■ 男はつらいよシリーズ全50作品(第49作と第50作をカウントしないで48作品とする見解もある)を第49作(第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」のリマスター版)を除き、全て観た。印象に残っているのはマドンナが寅さんに好意を抱いた次の5作品。
第10作「寅次郎夢枕」八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」竹下景子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン
第28作と第32作、この2作には、マドンナが寅さんに自分のことが好きかどうか間接的にではあるが確認する場面がある。寅さんの返事を聞いたマドンナ、光枝(音無美紀子)さんと朋子(竹下景子)さんの表情も似ている。その場面をもう一度観たくてDVDを借りた。昨日(22日)第28作を観た。
第28作「寅次郎紙風船」
九州は久留米水天宮の縁日でバイをしていた寅さんは、テキヤ仲間の常三郎の奥さん、光枝(音無美紀子)さんに声をかけられる。聞けば常三郎は病床の身。見舞いに行くと、常三郎は寅さんに自分の死後、光枝を女房にして欲しいと頼む。このことが印象的なラストシーンにつながる。
常三郎が亡くなり、光枝さんは東京に出てきて、本郷の旅館で働きだす。このことを光枝さんのはがきで知った寅さんは早速光枝に会いに行く。そこで休みの日に柴又に遊びに来るように伝える。休日をとらやで過ごした光枝さんを寅さんが柴又駅まで送っていく。そこで交わされたふたりのやりとりについてふたつの異なる解釈があるという。
DVDを少しだけ観て台詞をメモ、これを数回繰り返した。まだ表現の細部が違っているかもしれないが以下に載せる。
「まあ、元気出してやれや。おれは当分ここで暮らしてあんたのこと気にしてるからよ」
「どうもありがとう」
「ねえ」
「なんだい」
「寅さんがお見舞いに来てくれた時、うちの亭主変なこと言わなかった?」
光枝さんは寅さんの本意を確かめたくて訊く。
「え・・・? なんだっけ」
寅さんはとぼけるが、常三郎との約束のことは当然よく覚えている。
「息を引き取る三日か四日前なんだけどね、私にこんなこと言ったんだよ。もしおれが死んだら寅の女房になれって。寅さんにもそう話してあるからって」
「あぁ、あのことか」
「寅さん 約束したの? 本気で」
この時の光枝の表情からは寅さんの「あぁ、本気だよ」という答えを待つ気持ちが窺える。
「ほら、病人の言うことだからよ まあ、適当に相づち打ったのよ」
「本当?」
「あぁ、本当だよ」
寅さんのことばを聞いた光枝さんが安堵したのか、落胆したのか・・・、この時の光枝さんの寂し気な表情・・・、まちがいなく落胆の表情だ。光枝は寅さんの優しさに惹かれている。
「じゃ よかった。寅さんが本気でそんな約束するはずがないわね」
「ごめんね、失礼なこと言っちゃって。私も腹が立ったけどね、まるで犬か猫でも人にくれたような口きいちゃってさ」
「そりゃそうだよな」と寅さん。
光枝の台詞を真に受けて安堵したと解釈する人がいるのだろう。
「最後までバカだったね、あの男」
「まったくバカだよな」
「安心した、寅さんの気持ち聞いて」
「おら、別にそんなこと気にしちゃいねぇから」
寅さんシリーズ屈指の名場面だ。
この作品で寅さんは所帯を持つかもしれないと身内に告白する。もし寅さんが所帯を持つなら、光枝さんがもっとも相応しい、と思う。リリーは結婚して上手くいくようなタイプではないだろう、しばらく非日常的な日々を過ごすのであればよいかもしれないが。