とりばっち(左) くるっち。(右)
■ 長野県朝日村の山鳥場遺跡の発掘調査が県道改築事業に伴って行われた(2016年度~2018年度)。発掘調査報告書(*1)には発掘調査で出土した土偶12点、ミニチュア土器18点、土製円板33点、土製耳飾32点などが掲載されている。土偶12点はすべて破片資料で完形品はない。
朝日村では土偶12点の中の頭部2点に付ける愛称を募集していた(土偶に愛称を付けるというアイディアに拍手)。このことを報じている信濃毎日新聞の記事(2022.10.28)によると、県内外の250人超から応募があったという。朝日美術館や教育委員会で最終候補作をそれぞれ5案に絞り、投票によって愛称を決めた。で、選ばれた愛称が「とりばっち」と「くるっち。」。 「とりばっち」は安曇野市の小学1年生の男の子の応募案、「くるっち。」は山梨県在住の方の応募案とのこと。
ところで、人の名前にちゃんを付けて呼ぶことがある。ぼくも小さい頃、親戚のおばさんたちからちゃん付けで名前を呼ばれることがあった。高校生の時も「女子」から名前にちゃんを付けて呼ばれることがあったが、くすぐったいような嬉しさを感じたものだ。「ちゃん」ではなく「ちん」を付けて名前を呼ぶこともある。この「ちん」について調べると、人名に付けて親しみを表す接尾辞という説明がある。
さて、当選案。両案とも「っち」を付けている。これも親しみを表す接尾辞としてよいと思う。とりばっちは山鳥場(やまとりば)に因んだ固有の名前で、他のものには付けようがない。しかも、女の子っぽかったので「っち」を付けた方がもっとかわいくなると思ったという趣意のコメントが美術館で紹介されている。男の子のコメントで思い出すのは黛ジュンの「恋のハレルヤ」のジャケット。耳の前の髪が土偶と同じようになっている。
こんなすばらしい名前を付けた小学1年生の男の子の顔の表情を読み取る能力とことばに対する感性にびっくり。
今後、「とりばっち」と「くるっち。」にどんな活躍をしてもらうのか、村の構想力が試されるだろう・・・。
発掘調査報告書はとりばっちについて、**顔面部を隆帯で囲み、沈線と刺突で目や鼻孔を表現する。(中略)顔面部の隆帯際・頬部・頸部には先端が鋭利な施文具で沈線文様を施文する。**と説明している。なるほど。
*1 長野県埋蔵文化センター発掘調査報告書120
県単道路改築事業に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書 2019年3月20日発行