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透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「朝顔」

2022-05-26 | G 源氏物語

「朝顔 またしても真剣な恋」

 朝顔の姫君は光君のいとこ。姫君は父親(式部卿宮)が亡くなり喪に服するために斎院を辞して、実家(父親の旧邸)である桃園の邸に移り住む。そこにはふたり(朝顔の姫君と光君)の叔母の女五の宮が同居している。光君は叔母に会うのを口実に桃園の邸を訪れる。そこで朝顔の君に長年の思いを訴える。だが、姫君は恋愛ごとに疎く、引っ込み思案。光君の熱心なアプローチにまったく取り合わない。

「朝顔」の帖は次の贈答歌、光君と朝顔の姫君の歌のやり取りに尽きると思う。

**見しをりのつゆ忘られぬ朝顔の花の盛りは過ぎやしぬらむ**(583頁) むかし会ったときのことが忘れられない光君、朝顔のようなあなた、うつくしい盛りはもう過ぎてしまったのでしょうか、と歌で問う。

これに対して姫君は返事をしないとわからず屋のように思われるのではないかと思い、**秋果てて霧の籬(まがき)にむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔  (秋も終わり、霧のかかった垣根にまとわりついて、あるかなきかに色あせた朝顔、それが今の私でございます)**(584頁)と返す。今はもうお互いに恋などふさわしくないほど歳を重ねているという自覚、理性的な判断をする姫君。

光君が姫君に熱心に言い寄っているという世間の噂が紫の上(奥さん)の耳にも入る。光君の心が朝顔の姫君に移ってしまったら、私はどうなるのだろう・・・、と心を痛める。こんなことになることもあり得るのに、安心しきって過ごしてきたなぁと考える紫の上。朝顔の君との件は本気じゃないから安心しなよ、と紫の君の機嫌をとる光君。

雪の夜、物思いにふける光君。人は春の花(桜)や秋の紅葉に心惹かれるけれど、冬の月夜の雪の風景も格別で、これ以上のものはないなあ、と思う。これを興ざめなことの例だと書き残した昔の人は浅はかだと言う。ここで紫式部は昔の人とは書いているけれど、清少納言を意識しているとする説もあるようだ。ほかにも「枕草子」との関係を思わせるところがあるそうだが、調べずに読み進む。

さて、風情ある雪景色を見ながら光君は紫の君に今まで関係した女性について語りだす。藤壺、朝顔、朧月夜、明石の君、花散里。源氏物語にはいろんなタイプの女性が登場する。中には朧月夜の君のように恋に積極的な女性もいる。このあたり、作者の紫式部が読者に回想を促す意図があったのかも知れない。

夫から女性遍歴を聞かされた奥さん、**氷閉じ石間の水はゆきなやみ空澄む月のかげぞながるる (私は閉じこめられているけれど、あなたはどこへも行けるのですね)**(596頁)と詠む。上手いなあ、賢い人だなあと思う。

平安貴族の社会における夫婦の関係は現代とは違うけれど、個々人の心情は今も昔も変わらないと思う。となると、紫の君はつらかっただろうな、と同情する。

その後、光君が藤壺のことを考えながら寝室で横になっていると、夢に藤壺がでてきて、**「けっして漏らさないとおっしゃっていたのに、嫌な評判が明るみに出てしまって恥ずかしく思います。こんなつらい思いをして、苦しくてたまりません」**(596頁)と恨み言。光君は藤壺の供養をする。

この帖を読み終えて「光君の母親さがし 藤壺に実の母親を求めた」とノート(源氏物語用のメモ帳)に書いた。「源氏物語」、この後の展開やいかに・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋

上巻は「少女」を残すのみ。


 


「薄雲」

2022-05-24 | G 源氏物語

「薄雲 藤壺の死と明かされる秘密」

 冬、明石の君は姫君を養女にしたいという光君の申し出を受ける。とまどう明石の君に母親も姫君のためにどうするのがよいか考えるべき、光君を信頼して、養女に出すように助言する。明石の君は泣く泣く受け入れた。これは父親(明石の入道)の宿願でもあった。春先、光君が姫君を迎えに大堰にやってくる。二条院に迎えられた姫君は紫の上になつく。

年が改まり、光君の義父(葵の上の父親、太政大臣)が亡くなる。信頼していた義父だけに光君はひどく気落ちする。さらにその年の三月、今度は藤壺の宮が亡くなる。光君は相当ショックだったと思う。

入り日さす峰にたなびく薄雲はもの思ふ袖に色やまがへる (入り日の射す峰にたなびいている薄雲は、悲しみの喪に服す私の袖に色を似せているのだろうか)(565頁)と光君は詠む。この後、**聞いている人はだれもいないので、せっかくの歌ももったいないことですが・・・・・。**(565頁)と紫式部は書く。このくだりを読んで、司馬遼太郎も小説の中に自分の感想を書くことがあったな、と思う。

この帖にはもうひとつ大きな出来事が・・・。四十九日の法要が済んだころのこと。藤壺の宮の母后のころから祈禱師として仕えてきて、藤壺の宮も尊敬し、親しくしていた僧都(そうず)から冷泉帝は出生の秘密を明かされる。**「まことに申し上げにくいことで、お聞かせ申してはかえって罪にあたるかもしれないと憚(はばか)られるのですが、ご存じでいらっしゃらないのでしたら罪深く(後略)」「幼い頃から心を許してきたのに、何か私に隠していることがあるとは、ひどいではないか」**(566頁) 帝は悪夢のようなことを聞かされ、ひどく動揺する。光君は我が子の出生の秘密が漏れたことに気が付く、極秘だったのに。帝は「実父」である光君に譲位しようとするが、光君は**ぜったいにあってはならない旨を伝えて辞退する。**(569頁)

「薄雲」は尚続く。

秋、斎宮女御(六条御息所の娘・梅壺女御)が二条院に退出する。亡き六条御息所のことが忘れられない光君は女御の御殿を訪ね、御息所の思い出話をする。春と秋、どちらが好きかと光君に問われた女御は**いつとても恋しからずはあらねども秋の夕(ゆうべ)はあやしかりけり**(573頁)と古歌(古今集)を挙げる。なんともすごい教養。2,3の単語を小さい画面上でつぶやくだけの現代人とのこの違い、文化の違い(?)・・・。

光君は息子の奥さんを何とかしたいという衝動に駆られるが、自省、自制する。そう自省して自制。このことが次のように書かれている。**(前略)少々手荒なことをしてしまいたい衝動に駆られるけれど、女御が本当に嫌だと思うのももっともであるし、自身でも、年甲斐もなくけしからぬことだと思いなおし、ため息をついている。**(574頁) 藤壺の時とは違い思慮深さが身についてきたと自覚もする光君。この後、物語はどう展開していくのだろう・・・。

このような長大な物語を構想し得たこと、そして書き上げたこと、やはり紫式部は平安の才女だ。


※ 拙ブログでは引用箇所を**で示しています。ただ、和歌については省略している場合があります。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「松風」

2022-05-22 | G 源氏物語

「松風 明石の君、いよいよ京へ」

 朧月夜との密会が見つかり、処分に先んじて京から須磨へ退去した光君。夢枕に現れた故桐壺院(父親)のお告げで明石へ。わびしい生活だったかと思いきや、その地で明石の入道一家の歓待を受ける。で、入道の娘と結ばれた光君。やがて光君はみごもっている明石の君を残して京に戻り、政界復帰。

さて「松風」

二条院の東の院が立派に造営され、光君は西の対に花散里(なつかしい名前)を迎える。東の対(*1)には明石の君を予定しているが、彼女は身分が低いということから、どう待遇されるのかわからず不安で上京をためらう。それで両親は大堰川(おおいがわ)のほとりに所有する邸を修理して娘と孫娘を住まわせることに。

光君の使者が明石に出向き、説得。明石の君は母尼君と姫君(自分の娘)とともに大堰に移り住む。明石には父親だけが残るということに・・・。

光君は嵯峨野に造営中の御堂を見にいくことを口実に明石の君を訪ねる。そこで初めて我が子の明石の姫君と対面する。今まで離れて暮らしていたことを悔やむ。この時姫君は3歳。

**御方は、光君が明石の夜をちょうど思い出している時を逃さず、あの琴を差し出した。なんとなくものさみしく思っていた光君はじっとしていられずに琴を受け取り、掻き鳴らす。**(540頁) あの琴とは明石の別れで形見にと光君が与えた琴のこと。

変わらぬ音色を聞き、契りしにかはらぬ琴の調べにて絶えぬ心のほどは知りきや(540頁)と光君が詠む。約束通り、ずっとあなたのことを思い続けてきたのです。

かはらじと契しことを頼みにて松の響きに音を添へしかな(540頁)と返す明石の君。

光君は姫君を養女として育てようと考える。帰京して、紫の君(奥さん)に相談。幼い子どもが好きな紫の君はすなおに喜ぶ。実子に恵まれなかったということもあるのかも。

上京した明石の君が育てるのが自然だと思うけれど、なぜ光君は姫君を養女にしようと考えたのだろう。常にそばにいて欲しいと思うほど可愛らしかったから?(*2)いや、ありきたりの恋愛小説ではないのだ。なにかそこには光君の政治的な深慮、先読みがあるのでは。考えすぎか・・・。


*1 西の対と東の対は寝殿の左右(東西)にシンメトリックに配置されている。
*2 岩崎宏美の「ロマンス」が浮かんだ。

1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「絵合」

2022-05-21 | G 源氏物語

「絵合 それぞれの対決」

 「絵合」には政治的な思惑が描かれている、と読んだ。光君は朱雀院が今は亡き六条御息所の娘・前斎宮に恋慕の情を抱いていることを知りながら、前斎宮を冷泉帝(実の父親は光君)の後宮に入れる。前斎宮への思いを断ち切れない朱雀院は香壺の箱などのすばらしい品々を贈る。

冷泉帝にはすでに弘徽殿女御がいて、前斎宮とはなかなかなじめないでいる。ところが彼女は絵が大変上手だったため、絵に興味を持っている帝はしだいに親しくなり、いっしょに絵を描くようになる。このことを知った弘徽殿女御の父親の権中納言(頭中将)は対抗心から名だたる絵師を集めてみごとな絵を幾枚も描かせる。光君も秘蔵の作品を取りそろえる。

絵を集めることを競い合うふたりはもともと気の置けない仲。でもライバル、それも今や政治上の。このことを「絵合」で表現しているのだと思う。

**(前略)それならば帝にいっそうたのしんで(*1)もらえるような催しをして献上しようと光君は思いつき、なおさら入念に集めはじめた。かくして、斎宮女御のところでも弘徽殿女御のところでもたくさんの絵が集められる。(中略)帝付きの女房たちも、絵をたしなむ者はみな、これはどう、あれはどうだと夢中になって評価し合っている。**(517頁)

とうとう藤壺の前で「絵合」を競うことになる。光君が支援する左方、権中納言が支援する右方ふたつのチームに分かれて、それぞれ自信作を出しあい、勝負を繰り返していく。結果は引き分け。で、第二回目が行われることに。優劣つかず、とうとう最後の一番になる。ここで左方は光君の須磨の巻を出す。皆そのすばらしさに感嘆。勝敗が決する。**弘徽殿女御の右方も用心して、最後の巻にはとっておきのすいばらしいものを選んでおいたのだが、光君のようにすぐれた描き手の、心の限り、思い澄まして心静かに描いたものとは比べものになるはずもない。(後略)**(523頁) まあ、誰もが知りたいと思う光君の須磨での生活、心境が描かれているのだから、最後の大勝負、光君の作戦勝ちとも言えるかもしれない。上記したようにこの「絵合」からは須磨から復帰した光君の政治的な基盤が揺ぎ無いものであることを示していることが読み取れる。

『源氏物語』はありきたりの恋愛小説ではない。


*1 筆者(私)の注。訳者の角田光代さんは、普通漢字表記すると思うような言葉をひらがな表記することがある。彼女の小説を読んでこのことに気が付いた。『源氏物語』にもこのことが当てはまるようだ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「関屋」

2022-05-19 | G 源氏物語

 
本のカバーの色を『日本の傳統色』長崎盛輝(京都書院)で調べた。鶸(ひわ)色が最も近い色だった。


「関屋 空蝉と、逢坂での再会」 「関屋」は短く本文は5ページ。

 空蝉はかつて(2帖「帚木」)光君が強引に関係を結んだ人妻。その後、彼女はきっぱり拒否。こうなると恋慕の情を募らせる光君。次の3帖「空蝉」、光君が寝室に忍び込むと彼女は薄衣を脱ぎ捨てて逃げ去っていた・・・。それから12年かな、経ってふたりは逢坂の関で偶然再会というか、すれ違う。

行くと来(く)とせきとめがたき涙をや絶えぬ清水とひとは見るらむ(504頁) わたしの思いなんて光君には届かないだろうという空蝉の嘆き。

やがて老いを重ねた空蝉の夫(伊予丞)は死去。その後・・・、**(前略)河内守(紀伊守)だけが、昔からこの継母に色めいた気持ちを持っていてやさしく振る舞うのだった。**(507頁) 空蝉には継子のあさましい下心が見え見えで厭わしく、またわが身の運命が悲しいものに思われて出家する。藤壺が出家することになった経緯とよく似ている。空蝉は自己抑制が厳しくできる女性だと思う。

本帖の最後の一文は次の通り。空蝉に拒否されて恨めしく思う河内守、**「私を厭わしく思われるあまり、残りのお命もまだ先が長いでしょうに出家なさって、この先どのようにお暮しになるのでしょう」などと言うが、まったくいらぬおせっかいというもの。**(506頁)

わたしにとって今年は『源氏物語』の年。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「蓬生」

2022-05-17 | G 源氏物語

「蓬生 志操堅固に持つ姫君」

 光君が須磨で苦境の日々を過ごしている間、援助を失った末摘花は気の毒なほどさびれた暮らし向きになってしまう。邸は荒廃、蓬や葎(むぐら)が生い茂っている。女房たちも次々と去っていく。それでも姫君は邸や道具の売却を持ち掛けられても拒む。**「(前略)私の生きているあいだに、お邸を手放すなど考えられません。こんなに不気味に荒れ果てているけれど、両親の面影が残っている古いお邸だからこそ、心もなぐさめられるのです」**(483頁)そのような状態の邸に野分の追い打ち、渡り廊下が倒壊し、板葺きの雑舎が幾棟も骨組みだけが残る姿に。なんとも悲惨な状況。  

加えて姫君は**だいじに育ててくれた父宮の考え通り、世間は用心すべきものだと信じて、手紙を送り合ってしかるべき人々ともまったくつきあいを持っていない。**(484頁)読んでいてかわいそうだなと思う。

*****

姫君の叔母の夫が太宰大弐に任ぜられる。叔母は姫君を筑紫に連れて行こうとするが、姫君は頑として受け付けない。光君の来訪を信じているから。

時は過ぎてゆく・・・。翌年の四月、光君は花散里、そう末摘花ではなく別の女性のことを思い出して出かけていく。途中、見覚えのある邸の前を通りかかる。末摘花、光君と再会! 

**その昔、夫の留守に、いらぬ疑いを避けるため、塔の壁を壊して夜中灯りをつけていたという貞淑な女の話を思い出し、その女と同じようにずっと長い年月を過ごしてきたのかと思うと、いとしく思える。一途に恥じらっている姫君はさすがに気品があり、奥ゆかしく思える。この人を援助するべき人として忘れまいと思っていたのに、もう何年もいろいろなことに紛れて忘れてしまっているあいだ、さぞやこの自分を恨んだだろうと思うと、なおのこと姫君が大切に思える。あの花散里も目立って派手にする人ではないので、そちらと比べても大差なく、この姫君の欠点もさほど目立たなかったのである。**(498頁)

「光源氏なんて浮気ばっかし、あたし嫌い」 今時の文学少女の源氏評はこんなところだろうか、でも上掲の引用箇所を読むと情に厚いのかなとも思う。

紫式部は次のように書く。**光君といえば、かりそめの戯れだとしても、平凡な人並みの女性には目も向けず耳も貸さず、世間から、これは、と注目され、忘れがたい魅力のある人たちを求めているのだろうと思われているわけです。しかしながらこんな正反対の、何から何まで人並みにも及ばない人を一人前に扱うのは、いったいどんなつもりなんでしょうね。これも前世の宿縁なのかもしれません。**(499頁)

光君は末永く庇護することを心に誓い、末摘花を二条東院(本文では二条の東の院と表記されている)に引き取る。

変わらぬ心の尊さよ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「澪標」

2022-05-16 | G 源氏物語

「澪標 光君の秘めたる子、新帝へ」

 全54帖(54巻)の長編小説『源氏物語』、14帖「澪標」まで読み終えた。

光君が帰京した次の年の二月に朱雀帝譲位、冷泉帝即位。三月、明石の君に女の子誕生。父親の光君、明石に乳母(めのと)を遣わす。その秋、光君住吉神社参詣。いくつもの願いを叶えてもらったお礼参り。そこで偶然にも明石の君一行と出会う。だが明石の君は言葉を交わすことなく去る。**ふつうの大臣などの参詣の時とは比べものにならないほど格別に奉仕したことだろう。明石の女君はいたたまれない思いで、このような人たちに交じって、取るに足らない自分が少しばかりの奉納をしても、神のお目に留まることもなく、人の数にも入れてはくださらないだろう、(後略)**(466頁) なにもここまで自分を卑下することもないと思うけれど、性格なんだろうか。

御代替わりに伴い、あの六条御息所が前斎宮と帰京する。また一波乱あるのでは、と読み進むと・・・。なんと御息所は急に重い病にかかり出家してしまう。で、娘の前斎宮を光君に託し、娘に手を出さないでくださいね、と言い残して亡くなる。この後、光君は前斎宮を養女にする。そして藤壺の宮と相談して養女を冷泉帝(自分の息子)の妃にしようと考える、朱雀院が彼女にぞっこんなことを知りながら。光君から相談を受けた藤壺の宮は次のように答える。**「(前略)朱雀院のお気持ちを思うと、畏れ多いことでありますし、お気の毒でもありますけれど、御息所の遺言にかこつけて、院のお気持ちには気づかなかったふりをして、入内をおさせになったらいいと思いますよ。(後略)」**(476頁)藤壺のシビアな判断。

『源氏物語』は単なる恋愛小説ではなく、政治的な背景があるということだろうが、なかなかそのようなところまで読み解くことは難しい。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「明石」

2022-05-15 | G 源氏物語

「明石 明石の女君、身分違いの恋」

 前帖「須磨」の最後でいきなり起きた暴風雨が「明石」でも続く。雷も鳴りやまないまま幾日も経つ。都でも同じ空模様。光君のいる寝殿に続く廊に落雷! 仮の御座所でうとうとしている光君の前に故桐壺院(父親)が夢枕に立つ。生前そのままの姿で**「住吉の神の導いてくださるがままに、早く船を出してこの浦を立ち去りなさい」**(413頁)と告げる。このことば、現代語訳だと味気ない。奇遇にも翌朝明石の入道が船で迎えに来る。やはり夢でお告げがあったという。

明石に移った光君。都に残した紫の上を気にかけつつも、明石の君に心惹かれ・・・。明石の君は伊勢に下ったあの六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)によく似ていたというから、光君の好みのタイプだったのだろう。もっとも、光君はかなりストライクゾーンが広いと思うが。

光君のことが好きになれないという女性読者が少なくないというのも分かる。

身分の違いを気にする明石の君、娘に代わり父親が熱心に光君にアプローチ。とうとう二人は結ばれる。やがて明石の君懐妊。都では朱雀帝の夢にも故桐壺院があらわれる。帝は桐壺院と目を合わせてしまったせいか、眼病を患う。更に大后まで具合が悪くなるし、帝の祖父(右大臣)が亡くなる。**「やはり、あの光君が罪も犯していないのにこのような逆境に沈んでいるならば、かならずその報いがあるに違いないと思うのです。かくなる上は、元の位を授けましょう」**(428頁)と考えて大后に話すが、気丈な大后に厳しくいさめられる。だが、ふたりの病は次第に重くなる。で、結局、光君は京に戻ることに・・・。光君、復活!

(追記するかも)


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「須磨」

2022-05-12 | G 源氏物語

2024年のNHK大河ドラマは紫 式部が主人公でタイトルは「光る君へ」とのこと。脚本は大石 静さん。紫 式部を吉高由里子さんが演ずるそうだ。今年を『源氏物語』を読む年と決め、4月から読み始めている。まあ、今年中には全54帖を読了できるだろう。気が早いが、今から平安貴族の暮らしが可視化される大河ドラマ「光る君へ」が楽しみ。

「須磨 光君の失墜 須磨への退居」

 朧月夜との密会が明らかになり、処分が避けられない状況となった光君。自ら須磨への退居を決意。関係のあった女性たちに密かに別れを告げ、三月二十日過ぎに七、八人の近しい従者と共に下ることに。

涙河うかぶ水泡(みなわ)も消えぬべし流れてのちの瀬をも待たずて(涙河に浮かぶ水泡のような私は消えてしまいそうです。いつかお帰りになるあなたとの逢瀬も待たずに)(376頁) 朧月夜から届いた歌。

光君、伊勢の斎宮へも使いを差し向ける。伊勢といえば六条御息所。光君、なんとまめなことか。その六条御息所からも手紙が届く。
うきめかる伊勢をの海士(あま)を思ひやれ藻塩垂るてふ須磨の浦にて(つらい日々を送っている伊勢の私を思いやってくださいね、涙を流していらっしゃるという須磨の浦で)(387頁)

ふたりの女性の性格の違いが和歌からも窺える。当然のことながら「源氏物語」の和歌は紫 式部の作。やはりこの平安の才女はすごいと思う。

*****

光君の須磨下向を知った明石の入道は娘・明石の君に光君との結婚のチャンス到来と張り切る。でも奥さんは懸念を示す。**「まあ、なんてことを。京の人が話しているのを聞きますと、光君さまは尊い身分の奥方さまを大勢お持ちになって、それでも満足せずに、こっそりと帝の御妻(みめ)とまで過ちを犯されたというではありませんか。(後略)」**(399頁)田舎にまでうわさが伝わっているようで・・・。現代小説には、このようなまとめというか解説のような文章を途中で入れることがよくあるけれど、昔も同じだったということかな。

この帖のラストはすごい。三月一日、光君が海辺で心身の穢れを祓う禊ぎを始めると、突然、見たこともないほどの暴風雨に。雷が鳴り響き稲妻が走る。このまま世は滅びてしまうのではないかと人々はうろたえる。明け方になって、光君はぞっとするような夢を見る。このあたりの描写はCGを駆使して派手に描く、今どきの映画のようだ。

紫 式部が優れたストーリーテラーであることが今まで読んできて分かった。まあ、そうでなければ70年にも及ぶ長大な小説を書くことはできないと思うが・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「花散里」

2022-05-09 | G 源氏物語

「花散里 五月雨の晴れ間に、花散る里を訪ねて」

 この帖は短い。読んでいる角田源氏では、わずか4ページ。 橘の花、郭公(ほととぎす)がキーワード。

右大臣方の世。失意の光君、出家のことも頭をよぎる。五月雨が珍しく晴れた雲の絶え間、今は亡き父・桐壺院の妃のひとりであった麗景殿女御の邸を訪れることにする。麗景殿の女御の妹の三の君(花散里)とはかつて逢う瀬を重ねた仲だった。まず女御と桐壺院の思い出話をする。**桐壺院が親しみやすく心の安らぐ人だと話していたのを思い出すと、昔のことがあれこれと偲ばれて、光君はつい涙をこぼす。**(361頁)

人目なく荒れたる宿は橘の花こそ軒のつまとなりけれ(361頁)**と詠む女御は、やはりほかの女とは異なってすばらしい人だと思わずにはいられない。**(362頁) その後、光君は花散里のいる西側の部屋をさりげなく訪ねる。ふたりはなつかしく語らう。

紫式部は麗景殿女御の邸に向かう途中で立ち寄った中川あたりに邸がある女性(やはりかつて関係のあった恋人・中川の女)を対比的に描き、麗景殿女御と花散里の優しさを際立たせている。

花散里は家庭的な人だと思う。きっとそうだろう。いいなあ、心安らぐ女性って・・・。

これで全54帖の1/5を読んだことになる。読み急ぐことなく読み続けたい、『源氏物語』は「読まずに死ねるか本」だと思っているから。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「賢木」

2022-05-07 | G 源氏物語

 

「賢木 院死去、藤壺出家」

 桐壺院崩御、政権は右大臣方に移る。藤壺出家。物語が大きく動く。

六条御息所は娘と伊勢に下ることを決心する。嵯峨野の野宮に六条御息所(俗な言い方だと年上の愛人)を訪ねる光君。久しぶりの再会。

暁の別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな(315頁)

藤壺の出家は源氏との関係を絶つため。源氏とは違い、理性的な判断は大人。

政敵の右大臣の娘・朧月夜と光君の密会、不倫関係は続く。ひょんなことから右大臣にバレるふたりの密会・・・。右大臣は**二藍色の帯が、尚待の君の着物に絡みつき、外側に出てしまっているのに気がつき、何か変だなと思う。**(352頁) 男帯が娘の着物の絡みついているのを見てしまった父親・・・。

右大臣と弘徽殿大后は光君の失脚を画策する。光君大ピンチ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「葵」

2022-05-04 | G 源氏物語

「葵 いのちが生まれ、いのちが消える」

 桐壺帝譲位、朱雀帝即位。4月、盛大行われる賀茂祭の御禊の行列に光君も加わった。懐妊中の葵の上も見物に出かけた。見物客の車でごったがえす一条大路。で、「車争い」のトラブル発生。お忍びで出かけていた六条御息所の車は、葵の上の車により後方に押しやられてしまう。で、見物どころか何も見えない状態に。

かげをのみみたらし川のつれなきに身の憂きほどぞいとど知る(270頁) 屈辱を味わった六条御息所は次第に病人のようになってしまう。

葵の上は物の怪にとりつかれ、苦しんでいる。光君はそれが六条御息所の生霊であることを知る。葵の上は男の子を出産後に急逝する。

物の怪の出現は光君の良心の呵責によるものか、それとも六条御息所の怨念によるものか・・・。

光君は喪に服していたが、久ぶりに紫の上のもとに帰り、初めて夫婦の契りを結ぶ。

「源氏物語」は連作短編集。1帖、1帖と読み進める。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「花宴」

2022-05-01 | G 源氏物語

 『十人十色  「源氏」はおもしろい』瀬戸内寂聴(小学館1993年)は寂聴さんの対談集。歌人の俵 万智さんとの対談も収録されている。その対談で寂聴さんは六条御息所が好きだと言っている。**物の怪になってしょっちゅう出てくるの。あの人がいなければ、物語がおもしろくないでしょう。** 俵 万智さんは寂聴さんに源氏の中では誰がいちばん好き?と聞かれ、朧月夜の君が好き、と答えている。今年は「源氏物語」の関連本も読みたい。

「花宴 宴の後、朧月夜に誘われて」

南殿の桜の宴が催された。東宮に請われ、申し訳程度に舞った光源氏。すばらしい舞はいつものように賞賛される。夜がすっかり更けて、宴が終わる。月がうつくしい。酔い心地の光君はそのまま帰る気にはなれず、藤壺の御殿のあたりをうかがって歩く。取り次ぎを頼もうにも女房たちの部屋の戸は閉ざされている。弘徽殿の西廂(にしびさし)に立ち寄った。細殿の戸口が開いている!
**こうした不用心から男女の間違いは起こるのだと思いながら、光君はそっと細殿に上がって奥を見る。**(255頁)
「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさみながら女が近づいてくる。光君、女の袖をつかんで抱き寄せる。

深き夜のあはれを知るも入る月のおぼろげならぬ契りとぞ思ふ(255頁)

女の名前をしらないまま一夜をともにした光君。

**「どうか名前を教えてください。どうやってお便りすればいいのかわかりませんから。これで終わろうなんて、よもや思っていませんよね」と、光君が言うと、**(256頁)

うき身世にやがて消えなば尋ねても草の原をば問はじとや思ふ(256頁)と返す。これって、悪女のわざじゃなかろうか。

再会できない日が過ぎていく・・・。

ひと月後。右大臣家で行われた弓の試合とその後の藤花の宴。夜が更ける。光君が酔ったふりをして席を立ち、女一の宮と女三の宮がいる神殿に近づく。多くの姫君のなかにときおり深くため息をつく女性がいる。几帳超しに歌を詠む光君。

**「心いるかたならませばゆみはりの月なき空にまよはましやは(深くお思いでしたら、たとえ月が出ていなくても迷ったりなさるでしょうか。月のない暗い夜でもお通いになるはずです)」と言うその声は、紛れもなく、あの夜の人である。光君はじつにうれしいのだけれども・・・・・。**(262頁) 


朧月夜は政敵・右大臣家の六女。

心いるなりませば弓張の月なき空に迷はましやは


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「紅葉賀」

2022-04-27 | G 源氏物語

「紅葉賀 うりふたつの皇子誕生」

 光君が若柴と出会った時、その少女はまだ10歳だった。この7帖では57,8歳の熟女が光君の恋(?)の相手。この熟女、次のように紹介されている。**さて、年配の典侍(ないしのすけ)がいた。彼女は家柄も立派で才気があり、気品もあって人から尊敬もされているが、ひどく好色な性分で、その道ではじつに軽々しいことをする。**(240頁)「光君はいろんな女性と恋をする」紫式部はこのように考えていて、この女性も登場させたのだろう。

「紅葉賀」は藤壺が光源氏にうり二つの男の子を出産するという大切な帖なのだが、ラブコメディの観がある。ラブコメを演ずるのは、光君と頭中将と熟女の3人。

60歳近いのに色恋が現役の典侍だと聞いた光君は、好奇心からこの女性と一夜を共にする。女性のことを聞きつけた頭中将は**女のことなら隅々まで手抜かりのない自分でも、あの女のことは考えもつかなかった、とはっとする。いくつになっても衰えない典侍の好き心に、にわかに興味を覚えた頭中将はとうとう典侍と懇ろな仲になってしまった。**(242頁)

典侍は頭中将とのことを光君にひた隠しにしている。ある夜更け、典侍の部屋に光君がいるところに頭中将がそっと入りこむ。**頭中将は、自分だとわからせないように何も言わず、ただすさまじく怒っているふうを装って、太刀を引き抜いた。**(244,5頁)*

この後、修羅場にはもちろんならず、**二人とも恨みっこなしの、同じくらいしどけない姿でいっしょに帰っていった。**(246頁)

翌朝、典侍から光君に届いた手紙には、うらみてもいふかいぞなきたちかさね引きてかへりし波のなごりに とあった。典侍って恋の経験が豊富な熟女だねぇ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「末摘花」

2022-04-26 | G 源氏物語

 **こんな荒れ果てたところにこそ、思いがけないほどうつくしい人が住んでいて、恋が生まれるといった話が物語にはよくあるのだし、何か言葉をかけて近づいてみようか。**(192頁)こんな思い込みが光君にはあるようだが、時には落胆することもあるようで・・・。

「末摘花」

紫式部はこの長編にいろんなタイプの女性を登場させる、ということがここまで読んできただけでも分かる。

光君は宮中に仕える大輔命婦から、亡き常陸宮が可愛がって育てた末摘花という娘、いや姫君と表記すべきか、が琴を友として心細く暮らしていることを耳にする。さっそく訪ねる光君。 この積極性!

いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに(201頁)引っ込み思案な姫君、手紙を出しても返事がない。

ある冬の寒い夜、久しぶりに常陸宮邸を訪ねた光君。翌朝早く**「朝の空が美しいから見てごらん。いつまでも心を許してくれないのはつらいよ」**(208頁)と姫君に声をかけ、雪明りの中で初めて顔を見る。

**(前略)その次に気になったのは、その異様な鼻である。真っ先に目につく。普賢菩薩が乗っている像が思い浮かぶ。あきれえるくらい長い鼻で、咲のほうが垂れて赤く色づいているのがなんとも不細工である。(後略)**(209頁)

登場する女性に落胆することもある。

**もしあの姫君が人並みの平凡な容姿ならば、忘れ去ってしまっただろうが、あの異様な姿をはっきり見てしまってからは、かえって哀れに思え、光君は暮らし向きのことにも終始気を配るようになった。**(212頁)

このあたりが光君の優しさだろう。


120

4月25日付信濃毎日新聞朝刊の投稿欄に「源氏物語」の原文を半年以上かけて読み終えたという投稿が掲載されていた。まず原文を読んで、難解な語句を注釈で確認し、それでも意味がはっきりしない場合は現代語訳を参照したとのこと。すばらしい! 本当はこういう読み方が良いのだろうが、私には無理。角田源氏の通読で良しとし、できれば他の作家の現代語訳も。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋