上回り、宿泊需要の底堅さを示した。
外国人観光客数は184万5千人。前年の約10倍に膨れ、インバウンド効果が顕著だったが、元年比では44・4%減と回復途中④であることを示した。宿泊者の国籍別では中国が5万4千人でトップだったが、全体に占める割合は20・8%で元年を37・8ポイント下回った。中国政府による団体旅行の解禁が昨年8月まで遅れた影響とみられる。代わって米、台湾、仏などが急増した。
観光消費額は994億7千万円。ただ、経済波及効果の推計では、市外からの原材料購入やサービス料などを除いた直接効果が648億円とされ、差し引き346億円程度が市外へ支払われたとみられる。直接効果から波及する間接的な波及効果を合わせると、全体の経済波及効果は857億円⑤だった。
①入り込み客数(日帰り客+宿泊客)は1219万9千人で、2019年の70%、さほど回復したとは思えない。
②宿泊客数は174万8千人で、2019年よりは0.6%(1万人)増えているが、コロナ禍前のピークである2017年の180万6千人より3%(5万8千人)も減っている。また、コロナ渦中の2022年よりは増えているが、宿泊施設数も増えているので、「宿泊需要の底堅さを示した」とまでは言い切れない。
③宿泊率(宿泊者数÷入り込み客数)は14.3%で、前年(2022年)の14.8%より減っている。
④外国人観光客数は徐々に戻って来てはいるが、肝心の「外国人の宿泊客数」が分からないので、どれだけ消費に貢献したかが分からない。また中国経済が低迷する中、かつてのような「爆買い」は期待できないだろう。
⑤奈良市への経済波及効果は857億円(入り込み客1人あたり7千円)ということだが、これは長年の商慣習など構造的な要因があるので、大幅に増やすことは難しいだろう。
冷静に数字を読めば、上記のようになるだろう。奈良公園や東向商店街に観光客が増えているのは有り難いことだが、もっと「おカネを落としてもらえる仕組み」を作らなければ、「ゴミだけ落として帰る」ことになりかねない。