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透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「日本アパッチ族」小松左京

2020-05-31 | H ぼくはこんな本を読んできた

320

『日本アパッチ族』小松左京(角川文庫1971年)

 小松左京の作品で一番印象に残っているのは『日本沈没』だ。あの作品は日本という国を失った時、日本人はどう生き延びるかをテーマにした壮大な思考実験だった。読者にアイデンティティを問うた、と言ってもいい。カッパ・ノベルスで読んだが、今は手元に無い。

『日本アパッチ族』は鉄を食べて生きている食鉄人種・アパッチたちの物語。荒唐無稽な物語ではあるが、戦後日本が選択したかもしれな別の社会の可能性を示して見せている。再軍備、理不尽な法律・・・。

『日本沈没』同様、小松左京は自身の思考実験を実におもしろい小説に仕立て上げている。さすがとしか言いようがない。


手元にある最も古い部類に入る1冊


ブックレビュー 2020.05

2020-05-31 | A ブックレビュー

420

 5月の読了本4冊。自室の本の整理が終わり、居心地が良くなった。巣ごもり読書で、久しぶりに長編小説を2冊読むことができた、それも海外作品。まだまだどんな長編でも読むことができるという自信が得られた。 

『着陸拒否』ジョン・J・ナンス(新潮文庫1997年)
新刊の帯がついているが、1997年の発行。650ページもの長編を20数年ぶりに再読した。ジャンボジェット機内で心臓発作を起こした乗客は謎のウイルスに感染していた・・・。このことが明らかになると、ヨーロッパ各国はジャンボの緊急着陸を拒否する。更にCIAの副長官がこのジャンボをある陰謀に利用しようとする。ジャンボは最後はミサイル攻撃を受けるが・・・。因みに作者は旅客機のパイロット。ハリウッド映画向きの航空パニック小説。

『ターミナル 末期症状』ロビン・クック(ハヤカワ文庫1994年)
作者のロビン・クックはアメリカのドクター。専門知識を活かした作品ということでは『着陸拒否』と同じ。医学スリラーを何作も発表している。ハヤカワ文庫で18作品読んだが作品リストを見ると、未読作品がまだある。いつか読むことになるかもしれない。この作品はある癌センターを舞台に行われていた組織的な犯罪を天才的な研修生が恋人のナースとともに暴いていくというストーリー。この作品も500ページを超える長編。

『建国神話の社会史』古川隆久(中公選書2020年)



『希林のコトダマ』椎根 和(芸術新聞社2020年)
希林さんの本が何冊もベストセラーになり、残された言葉が名言として話題になった。希林さんの言葉の背景には多くの本があった。100冊以上の本を家に置かない主義だった希林さんが残した最後の100冊はどんな本だったのか・・・。

今後読了本は廊下にある書棚に仮置きして年末に自室の書棚に並ぶ本と入れ替え戦を行う。


 


「ソリス」を観た

2020-05-30 | E 週末には映画を観よう

 週末は映画を観よう、ということで今朝(30日)「ソリス」を観た。この映画に関する予備知識は全くなし。

小惑星で鉱物資源採掘中に爆発事故発生。緊急避難船で辛くも小惑星から脱出するが生き残ったのはただひとり、ホロウェイだけだった。他の乗組員は全員死亡していた。

避難船は制御不能で太陽に向かって進み、船内の酸素は徐々に減少していく・・・。

救出船の女性船長代理(名前からして日本人と思われるセリザワ船長(*1)は事故死している)との交信だけを頼りに生き残りを図るホロウェイだが・・・。ラストシーン、ホロウェイは救助されたのかどうか、描かれていない。観る者に判断を委ねている。

これ程の極限状況を設定しなければならないのか、ちょっと疑問だし、ストーリーが冗長。で、評価は★★☆☆☆


セリザワは「ゴジラ」に登場する科学者と同名、おそらく偶然ではないだろう。


間違い探しクイズの答え

2020-05-29 | H 「あ、火の見櫓!」



 『あ、火の見櫓!』にこのセットの間違いを問うクイズを載せてあります(31頁)。簡単な間違い探しクイズですから、答えは載せませんでした。

東京都新宿区にある消防博物館のこのセットの間違いに帰宅してから写真を見て気がつき、電話をして知らせました(2012年7月)。2016年3月にふたたび博物館に出かけて、このセットを見ると、間違いを直してありました。 クイズの答えは下の写真で分かりますね。


 


「流れる星は生きている」藤原てい

2020-05-29 | H ぼくはこんな本を読んできた

320

『流れる星は生きている』藤原てい(中公文庫2008年改版12刷)

■ この本のあとがきに藤原ていさんは次のように書いている。**私が死んだ後、彼らが人生の岐路に立った時、また、苦しみのどん底に落ちた時、お前たちのお母さんは、そのような苦難の中を、歯をくいしばって生きぬいたのだということを教えてやりたかった。(前後省略)**

強い意志を持って「生きる」、「生き抜く」ということの尊さに感動して、涙しながら読んだ。この本を読んだとき、既にブログをはじめていたので、記事にしている(過去ログ)。

以下にこの本のカバー裏面にある紹介文から引用する。

**昭和二十年八月九日、ソ連参戦の夜、満州新京の観象台官舎――。夫と引き裂かれた妻と愛児三人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた一人の女性の、苦難と愛情の厳粛な記録。戦後空前の大ベストセラーとなり、夫・新田次郎氏に作家として立つことを決心させた、壮絶なノンフィクション。**

未読の方におすすめしたい一冊。


追記:Kにプレゼントしたので手元に無い。


「八甲田山死の彷徨」新田次郎

2020-05-28 | H ぼくはこんな本を読んできた

320

『八甲田山死の彷徨』新田次郎(新潮文庫1997年53刷)

 新田次郎の小説は何作も読んだが、他の作品は先日の減冊で書棚から消えた。じっくり考えてこの作品を残したわけではないが、まあ、妥当な判断だったと思う。

**日露戦争前夜、厳寒の八甲田山で過酷な人体実験が強いられた。神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき大隊長が突然“前進”の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。2隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆に描く長編小説。** (カバー裏面の本小説紹介文引用)

この小説の内容から、国によって異なるコロナ禍への対応のことを考える。対応の違いが国民生活や経済の立て直しにどのような影響、どのような違いをもたらすことになるのだろう。今後注視していかなくては。


 


「梟の城」司馬遼太郎

2020-05-27 | H ぼくはこんな本を読んできた

320

 『梟の城』(新潮文庫1999年83刷)が一番最初に読んだ司馬遼太郎の作品だった、と記憶している。この小説がおもしろかったのでその後何作も読むことになった。この本に載っている解説で、村松 剛氏も**病みつきのはじめは、この『梟の城』だった。**(512頁)と書いている。ぼくも同じだ。

例によってカバー裏面の作品紹介文を引く。**織田信長によって一族を惨殺された怨念と、忍者としての生きがいをかけて豊臣秀吉暗殺をねらう伊賀者、葛籠重蔵。その相弟子で、忍者の道を捨てて仕官をし、伊賀を売り、重蔵を捕らえることに出世の方途を求める風間五平。戦国末期の権力争いを背景に、二人の伊賀者の対照的な生きざまを通して、かげろうのごとき忍者の実像を活写し、歴史小説に新しい時代を画した直木賞受賞作品。**

歴史小説はあまり読まないぼくが『梟の城』を読んだのはこの紹介文に魅かれたからだろうか・・・、今となっては動機は分からない。


 


「されど われらが日々―」柴田 翔

2020-05-26 | H ぼくはこんな本を読んできた

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 水色のテープが貼ってあることから20代で読んだ本だということが分かる。

『されど われらが日々―』柴田 翔(文春文庫1974年第1刷)

ぼくが学生の頃、ベストセラーになった小説。この本を友人たちが皆持っていたように記憶している。内容はすっかり忘れてしまっている。では再読したいかというとそうでもない。

**私はその頃、アルバイトの帰りなど、よく古本屋に寄った。そして、漠然と目についた本を手にとって時間を過ごした。ある時は背表紙だけを眺めながら、三十分、一時間と立ち尽くした。そういう時、私は題名を読むよりは、むしろ、変色した紙や色あせた文字、手ずれやしみ、あるいはその本の持つ陰影といったもの、を見ていたのだった。** カバー裏面(序章9頁)

この表紙を見ていると遠い遠い学生時代の出来事のおぼろげな輪郭が浮かび上がる・・・。


 


「生物の世界」今西錦司

2020-05-24 | H ぼくはこんな本を読んできた

 

 立花 隆の著書に『ぼくはこんな本を読んできた』(文藝春秋1996年3刷発行*1)がある。

文庫本の大半を処分した結果、自室の書棚に残る文庫本は約250冊となった。これらの本を載せるという試みをしてみようと思う。そう、「ぼくはこんな本を読んできた」。継続できるかどうか分からないが、休日の外出自粛によるネタ不足に対応するために始めたい。

『生物の世界』今西錦司(講談社文庫1976年第8刷)

この本のカバーは今のように目立つように、目立つようにという志向でデザインされていない。控えめで上品なデザインで実に好ましい。カバー裏面の本書紹介文を載せる(このパターンで続けて行こうと思う)。40年以上も前に読んだ本で、再読しないと内容紹介ができないから(と言い訳しておく)。

**これはふつうの生物学の本ではない。一つには予備工兵少尉として応召を予期した時代の「遺書」であり、一つには死物としての生物の学を生き物としての真の生物学たらしめる貴重な道標であった。
類縁原理の直感的認識を方法論に生物社会の構成原理を《棲み分け》にみる今西生物学の「棲み分け理論」、ダーウィン来の自然淘汰説を超える独自の進化の構想を、思想的自画像風に描く独特な文化論。**

自画像ということばは序にも出てくる。**この小著を、私は科学論文あるいは科学書のつもりで書いたのではない。それはそこから私の科学論文が生まれ出ずるべき源泉であり、その意味でそれは私自身であり、私の自画像である。**(3頁)

この自画像ということばは実に重い。どんな研究においても哲学的な背景からして独自性が無ければこのことばは使えないだろう。

再読したい。


*1 これからは手元にある本の発行年を記すことに統一する。


「インターステラー」

2020-05-23 | E 週末には映画を観よう

 今朝(23日の朝)「インターステラー」をDVDで観た。2014年の年末にシネコンで観ている映画。その時の記事に加筆して再掲する。

この映画にはワームホールやブラックホール、それからブラックホールの周りに起こる強い潮汐力や時間の遅れ(ずれ?)などの宇宙理論が出てきて、ストーリーの展開上重要な役割をする。余剰次元という概念も出てくる。これらの理論、概念は私のような凡才にはイメージすることも、理解することも到底できない。でも映画は十分楽しめた。

重力理論の権威が映画製作に関わっているそうで、回転するブラックホールの映像化には最先端の知見が活かされているそうだ。

寿命の尽きかけた地球、人類は生き延びることができるのか・・・。移住可能な他の惑星を探すという、よくある宇宙もの。

娘に必ず帰ってくるからと言い置いて宇宙の旅に出る父親。娘との約束を果たすことはできるのか・・・。父親は重力を研究している娘に宇宙飛行で得られたブラックホール内のデータを伝えることはできるのか・・・。 その方法は? 娘は重力問題の解を得ることはできるのか・・・。そして人類は生き延びることができるのか・・・。

宇宙理論を取り込んだ実に壮大なSF映画だが、この映画のテーマを私は「時空を超えて伝えられる娘への愛」と理解した。家族愛はアメリカ映画の主要なテーマ。単なるSFに終始しないで、このようなテーマをバランスよく織り込んでいるところもすばらしい。

キューブリックの「2001年 宇宙の旅」を思わせる映像表現が何カ所かあることに今回気がついた。オマージュ的な扱いをしているのかもしれない。


初稿:2015.01.02


1,800冊

2020-05-21 | A 本が好き 

 自室の本を1,700冊(*1)減冊した結果、書棚に並ぶ本は約1,800冊となった。内訳は単行本が1,100冊、新書本450冊、文庫本250冊。数年かけて、1,000冊まで減らしたいと思うができるかどうか・・・。当分の目標は本を増やさないようにすること。




*1 内訳:単行本260冊、新書本300冊、文庫本1,140冊


「建国神話の社会史」

2020-05-21 | A 本が好き 

320

 これからは書棚を定常状態に保つために年末に行う本の入れ替え戦を意識して、読む本を選ぶことにする。書棚に並びそうにない本(既存の本に簡単に「負け」そうな本)はできるだけ避けたい。となると、本選びはやはり松本駅近くの丸善ということになりそうだ。

『建国神話の社会史 史実と虚偽の境界』古川隆久(中公選書2020年)を今読んでいるが、この本も先日丸善で買い求めた。

**『古事記』『日本書紀』の記述が国によって「歴史的事実」とされた時、普通の人々は科学や民主主義との矛盾をどう乗り越えようとしたのか** この本の具体的なテーマがこのように本の帯に示されている(写真参照)。

神代史を史実として扱い、一つの歴史の流れとして扱うかどうか・・・。このことに関する見解の歴史的な経緯を豊富な資料を示しながら論じている。

以下に長くなるが紹介されている正反対の二つの見解を引用する。

**神代史については「神代の伝承は国体の真義を示し、且つ永遠に国史を貫いて生成発展をする国家生命の源泉」なので、「これを過去の歴史的事象として考察すると共に、その尊厳にして且つ悠久なる精神的意義を把握し、以てこれが国史の生命として展開せることを明らかにすべき」と、神代史を事実と認識する形になっています。(後略)**(159、160頁) 以上は太平洋戦争期の1943年に政府が公刊した歴史の概説書『国史概説』にある記述。

**「神代の歴史は茫乎として際涯(さいはて)なきが如く、単に史実として解すること能わず」、『古事記』『日本書紀』などについても、「当時の口碑伝説を後に輯録(しゅうろく)せるものなれば、其の神代の記事は真の事実として果たして那辺まで信憑するに足るものかは疑わし」と明記されています。**(160頁)

以上は東京帝大国史科教授であった三上参次の講義録をもとにした遺著で1943年に刊行された『国史概説』(上掲の文部省のものとは別)にある記述。

このようなことについて今まで考えたこともなかったなぁ・・・。


筆者注:このブログでは**で引用範囲を示しています。


続ブックカバーデザイン 

2020-05-20 | A 本が好き 

 前稿に続き、新潮文庫の漱石作品のカバーデザインについて。

『門』のデザインが好みだが、すべてそのデザインの文庫本がそろっているわけではなく、別のデザインのものも何冊かあると前稿に書いた。

書棚に並ぶ文庫本を確認すると、大半は『門』のデザインで、違うのは『三四郎』『それから』『こころ』だけだった。もっと多いと思っていた。理由は分からないが2冊ある『吾輩は猫である』は共に角川文庫だ。

それから『坊ちゃん』が無いことに気がついた。これを機に買い求めて再読してみよう。この歳であの作品を読んでどんな感想をもつだろう。

ところで『三四郎』と『それから』『こころ』のカバーの絵は共に安野光雅の作品。個人的な感想にすぎないが『三四郎』の絵からは通俗的な作品をイメージしてしまう。漱石作品のもつ雰囲気にそぐわないように思うがどうだろう。角川文庫の『吾輩は猫である』(右)は私の好み。






 


ブックカバーデザイン

2020-05-19 | A 本が好き 



 漱石の『こころ』、手元にある2冊は共に新潮文庫だがカバーデザインが違う。新潮文庫の漱石は『門』のカバーデザインが好みだが、このデザインの『こころ』は手元にない。以前は全て『門』のデザインで揃っていたと思うが、何冊か友人にあげるなどして、後から再び買い求めたためにデザインが違うものになってしまった。白いカバーの方は2008年に、右のイラストのカバーの方は1994年に買い求めたものと思われる。では、2冊の『こころ』どちらを残すか。活字が大きくて読みやすい白かな。


 


「古事記の宇宙」

2020-05-18 | A 本が好き 




 先週末に読んだ『希林のコトダマ』椎根 和(芸術新聞社2020年)には「樹木希林のコトバと心をみがいた98冊の保存本」というサブタイトルが付いている。本書で椎根さんは希林さんが残した100冊の本のうち98冊を読み、希林さんの心根を推量している。

巻頭には100冊の本が並ぶ希林さんの本棚のカラー写真が掲載されているが、それぞれの本の背後を数多の本が通り過ぎていったことだろう。

本書で紹介されている本の中で、たった1冊だけ私が読んだ本があった。『古事記の宇宙(コスモス)―神と自然』千田 稔(中公新書2013年)。帯に書かれた本書の内容紹介文から引用する。**古代の日本人は、自然をどのように感じ取っていたのだろうか。本書は『古事記』に記された神々や神話と自然との関係を、海・植物・天地・身体など、具体的なテーマに分けて解説する。**

椎根さんは希林さんが残した本は言霊でつながっていると解説している。このような補助線が示されると、確かにそうだな、と納得できる。

巻頭には希林さんの書斎も掲載されている。希林さんはこの書斎で静かに本を読んでいたのだろう・・・。