tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

田中利典師の「大峯山と金峯山」

2023年10月31日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、「大峯山」(師のブログ 2014.8.29 付)。私もよくご質問をいただくのだが、大峯山は特定の山の名前ではなく、基本的に総称である。同様に金峯山も、総称である。葛城山もかつては総称だったが、今は「金剛山」「葛城山」と、特定の山の名前となった。師の『はじめての修験道』からの抜粋である。
※トップ写真は、田中利典師の勇姿。師のFacebook(10/26付)より

「大峯山」
大峯奥駈というと、大峯山という名前をもつ特定の山があると思いがちだ。このあたりの地理をよく知らない人のなかには、大峯奥駈は大峯山という特定の山を中心に、おこなわれていると信じている人もいるらしい。しかし、地図のどこを探しても、大峯山という特定の山はない。

では、どこを指して大峯山と呼ぶのかというと、広い意味と狭い意味の、2つある。広い意味では、北の端の吉野山から南の端の熊野本宮に至る、1500メートル級の山々がつづく山脈全体を、大峯山と呼ぶ。具体的な山の名前でいうと、山上ヶ岳・弥山・八経ヶ岳・釈迦ヶ岳・行仙岳・笠捨山・地蔵岳・大黒岳などで、どれも仏教にかかわる命名がされている。

狭い意味では、山上ヶ岳の一帯を、大峯山と呼ぶ。ちなみに、この一帯は、いまでも女性が入ることを許さない。いわゆる女人禁制の場所だ。

また、大峯山には、証菩提山とか大菩提山という別名もある。「菩提」というのは、古代インドの言葉だったサンスクリット(梵語)で、悟りを意味するボーディを、漢字を使って音写したものだ。古来、山伏たちは大峯山に入ることで、菩提=悟りを得ようとしたので、証菩提山とか大菩提山という名前がつけられた。

なお、金峯山寺という寺の名前の由来となった金峯山も、特定の山としては存在しない。広い意味での大峯山のうち、吉野山から山上ヶ岳に至るまでの山々を、総称して金峯山と呼んできた。

これらの山々を結ぶ尾根道こそ、まさに大峰奥駈道なのだ。その距離は、すでに述べたとおり、170キロメートルほどもある。そこは、険しい山道だが、同時にこのうえなく美しい姿の山々、鬱蒼たる大森林、澄み切った水の流れる大渓谷が展開する場所でもある。一度でもこの道を歩けば、この一帯が吉野熊野国立公園に指定されている理由を、誰でも簡単に納得できる。それほど、素晴らしい場所なのだ。

そして、この大峯奥駈道を修行の場として選んだ役行者の、さらにそれを受け継いできた歴代の山伏たちの、見識がいかに優れていたか、誰でも実感できる。
『はじめての修験道』(田中利典・正木晃共著/2004年春秋社刊)「第4章 修行の世界」より
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よみがえれ、大和橘 絶滅の危機から再生へ!/奈良新聞「明風清音」第95回

2023年10月30日 | 明風清音(奈良新聞)
奈良新聞「明風清音」欄に月1~2回、寄稿している。今月(2023.10.19付)掲載されたのは「なら橘プロジェクト」、なら橘プロジェクト代表・城健治さんのお話である。
※トップ写真は城健治さん(10/2撮影)。城さんが手にするのは大和橘の葉っぱで、
容器に入れて熱湯を注ぎ、蓋をして20分経つと美味しいハーブティーが出来上がる

日本の固有種である大和橘(やまとたちばな)は、様々な薬効や機能性成分を持つスグレモノだが、生産が追いつかないのが悩みの種だ。大規模な計画的栽培に乗り出してくれる人はいないだろうかと、奈良新聞にこの原稿を書いた。心ある人は、ぜひご協力いただきたい。

なら橘プロジェクト
10月2日(月)、なら橘プロジェクト代表・城健治(じょう・けんじ)さんのお話をお聞きする機会に恵まれた。演題は「よみがえれ、大和橘(やまとたちばな)絶滅の危機から再生へ!」だった。

いただいた名刺の裏には〈大和橘は、かつて日本に自生していた直径3㌢ほどの小さな実で日本の固有種で柑橘(かんきつ)の原種です。『古事記』『万葉集』にも登場するほど古くから存在するものです。垂仁天皇の勅命で、菓子の祖、田道間守(たじまもり)が常世(とこよ)の国から不老長寿の妙薬として大和橘を持ち帰ったとされています。なら橘プロジェクトはゆかりの深い奈良で大和橘を守り広げるために植樹、研究、加工しています〉。

『万葉集』には、橘を詠んだ歌が約70首もあるそうだ。私は田道間守の伝説は知っていたが、「常世の国から持ち帰った」ということなので、中国原産の植物だと勘違いしていた。日本の固有種だったとは驚きだ。 
 
戦前は静岡県から九州の海辺にたくさん自生していたが、炭焼きの材料として伐採されたようだ。三重県鳥羽市答志島の桃取地区には今も自生の大和橘があり、同県の天然記念物に指定されている。

大和橘のデザインは、文化勲章や500円硬貨(裏=数字が刻まれている面)にも使われている。しかし「生息条件の変化によっては、より危険度の高い絶滅危惧に移行する可能性のある種」として、準絶滅危惧種に指定されている。

城さんと大和橘の出会いは、平成23(2011)年。「地元の土産物を作ろう」という大和郡山市商工会の呼びかけで、「産官学金」約20人のメンバーが結集した。当時、奈良信用金庫常務理事だった城さんも、このプロジェクトに参加。しかし、クッキーなど平凡なアイデアしか浮かんでこない。

その時、同市に本社を構える「本家菊屋」社長の菊岡洋之さんが「大和橘を使ってはどうか」と提案。しかし他のメンバーは当時、誰も大和橘のことを知らなかったという。

調べてみると、廣瀬大社(北葛城郡河合町)に5本の大和橘の木があることが分かった。同大社の社紋も、大和橘だった。11月末、たくさんの実をつけた大和橘を目にして、宮司に経緯を話すと、「どんどん持っていってください」。そこで平成24(2012)年、約30人のメンバーで、「なら橘プロジェクト推進協議会」を設立した。



城さんが配布された資料のひとコマ

大和橘の機能性成分を調べてもらうと、果皮には温州ミカンの約20倍のノビレチン(認知症予防・改善効果など)、約40倍のタンゲレチン(抗酸化作用など)が含まれていることが判明した。また香りには、柑橘香だけではなく、スズランの香り成分が含まれていることも分かった。また大和橘には酸味だけではなく、上品な苦味が含まれていることも特徴で、料理に使うと味が引き立つという。

そんな大和橘は評判が評判を呼び、化粧品、香水、医薬品だけではなく、お菓子や調味料、ジンやビールなどの食品にも応用が広がっている。中でも大和蒸留所の橘花(きっか)ジンは、大ヒット商品となった。

城代表は「大和橘を庭に1本植樹して、歴史と文化を身近に感じていただきたい。毎年春には、苗木を当会のウェブショップで販売している。日本の固有種、準絶滅危惧種の大和橘を世界に発信していきたい」と熱く語る。

奈良の宝である大和橘の育成と普及に、ぜひご支援・ご協力いただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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近鉄文化サロン橿原(近鉄百貨店橿原店)で、「奈良まほろばソムリエ歴史講座」11月24日(金)スタート!(2023 Topic)

2023年10月29日 | お知らせ
2023年11月24日(金)から2024年2月23日(金・祝)までの15時半~17時半(各月の第4金曜日)、近鉄文化サロン橿原教室(近鉄百貨店橿原店)で「奈良まほろばソムリエ歴史講座」が開講されます!
※トップ写真は、徳南さんの講演風景(奈良シニア大学で、2022.11.10撮影)

講師は同会のベテラン講師・徳南毅一(とくなん・きいち)さんで、奥深い奈良県の歴史をスクリーン(PowerPoint)を使って、分かりやすくお話しします。カリキュラムは、

11/24(金)大和建国ヒストリー~大和王朝建国の謎に迫る~
12/22(金)奈良の神々と神社~由緒ある身近な神社の紹介~
1/26(金)南都七大寺~栄光の歴史を語り文化財を紹介~
2/23(金・祝)春日若宮おん祭~師走を彩る最高の祭祀と芸能の祭~


ぜひ、お申し込みください!お申し込みはお電話で 0744-25-5421(10:00~17:00)。授業見学(無料)、体験レッスン(有料)あり。詳細は以下のチラシをご覧ください!



コメント (6)
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田中利典師の「山の論理と都会の論理」

2023年10月28日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、先日の「人生の逝き方」から日付を戻し、「山の論理と都会の論理」(師のブログ 2014.8.28 付)を紹介する。日本山岳会創立100周年および同関西支部創立70周年記念講演会で、利典師は「役行者と修験道」という講演をされた(2005年11月 於:高野山大学)。その一部抜粋を、ご自身のブログで公開されたものである。では、以下に全文を紹介する。
※トップ写真は、天川村・観音峯からの風景(2005.8.27 撮影)

「山の論理と都会の論理」
最近、百名山登山とか、中高年の登山が流行っていますが、どうも私は無宗教です無信心ですといった日本人のカルチャー、一神教的な価値観に洗脳されて西洋人と同様に自然を物として見る、畏怖する心を忘れた、そういう心で山との関わりを持つことに、大変な危険を感じています。

日本人はもっと敬虔な思いで自然と関わってきたのであります。山にいくと山の論理に従うことを前提に体も鍛えたし、準備もしたわけでありますが、今は自分達の論理、都会の論理でそのまま入っていくから道に迷って遭難するわけであります。

山に入ると誰も助けてくれません。万一の山岳事故になって、助けようとすると(山岳救助隊や経費やらで)大変なことになるわけであります。そういったことがどうもおかしくなっている。今の日本人はどこか一神教的な価値観の上澄みだけに侵されているところがあって、西洋的な急作りの自分達の勝手な価値観で何でも行ってしまう。

私達の先祖たちはそんなことはしてこなかったはずだと思います。たぶん100年前にこの日本山岳会が設立なった時の先人たちというのは、明治以前のカルチャーをたくさん持った人たちが日本的な登山の形を踏まえて試行錯誤しながらお作りになったんだろうと思います。

今は明治以前のものって本当に少なくなってしまいました。私は、修験の身でございますが、修験も明治に殺されながら、まるで天然記念物のようになりながらも、なんとか生きてまいりました。

そんななかで、今申し上げたような価値観が実は残されているのだということを申し上げているわけです。そういった意味で、これからの日本的な登山のありかたを創造するというのが、大変大事なのではないか、と思うわけであります。

日本山岳会創立100周年、関西支部創立70周年記念講演会・田中利典「役行者と修験道」(平成17年11月 於 高野山大学)より
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珍しい茅葺き屋根の拝殿、天理市の「夜都岐(やとぎ)神社」/毎日新聞「やまとの神さま」第60回

2023年10月27日 | やまとの神さま(毎日新聞)
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は毎週木曜日、毎日新聞奈良版に「やまとの神さま」を連載している。2023.10.12付で紹介されたのは〈夜都岐神社(天理市)/春日大社と深い縁〉だった。執筆されたのは、奈良市在住の久門たつおさんだった。
※紅葉の写真3枚は、夜都岐神社境内で撮影(2005.11.23)



この神社は天理大学「親里(おやさと)ホッケー場」の近くにあるので、ホッケー(南都銀行女子ホッケーチーム)の試合のときに何度かお参りしたことがある。静かなたたずまいで、とりわけ秋の紅葉が見事だった。



また、同行の「萬葉チャリティウォーク」で、「山の辺の道 南コース(天理~柳本間)」として、「同行天理支店駐車場~ 石上神宮~夜都伎神社~ 大和神社~大和神社御旅所~長岳寺~黒塚古墳」というコースを歩いたこともある。では全文を紹介する。



夜都岐神社(天理市)/春日大社と深い縁
夜都岐(やとぎ)神社は平安時代の「延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)」に「岐」ではなく「伎」の「夜都伎神社」と記載されており、現在でも、こう書く資料もあります。

元々、天理市乙木(おとぎ)町には、夜都岐神社と春日神社があり、江戸時代中ごろに夜都岐神社がなくなって春日神社のみが残り、名称だけ夜都岐神社に変更されました。

乙木地区は鎌倉時代初期には春日大社と興福寺大乗院の荘園だったため、春日神社には春日大社の祭神・武甕槌命(たけみかづちのみこと)など4柱が勧請(かんじょう)されました。

また、ハスで作った「蓮の御供(ごく)」を明治維新まで春日大社に供えていた縁で、春日大社の造替(ぞうたい)で古い社殿などをもらい受ける慣行がありました。西にある朱塗りの鳥居は1848(嘉永元)年に春日大社の摂社・若宮神社から移されたものです。

拝殿は入母屋(いりもや)造り(上部は切妻屋根、下部は前後左右に勾配がある寄棟造り)で、県内でも珍しい茅葺(かやぶ)きです。2015年に30年ぶりに屋根が葺き替えられました。春日造り(切妻屋根で、棟と直角な面に入り口がある様式)の本殿は22年にそれまでの桧皮葺(ひわだぶ)きから銅板葺きに新調されました。

天理、桜井両市を結び、日本書紀に登場する「山の辺の道」沿いに神社はあり、ハイキング途中に訪れる人も見られます。(奈良まほろばソムリエの会会員 久門たつお)

(住 所)天理市乙木町765
(祭 神)武甕槌命(たけみかづちのみこと)、経津主命(ふつぬしのみこと)、天児屋根命(あめのこやねのみこと)、日売大御神(ひめおおみかみ)
(交 通)JR・近鉄天理駅から桜井駅行きバスで乙木口下車。東に徒歩約15分
(拝 観)境内自由
(駐車場)なし


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