透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 2025.01

2025-01-31 | A ブックレビュー

 


 ♪ 時の流れに身をまかせ と歌ったのはテレサ・テンだけど、それじゃいけないような気がする。でも抗いようもないか・・・。
時の流れがますます速くなったような気がする。もう1月が終わる・・・。

このところ本を読みた~いという気持ちが強い。2023年度の調査結果、と記憶しているが、1か月に1冊も本を読まないという人が、およそ6割だったとのことだ。でも、そういう人たちをとやかく言うつもりは全くない。

ぼくはレイ・ブラッドベリが『華氏451度』(ハヤカワ文庫2014年)で描いた、本を所持することも本を読むことも禁じられた社会で生きていくのはつらいと思う。本のない生活は考えられない。

1月に読んだ本は9冊(内2冊は図書館)だった。書名を挙げておきたい。

『方舟さくら丸』安部公房(新潮社)
『免疫力を強くする』宮坂昌之(講談社ブルーバックス)
『「罪と罰」を読まない』三浦しをん他(文春文庫)
『日米戦争と戦後日本』五百旗頭(いおきべ)真(大阪書籍)
『天保悪党伝』藤沢周平(新潮文庫)

『日本文化の多重構造』佐々木高明(小学館)
『ゴッホは星空に何を見たか』谷口義明(光文社新書)
『大江健三郎  江藤 淳  全対話』(中央公論新社)*
『お地蔵さまのことば』吉田さらさ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)*

*印:図書館本


『日米戦争と戦後日本』は五百旗頭氏がワシントンD.C.の公文書館をはじめ、各地の図書館で原資料を集め、関係者を訪ねてオーラル・ヒストリーを集積したということから(講談社学術文庫にもなっているが、そのあとがきによる)、アメリカ側の事情が詳しく書かれている。アメリカは開戦直後に対日占領政策の検討を始めていたという。冷静に分析すればアメリカが勝利することは、日本でも分かっていたのだから、驚くにはあたらないか。太平洋戦争関連の本は読み続けたい。

『日本文化の多重構造』は佐々木高明氏の「日本文化論」総集成。先日観た映画『鹿の国』にも関係する内容の記述もあった。良書。

『大江健三郎  江藤 淳  全対話』 江藤 淳は凄い読み手だ。『万延元年のフットボール』をきっちり読み解いてる。江藤 淳による大江健三郎の作品論として読むこともできる。


 


今年最後のブックレビュー  2024.12

2024-12-28 | A ブックレビュー


 12冊。これ程読んだのはおそらく初めて。このところ本が読みたいと、強く思っている。理由は分からない・・・。

3月から新潮文庫に収録されている安部公房の作品を読んできた。既に絶版になった作品を含め、手元に23冊あるが、今月『燃えつきた地図』『飛ぶ男』『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』の3冊を読んだ。残すところ『方舟さくら丸』1冊となった。年越し本として読み始めよう。

紫式部関連本を3冊、清少納言の『枕草子』(角川ソフィア文庫)を加えると4冊読んだ。『散華 紫式部の生涯』で、作者の杉本苑子さんは **「和泉式部は情の人、清少は感性の人、そしてわたしは・・・・・」理の人とでも位置づけて、書きつづけるほかないと小市は思う。**(下巻275頁)と書いている。これは平安の女流作家3人に対する杉本さんの寸評。和泉式部のことは分からないが、『枕草子』を読めば清少納言が感性の人という評は分かるし、紫式部が冷静にものごとを観察した理の人、というのも分かる。

『日本近代随筆選  1  』(岩波文庫)に収録されている柳田國男の「浜の月夜/清光館哀史」は印象に残る作品。

『戦後総理の放言・失言』吉村克己(文春文庫1988年) 政治にも昭和史にも疎いので、発言の政治的・社会的背景までは理解が及ばない。だが、政治信条に従って発言していたということは、分かる。中曽根康弘、佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、竹下  登・・・。

岩波新書2冊『論理的思考とは何か』渡邉雅子、『江戸東京の明治維新』横山百合子、どちらも手堅い論考と括ればよいか。


積読本の山がだいぶ低くなった。


ブックレビュー 2024.11

2024-12-01 | A ブックレビュー



 11月に読んだ6冊の本 

『あきらめなかった男 大黒屋光太夫の漂流記』小前 亨(静山社 2023年 児童書 図書館本)
『大阪・関西万博「失敗」の本質』松本 創  編著(ちくま新書2024年)
『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』三浦英之(集英社文庫2017年)
『砂の女』安部公房(新潮文庫1981年)
『水辺の環境学 生きものとの共存』『続・水辺の環境学 再生への道をさぐる』桜井善雄(新日本出版社1991年、1994年 友人からの借用本)


 


ブックレビュー 2024.10

2024-11-04 | A ブックレビュー


 10月の読了本は6冊。

『笑う月』『密会』安部公房(新潮文庫)
新潮文庫に収録されている安部公房の作品を月2冊のペースで今年の3月から読んで来た。読んで感じるのは小説家に求められる能力をきっちり備えているということ。発想が豊かでそれを小説に仕立てる創造力・構成力、更にそれを文章化する能力に秀でていることだ。だからこそ、ノーベル賞候補に名が挙げられ、今なお読み継がれる作品を遺すことができたのだろう。

『41人の嵐 台風10号と両俣小屋全登山者生還の一記録』桂木 優(ヤマケイ文庫)
あきらめず、生還するという強い意志。みんなで生還するという連帯感。

『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』麻田雅文(中公新書)
**日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満州・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第2次世界大戦最後の全面戦争である。**本書の帯の文章からの引用。
終戦直前のソ連参戦については、全く何も知らなかった。本書によってその概要をはじめて知った。知らないことを知りたいと思う気持ちはいつもでも持ち続けたいものだ。先日書いたように、これからは第二次世界大戦の関連本を意識的に読んで行こうと思う。

『詭弁社会 日本を蝕む〝怪物〟の正体』山崎雅弘(祥伝社新書)
パターン1:間違った定義から話を始める
パターン2:論理的思考と情緒的思考のすり替え
パターン3:間違った二項対立と極論への飛躍
(以上本書の帯より)
**日本では「批判」という言葉は「否定的」と混同して使われることも多いですが、批判的思考は必ずしも対象を否定的に捉える思考ではなく、論理的に問題点の洗い出しを行なうことで、対象の完成度を高めるという肯定的効果が得られる場合もあります。**(114頁) これは覚えておきたいことば。

『奪還 日本人難民6万人を救った男』城内康伸(新潮社)
終戦直後に北朝鮮に取り残された日本人を身を賭して帰還させた人物がいたことを本書で知った。どの時代にも凄い人はいるものだな、と改めて思う。


 


ブックレビュー 2024.09

2024-10-03 | A ブックレビュー

 
 精読派と多読派のどちらか問われれば多読派だと答える。じっくり時間をかけて1冊の本を丁寧に読む、という楽しみも味わいたいとは思うが、読みたい本が次から次へと出てきて、そのような読書ができない。9月の読了本は5冊、小説は安部公房の短編集1冊だけだった。

『城の日本史』内藤 昌  編著(講談社学術文庫 2011年8月10日第1刷、2020年9月23日第4刷)
色んなことは覚えられないから、天守の外観的な特徴は望楼型層塔型に大別され、構法は井楼式通柱構法互入式通し柱構法に大別されることを覚えておきたい。一般的に望楼型は井楼式通柱構法によって成立し、層塔型は互入式通し柱構法によって成立する。これには例外もあって、松本城の外観は層塔型だが(これは、別の本も読んだ私の解釈)、構法は井楼式通柱構法。井楼:せいろう

『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』牧野邦昭(新潮選書2018年5月25日発行、2021年12月25日13刷)
「なぜ日本の指導者たちは、正確な情報に接する機会があったのに、アメリカ、イギリスと戦争することを選んでしまったのか」という謎。著者は数多くの史料を丹念に読み込み、行動経済学のプロスペクト理論と社会心理学の集団意思決定の集団極化の理論という現代の知見によってこの謎を解き明かす。難しい内容だが、明快な論理展開で読みやすかった。

『日本列島はすごい 水・森林・黄金を生んだ大地』伊藤  孝(中公新書2024年)
地学に関する内容で、芭蕉の俳句も田中角栄の「日本列島改造論」も登場する。なるほど、確かに地学に関係する。掲載されている数多くの図が、記述内容の理解を助けてくれる。

『R62号の発明・鉛の卵』安部公房(新潮文庫1974年8月25日発行、1993年2月15日24刷)
「鉛の卵」は1957年(昭和32年)に発表された作品。冬眠器の故障で80万年後に目を覚ました男の話。携帯無線電話が出て来て、びっくり。収録されている短編12編を通しで読んで、安部公房の発想の豊かさに驚かされた。

『水が消えた大河で ルポJR東日本・信濃川不正取水事件』三浦英之(集英社文庫2019年)
9月12日の記事の一部を加筆して再掲する。

JR東日本によって行われていた信じられないような不正が詳細に綴られていた。加えて生態系への深刻な影響も。信濃川の中流域には東京電力とJR東日本の取水ダムと発電所がそれぞれ別々にあって(東京電力:西大滝ダム 長野県飯山市 JR東日本:宮中ダム 新潟県十日町市)、ダムで取水された水は発電所までの間に落差をかせぐために延々と地下トンネルを流れる。その間、両者合わせて63.5kmは信濃川にはごく少量の水しか流れない。

**清流魚であるヤマメは二〇℃を超えるとエサを食べない。冷水性のカジカやアユは二五℃以上では生きていけない。**(31頁) 信濃川を流れる水量が上記の理由で極端に減り、流速も遅くなって水温が上昇、**魚が死に、流域周辺の井戸が枯れ、人びとが心の拠り所としてきた雄大な大河の風景が姿を消した。**(33頁)という。

このような事態を招いた東日本の不正を三浦さんは多くの関係者に取材をして厳しく追及していく・・・。

**「あなた方は毎秒三一七トンの水を抜いていおて、わずか毎秒七トンの放流ですよ。信濃川は石河原になって死んでいる。JR東日本の売り上げは二兆七二七〇億円。そんな独占的な優良企業が十日町の命の水をさらに不当に取っているなんて、まさしく屍に鞭を打つ、吸血鬼のような行為ですよ」**(175,6頁)

**「信濃川を涸らしておいてどこが地球に優しいんだ」**(176頁)


 


ブックレビュー 2024.08

2024-08-31 | A ブックレビュー

  
 8月に読んだ本6冊。その内の2冊、浅田次郎の『帰郷』と『長く高い壁』は図書館本。

『水中都市・デンドロカカリヤ』安部公房(新潮文庫1973年発行、1993年25刷)
**人間存在の不安感を浮び上がらせた初期短編11編を収録。** そう、既に書いたけれど、人間が存在することとはどういうことなのかという問いかけ、これは安部公房がずっと問い続けたテーマ。

『老化と寿命の謎』飯島裕一(講談社現代新書2024年)
信濃毎日新聞の科学面に2023年1月から2024年4月まで連載された記事「老化と寿命の謎を探る」を基に書籍化された。本書の最後(第3章  第24節)の見出しは「人生の実りの秋(とき)を豊かに過ごすために」。これは高齢の読者へのエール。

『無関係な死・時の崖』安部公房(新潮文庫1974年)
この文庫には短編10編が収録されている。通読すると、安部公房がいかに発想力・構想力に優れていたか、よく分かる。印象に残ったのは表題作の「無関係な死」、それから「人魚伝」と主人公が建築士の「賭」。

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり(新潮選書2023年)
大塚ひかりさんには源氏本が何冊かある。これまでに3冊読んでいる。先日書店で目にした本書を買い求めて読んだ。
**時に作家は、登場人物に自己を仮託しながらも、その登場人物が作家の思想を超えて、思いも寄らぬ境地に達することがあるものだ。その境地に達したのが、最後のヒロイン浮舟ではないか。**(242頁)
**誰の身代わりでもない自身の人生を、心もとない足取りながらも歩もうとする様は、今に生きる私にとっては、不思議なすがすがしさと開放感を覚える。**(243頁)
自分だけは自分を見捨てるべきではない。大塚さんが紫式部メッセージだとするこの言葉、覚えておきたい。

『帰郷』浅田次郎(集英社2016年 図書館本)
表題作の「帰郷」ほか5編を収める小説集。印象に残ったのは「帰郷」だった。
復員して神戸港から名古屋へ。そして中央線に乗り継ぎ、松本駅に着いた庄一は義兄(二番目の姉の亭主)の三郎に声をかけられる。
庄一は西太平洋のテニアン島で戦死を遂げたと戦死広報が伝えた。庄一の家では葬式を出し、墓石も建てた。妻の糸子は庄一の弟の精二と再婚していた・・・。
松本駅で説得される庄一。**(前略)糸子をねぎらい、夏子を膝に抱き、まだ見ぬ雪子に頬ずりをしたかった。**(44頁) 
ああ、これを戦争の悲劇と言わずして何と言う。
三郎に説得され、新宿に出てきた庄一は綾子に声をかけた。綾子は終戦直後の新宿で体を売って日々を食い凌ぐ女だった・・・。
この先、庄一と綾子はどう生きて行くのだろう。ふたりが歩む人生物語を読みたかった。短編なのは残念。

『長く高い壁』浅田次郎(角川書店2018年、図書館本)
昭和13年秋、日中戦争下の張飛嶺(万里の長城)。
大隊主力が前線に出た後、張飛嶺守備隊として残ったのは小隊30人、その第一分隊10人全員が死亡する。戦死か? 従軍作家の小柳逸馬が検閲班長の川津中尉と共に北京から現場に向かい、10人怪死の真相を解き明かす。ミステリー仕立ての小説


9月に読む本は既に決まっている。


ブックレビュー 2024.07

2024-08-02 | A ブックレビュー

 

 7月に読んだ本は7冊(6作品)。『散華 紫式部の生涯 上 下』杉本苑子は図書館本。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(集英社新書2024年)

本も読めない働き方が普通の社会っておかしくないか、という問題意識から明治以降の読書の歴史を労働との関係から紐解き、読書の通史として示している。読書史と労働史を併置し、どうすれば労働と読書が両立する社会をつくることができるか、を論じている。


『第四間氷期』安部公房(新潮文庫1970年11月10日発行、1971年3月10日 2刷)

サスペンス的な要素もあるSF。安部公房の想像力の凄さに感動すら覚えた。

太平洋海底火山群の活発化等による海面上昇で**ヨーロッパはまず全滅、アメリカにしても、ロッキー山脈をのぞけば完全に全滅だし、日本なんか、先生、山だらけの小島がぽつんぽつんと、五つ六つ残るだけだというんですからなあ・・・・・。**(231頁)

こんな未来予測にどう対応するか。水棲人、海中で生存できる人間に未来を託そうとする研究者たち・・・。


『ずっと、ずっと帰りを待っていました「沖縄戦」指揮官と遺族の往復書簡』浜田哲二・浜田律子(新潮社2024年)

**米軍の戦史にも、「ありったけの地獄を集めた」と刻まれる沖縄戦**(12頁)では20万人以上が犠牲となったと言われている。若き指揮官・伊東孝一大隊長は沖縄戦から奇跡的に生還するも、率いていた部下1,000人の9割は戦死していた。終戦の翌年(昭和21年)、伊東はおよそ600通の詫び状を遺族に送る。直後、伊東の元には356通もの返信が届く。伊東はその手紙を70年もの間、保管していた。

伊東孝一が保管していた遺族からの手紙が70年経った今、遺族の親族に返還される。手紙を手にした親族(子どもや甥・姪ら)は・・・。

1945年(昭和20年)8月の終戦からまもなく79年経つ。だが、太平洋戦争はまだ終わってはいないのだな、と本書を読み終えて思った。


『日本 町の風景学』内藤 昌(草思社2001年 古書店 想雲堂で購入)

**風景のもつ深い意味を解き、“住みよさ”よりも“住みたさ”の原像をたどる出色の日本都市論** と帯にある。内容が難しく、理解できず。


『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』高橋五郎(朝日新書2023年)

サブタイトルの「日本人が飢える日」が決してあり得ないことではないのだな。これが読後の感想。
日本は工業立国を標榜、農業がその犠牲になったとも言える。結果、食料自給率の著しい低下を招く。他国が日本を養うことをやめてしまったら・・・。


『散華 紫式部の生涯 上 下』杉本苑子(中央公論社1991年 図書館本)

上下巻各8章、約830頁の長編。副題が「紫式部の生涯」となっている通り、紫式部と後年呼ばれることになる小市が7歳の時から始まるこの物語には52歳で生涯を閉じるまでの45年間が描かれている。

この小説の圧巻は下巻の「宇治十帖」だと言いたい。「宇治十帖」は杉本苑子さんの「源氏物語論」。紫式部は本編をどう自己評価したのか、なぜ続編とも位置付けられる「宇治十帖」を書いたのかについて論じている。

数知れぬ読者の、主観や個性に合せ、その側におりて行って多様な注文に応じきることなど、しょせん一人の書き手にできることはない。することでもない。では、どうすればよいか。答えはただ一つ、作者は自分のためにのみ書き、自分の好みにのみ、合せるほかないのだ。すべての読者が、おもしろくないと横を向いてしまっても仕方がない。自分が「よし」と思うその気持ちに合せて書く以外に、拠りどころははない。**(下巻333頁) 

このような指摘は言うまでもなく、同じ書き手としての杉本さんの文学論でもある。


8月 読書の真夏。


ブックレビュー 2024.06

2024-06-30 | A ブックレビュー


 早くも今年前半が終わる。読書は日常生活の一部、食事と同様毎日欠かせない。6月の読了本は図書館本2冊を含め9冊。

『川端康成 孤独を駆ける』十重田裕一(岩波新書2023年)
2歳で父、3歳で母を亡くした川端康成。川端文学の本質を著者の十重田さんは
**天涯孤独となった川端の、いわゆる孤児の感情は、彼の文学の特色を考えるうえで逸することのできないものである。**(8頁)
**他者とつながり、心を通わすことを強く求める思いが、川端の文学の基盤をかたちづくっていた。**(3頁)と説く。
このような視点を与えられると、川端文学の見通しがよくなる。

『マンボウ家族航海記』北 杜夫(実業之日本社文庫2011年)
『幽霊』『木精』『楡家の人びと』の北 杜夫が・・・。

『伊豆の踊子』川端康成(新潮文庫1950年8月20日発行、2021年7月20日第154刷、2022年7月1日新版発行)
**二十歳の私は自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に耐え切れないで伊豆の旅に出て来ているのだった。**(38頁) 踊子が「いい人ね」と言うのが聞こえて、**私は言いようもなく有り難いのだった。**(38頁) **私はさっきの竹の杖を振り廻しながら秋草の頭を切った。**(38頁)
『川端康成 孤独を駆ける』を読んだ後だから補助線を引くことができ、上掲の引用箇所、この小説のポイントにきっちり気がつく。

『頭上運搬を追って 失われゆく身体技法』三砂ちづる(光文社新書2024年)
失われゆく文化の記録。

『飢餓同盟』安部公房(新潮文庫1970年発行、1994年25刷)
難しくて、私の読解力ではまったく歯が立たなかった・・・。

『箱男』(新潮文庫1982年10月25日発行、1998年5月15日31刷)
自己の存在を規定するものは何か、それを手放すとどうなる・・・。安部公房が読者に問うているこのテーマは今日的。

『絶景鉄道  地図の旅』今尾恵介(集英社新書2014年)
地図好き、鉄道好きにはたまらない1冊だと思う。

『恋ははかない、あるいは、プール底のステーキ』川上弘美(講談社2023年 図書館本)
川上弘美が描く世界は、あわあわ、ゆるゆる、ふわふわ。輪郭が曖昧でこのように形容される。それはこの小説でも同じ。

『研ぎ師太吉』山本一力(新潮社2007年12月20日発行、2008年1月25日2刷 図書館本)
ミステリーも恋も中途半端。


**私はゆっくり読書を続けていきたいと思います。** ある方から初めて届いた年賀状に書かれていたメッセージ。ぼくもそうしたいと思う。本の無い生活は考えられない。


『華氏451度』(ハヤカワ文庫)
レイ・ブラッドベリが描いた本が禁制品となった社会はディストピアだ。


 


ブックレビュー 2024.05

2024-06-01 | A ブックレビュー


 2024年5月に読んだ本は写真の5冊と図書館本2冊、計7冊だった。

3月に始めた手元にある新潮文庫の安部公房作品22冊に未購入の『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』を加えた23冊を年内に一通り読もうプロジェクト。5月は3冊読んだ。これで10冊読み終えた。残りは13冊。 

『カンガルー・ノート』安部公房(新潮文庫1995年)
1993年に急性心不全で急逝した安部公房の最後の長編小説。
安部公房も死の恐怖に脅えていたのだなと、小説最後の一節を読んで思った。でも、それを小説に仕立て上げてしまった安部公房は最期まで作家であった。

『死に急ぐ鯨たち』安部公房(新潮文庫1991年)
評論集。話題は多岐に亘り、収録されているインタビューでは自作についても語っていて、その背景にも話が及んでいる。本書の絶版は大変残念だ。

『津田梅子』大庭みな子(朝日文庫2019年7月30日第1刷発行、2024年2月20日第2刷発行)
新5000円札の顔、津田梅子は津田塾大学の前身である女子英学塾の創設者。津田塾大学で発見された多くの手紙を紐解きながら津田梅子の生涯を辿る。吉川弘文館の人物叢書にも『津田梅子』がある。この本も読まなければ・・・。

『都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』唐沢孝一(中公新書2023年)
漫然と鳥を見ていても分からない生態が観察を続けていると徐々に分かってくるだろう。そうすれば私の環世界に野鳥が入り込んでくるかもしれない・・・。
知らない世界を覗いてみるのは楽しい。新書はそのガイドブック。

『壁』安部公房(新潮文庫1969年発行、1975年15刷)
名前、顔、体、帰属社会、そして故郷。属性を次々捨ててしまった(喪失してしまった)人間の存在を根拠づけるのもは何か、人間は何を以って存在していると言うことができるのか・・・。人間の存在の条件とは? 安部公房はこの哲学的な問いについて思考実験を重ね、小説に仕立て上げた。安部公房の作品はこれからも読み続けられるだろう。人間とは何か、これは根源的な問いだから。


『タンポポの綿毛』藤森照信(朝日新聞社2000年 図書館本)
野山を駆け巡て遊んでいた少年時代の出来事あれこれが、魅力的な、そう、藤森さんの建築にも通じるようなテイストの文章で活き活きと描かれている。図書館で偶々目にして借りて来て読んだ。


『源氏物語はいかに創られたか』柴井博四郎(信濃毎日新聞社2024年 図書館本)
本書で柴井さんはズバリ『源氏物語』の主人公は浮舟だとし、紫式部が意図したのは浮舟の「死と再生」、さらに平安貴族社会の「死と再生」を意味していると考えられる、と説いている。
やはり紫式部は貴族社会の退廃を嘆き、その再生の願いをこの長大な物語に託したのだ。
『源氏物語』関連本を読み続けよう。吉川弘文館の人物叢書には『紫式部』も入っている。

読みたい本は次々出現する・・・。


 


ブックレビュー 2024.04

2024-05-02 | A ブックレビュー


 5月、緑豊かな季節の到来。4月の読了本は8冊。このうち、安部公房が3冊。

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸(東洋経済新聞社2022年発行)
「なぜ領土を求めつづけるのか」「中国が南シナ海を欲しがる理由」「なぜアフリカにはお金がないのか」など、問われれば答えに窮するような問題について、著者が考える答えが平易な文章で明快に書かれている。著者は難しい問いに易しく分かりやすく答えるという、難しいことを本書でやっている。小説仕立てにしたのはグッドアイデア。

『源氏愛憎 源氏物語論アンソロジー』編・解説  田村 隆(角川ソフィア文庫2023年発行)
とんでもなくインモラルな小説だという評も、小説の白眉だという評もある源氏物語。いろんな評があるということも名作であることの証左か。

『けものたちは故郷をめざす』安部公房(新潮文庫1970年発行)
前衛的な作風で知られる安部公房。「え、これ安部公房?」、こんな感想を抱く。リアルな描写でイメージが立ち上がりやすく、読みやすい小説。

『カーブの向う・ユープケッチャ』安部公房(新潮文庫1988年発行)
密度の高い作品集。『カーブの向う』は『燃えつきた地図』の、『ユープケッチャ』は『方舟さくら丸』のそれぞれ原型となった作品。絶版は残念。

『カワセミ都市トーキョー  「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか』柳瀬博一(平凡社新書2024年発行)
**人間、意識していないものは、目の前にいてもまったく見えない。**(94頁)注意深く観察すれば、いろんなことが見えてくる。

『終りし道の標べに』安部公房(新潮文庫1975年発行)
難解。絶版。

『国道16号線   「日本」を創った道』柳瀬博一(新潮文庫2023年発行)
なぜ国道16号線エリアに太古からの人びとの様々な営みが積み重なっているのか・・・。この謎を解く鍵、それは「小流域地形」。おもしろくて、文庫化されたのも納得。

『生物から見た世界』ユクスキュル/クリサート(岩波文庫2005年発行)
「環世界」という言葉を知った。すべての生物はそれぞれ備わっている感覚器官によって世界を認識している。感覚器官の有無、器官の能力が違えば認識する世界も違う。人もそれぞれ違う環世界を生きている。


 


ブックレビュー 2024.03

2024-04-04 | A ブックレビュー



 安部公房生誕100年の今年(2024年)、『箱男』が映画化され、公開される。あの前衛的な作品がどう映像化されたのか興味深い。観たいと思う。新潮文庫に収められた安部公房作品(戯曲を除く)を一通り年内に再読しようと思い、3月は4作品読んだ。

さて、3月読了本のレビュー。

『他人の顔』安部公房(新潮文庫1968年発行、1972年8刷 解説 大江健三郎)
自己を根拠づけるものは一体何なのか、それは顔なのか・・・。

『人間そっくり』安部公房(新潮文庫1976年発行、1993年28刷)
「私は人間である」という証明不可能なことに対処するって、どういうことなのか・・・。

『石の眼』安部公房(新潮文庫1975年)
推理小説仕立ての作品。よくできたストーリーだとは思うが、なんとなく物足りなさを感じてしまった。

『夢の逃亡』安部公房(新潮文庫1977年)
初期の短編集。人間とはなにか、人間が存在するとはどういうことなのかを問う。安部公房の一貫したテーマ。

『ウマは走る  ヒトはコケる』本川達雄(中公新書2024年)
**サイズとデザインの生物学 完結篇!**(帯から)
歩く・走る、泳ぐ、飛ぶ。動物の移動という運動行為そのもののメカニズム、それを可能にしている動物の体のメカニズムを網羅的に分かりやすく説く。

『豆腐の文化史』原田信男(岩波文庫2023年)
豆腐の発生地、発生時期に関する論考、さらに全国各地を訪ね歩き、その地に伝わる豆腐の製法、調理法などを調査した成果をまとめた1冊。書名の「文化史」にこの本が決定版だという自負が感じられる。

『流人道中記』上下巻 浅田次郎(中央公論新社2020年 図書館本)
浅田さんはこの小説で裁きが依拠する「法」とは何か、を問う。
姦通の罪を犯し、蝦夷松前藩への流罪となった旗本・青山玄蕃と押送人の見習与力・石川乙次郎。津軽の三厩を目指す奥州街道ふたり旅に起こる騒動。最後に明らかにされる罪の真相。
浅田さんは上手い。『一路』上下巻(中公文庫)など他の作品も読みたい。

「21世紀版 少年少女古典文学館」(講談社 全25巻 図書館本)第2巻「竹取物語」現代語訳:北 杜夫 
「源氏物語」にも出てくる日本最古と言われる物語。


※ 『言語の本質』今井むつみ 秋田喜美(中公新書 過去ログ)が「新書大賞2024」に決まった(2024年3月24日付 信濃毎日新聞 文化短信)。


ブックレビュー 2024.02

2024-03-01 | A ブックレビュー




 2月に読んだ本は上掲写真の通り。長編小説が3作品。『類』と『風神雷神』上下は図書館で借りた本

『日本人なら知っておきたい日本の伝統文化』吉村 均(ちくま新書2023年)
以前同氏の『空海に学ぶ仏教入門』(ちくま新書2017年)を読んだが、その時**私には難しく、理解の及ぶ内容ではなかった。**と書いている。今回も同じで、内容を理解できなかった。

**いま私たちが伝統的と思っているものの多くが、いかにして明治に入ってからつくりだされてきたのか。民俗学や宗教学、倫理学等の観点から近代以降に日本人が見誤り、見失ってきたものを掘り起こす。** カバー折り返しにこのように本書が紹介されているが、民俗学や宗教学、倫理学に関する素養が全くないことが理解できない理由であろう。加えて理解力がかなり落ちてきていることも大きい。

『高校生のための経済学入門』小塩隆士(ちくま新書2024年)
経済に無関心ではいけない。基礎的な経済用語について学ぼうと本書を読んだ。「おわりに」で筆者は次のように書いている。**高校時代にどうしても経済学を学ぶ必要があるとは、筆者には思えません。もっと歳を重ねてからでも遅くないと思います。**(252頁)
学びたいと思ったときが「学び時」。

『暗夜行路』志賀直哉(新潮文庫1990年発行、1994年12刷)
暗い内容だけれど、最後を読んで救われるストーリー展開。名作は再読に耐えると、もう何回も書いたな。読了直後は唐突な終わり方、という印象だったが、今は実に効果的で印象に残る終わり方だと思っている。

『空想の補助線 幾何学、折り紙、ときどき宇宙』前川 淳(みすず書房2023年)
数理エッセイ集。幾何学で読み解くパスタの形、幾何学で鑑賞する名画、折り紙で解く数学の難問、谷川俊太郎の詩を天文学で解釈する・・・。

『ゴッホのあしあと』原田マハ(幻冬舎文庫2020年発行、2023年9版)
『たゆたえども沈まず』の副読本。原田マハさんのゴッホゆかりの地を巡る旅の記録。

『類』朝井まかて(集英社2020年)
朝井まかてさんは、ちょっと脇にいるような人物に光を当てる。森 鷗外には五人の子ども、三男二女がいたが、類は末子。その類を主人公にした鷗外の家族の物語。

『風神雷神』上下 原田マハ(PHP2019年)
原田マハさんの構想力はすごい!
**宗達が織田信長の前で作画を披露した事実はどこにもない。ましてや、信長の意向を受けて、使節とともにローマへ旅した ― などということは、研究者が聞けば一笑に付される「夢物語」である。
けれど ―。それでいいではないか。**(311頁) 
原田さんの手にかかると、この話が荒唐無稽には思えないから不思議。すばらしい。原田さんに拍手!

これまでに原田さんの作品を17作読んだ(過去ログ)。それらの中でアートの力、アートの魅力がストレートに描かれていて印象に残るのは『デトロイト美術館の奇跡』、この作品は好きだな。


今月はどんな本と出会うのだろう。


ブックレビュー 2024.01

2024-02-04 | A ブックレビュー

360

■ 2024年1月、今年初めてのブックレビュー。読んだのは写真の8冊と図書館本の朝井まかて『白光』。

『アノニム』原田マハ(角川文庫)
年越し本。既に読み終えている原田マハさんの作品の中では『アノニム』が一番娯楽性の高い作品だった。これで読もうと思っている作品は『風神雷神』だけになった。この長編小説を読んで一区切りとしたい。

『モダン』
『異邦人』
『美しき愚かものたちのタブロー』
『楽園のカンヴァス』
『黒幕のゲルニカ』
『本日はお日柄もよく』
『たゆたえども沈まず』
『カフーを待ちわびて』
『デトロイト美術館の奇跡』
『リーチ先生』
『リボルバー』
『ジヴェルニーの食卓』
『常設展示室』

『グッドバイ』朝井まかて(朝日文庫)
実在の商人・大浦 慶の生涯。表現力豊かな朝井さんの作品は追っかけしてもよい。

『免疫「超」入門』吉村昭彦(講談社 ブルーバックス)
ヒトが備えている免疫システムのなんと複雑でなんと巧妙なことか。記憶力の衰えが理解を阻害している。残念。

『坊っちゃん』夏目漱石(集英社文庫)松山旅行を機に再読した。

松山での一年足らずの教員生活の後、東京に戻ってきた坊っちゃん。**(前略)革鞄を提げたまま、清や帰ったよと飛び込んだら、あら坊っちゃん、よくまあ、早く帰って来て下さったと涙をぽたぽたと落とした。おれもあまり嬉しかったから、もう田舎へは行かない、東京で清とうちを持つんだと言った。**(173頁)

これはもう母と息子の涙の再会シーンではないか。読んでいてそう思ったら涙が出た。漱石は坊っちゃんに我が身を重ね、清に母親を求めていたのではないか。そう、坊っちゃんにとって、そして漱石にとって清は母親だったのだ。以上01.15の記事。

『眠れないほど面白い 空海の生涯』由良弥生(三笠書房 王様文庫)
空海は天才だ。他に評しようがない。

『源氏物語と日本人』河合隼雄(岩波現代文庫)
**紫式部という女性が、自分の内界に住む多くの分身を語りつつ、全体として一人の女性存在を表そうとするとき、その中心に、言わば無人格的な光源氏という男性を据えることにしたと考えられる。**(201頁)自分の分身としての女性像。なるほど、心理学者である著者は、こう捉えるのか・・・。

『生き物の「居場所」はどう決まるか』大崎直太(中公新書)
生物が個体として持っている生き残るための複雑なシステム。そして本書に示されている群として持っている生き残るための様々な戦略。

『在日米軍基地』川名晋史(中公新書)
**世界で最も多くの米軍基地を抱え、米兵が駐留する日本。米軍のみならず、終戦後一貫して友軍の「国連軍」も駐留する。なぜ、いつから基地大国になったのか。米軍の裏の顔である国連軍とは。**カバー折り返しの本書紹介文より 

本書から日本が戦争しない国から戦争できる国、戦争する国に変わっていくプロセスを読み取ることができる。

『白光』朝井まかて(文藝春秋)
この国初の聖像画師(イコン画家)山下りんの生涯。『グッドバイ』の大浦 慶と山下りん。ひたすら自分の人生を生き切ったふたりの女性。

*****
2020年、松本市内の古書店に1,700冊の本を引き取ってもらった。その時、店主のWTさんから読書の傾向が全く分かりません、と言われたけれど、1月のブックレビューを見ると、自分でも分からない。

今後、読書困難者にはならないと仮定しても読むことができる書籍は10年で500冊。どうする、何を読む。





ブックレビュー 2023.12

2023-12-29 | A ブックレビュー

520
 今日は29日。今年、2023年も残すところあと2日。11月末に12月は不要な外出を控え、本を読もうと決めていた。で、読んだのは15冊。ほぼ二日に一冊というハイペースで読んだ。月に15冊も読んだのは初めて。写真に写っているのは図書館本1冊を除く14冊。それにしてもよく読んだ。

原田マハさんのアート小説3冊とエッセイ1冊、建築本3冊、大塚ひかりさんの源氏解説本2冊、その他6冊という内訳。それぞれの作品のレビューは省略する。原田マハさんの作品では後『風神雷神』を読んで一区切りとしたい。

※ 今日読み終えた『眩』朝井まかて(新潮文庫2018年)について、前稿に追記した。


 


ブックレビュー 2023.11

2023-11-30 | A ブックレビュー

360
 明日はもう師走! もう何回も書いているけれど、時の経つのは本当に早い。

11月のブックレビュー。

『火の路 上下』松本清張(文春文庫)
古代日本、飛鳥の謎の石造物はペルシャの拝火的宗教・ゾロアスター教と関連するのではないか。松本清張の古代史に関する「論文小説」。初読は1978年7月、45年前。

『暗幕のゲルニカ』原田マハ(新潮文庫)
ピカソの「ゲルニカ」を巡るアートサスペンス。11月は原田マハ月間、6作品読んだ。

『本日は、お日柄もよく』原田マハ(徳間文庫)
スピーチを題材にした小説。結婚式のスピーチに涙し、衆議院選挙の決起集会のスピーチに感動。原田マハさんの文章力、表現力に拍手!

『たゆたえども沈まず』原田マハ(幻冬舎文庫)
アートの世界、史実に虚を加えて浮かび上がらせたゴッホの生き様。

『カフーを待ちわびて』原田マハ(宝島社文庫)
原田マハさんのデビュー作にして第1回「日本ラブストーリー大賞」受賞作。沖縄の小島、与那喜で繰り広げられるラブストーリー、と書きたいところだけれど、どうもストーリーの展開に馴染めなかった。物語の最後に手紙で明かされる幸の過去。幸の行動から感ずる性格であれば、明青に会った当日に明かすだろうと。でもそれでストーリーが全く違う展開になってしまう・・・。

『職人たちの西洋建築』初田 亨(ちくま学芸文庫)
2002年の発行で1200円(税別)の文庫。読みたい本は高くても購入したい。何年ぶりかの再読。久しぶりに建築関係の本を読んだ。西洋からもたらされた新たな建築材料、新たな工法、新たなデザイン。これらを取り込んだ職人たちの心意気、技術力。
**(前略)建築生産に直接たずさわってきた棟梁・職人たちがいてはじめて、日本近代の建築をひらいていくことができたのも事実である。**(315頁)

『デトロイト美術館の奇跡』原田マハ(新潮文庫)
中編のアート小説。デトロイト美術館(DIA)に展示されているセザンヌの「画家の婦人」に魅せられたある夫婦の物語。原田マハさんはアートが友だちのような身近な存在になって欲しいと願っているのだろう。

**――友人たち? いったい誰のことだい?
フレッドが尋ねると、ジェンカは、少しだけてれくさそうな笑顔になって、
――アートのことよ。アートはあたしの友だち。だから、DIAは、あたしの「友だちの家」なの。
うれしそうに答えたのだった。**(26頁)

『リーチ先生』原田マハ(集英社文庫)
イギリスの陶芸家バーナード・リーチの生涯。バーナード・リーチについては名前と松本にも来たことがあるということくらいしか知らなかった。本書を読んで、ロンドン留学中の高村光太郎と知り合ったことがきっかけで来日することになったこと、陶芸を始めることになった経緯、それから柳 宗悦や後に人間国宝になった陶芸家をはじめ、何人もの人たちと交流し、活動したこと、帰国してセント・アイヴスでリーチ・ポタリーを開設し、陶芸をイギリスに根づかせていったことなどを知った。

このような史実を架空の人物を加え、リアルな小説にして多くの読者を得ている原田マハさん。読みたい作品で未読なのは『リボルバー』と『風神雷神』。12月に読もう。