透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

情に厚い主人公たち

2016-08-31 | A 読書日記

『ひょうたん』宇江佐真理/光文社文庫を読み終えた。

この物語の主人公の音松も、浅草田原町で古着屋を営んでいる喜十も、それから廻り髪結いの伊三次も皆、情に厚い。彼らの奥さんはしっかり者で、それぞれ良い組み合わせ、仲の良い夫婦だ。

江戸の下町の本所で小道具屋を営む音松の奥さんのお鈴さんは料理好き。店の前に七輪を出して煮物などをする。喜十の奥さんのおそめさんや伊三次の奥さんのお文さんが料理をするシーンとは違い、お鈴さんが料理するシーンは何回も出てくる。宇江佐さんも料理好きだったに違いない。

お鈴さんの料理目当てに音松の幼なじみが晩飯刻(小説の中の表記に倣った)にやってくる、手ぶらではなくて酒や食材を下げて。彼らは連れ立って花見に出かけたりもする仲の良い仲間。

なんだかいいなあ、彼らの関係。やはり持つべきは気の置けない友だちだ。

ここで宇江佐さんの作品は一休み。次は東海林さだおの食エッセイ『アンパンの丸かじり』文春文庫。週刊朝日に連載中のエッセイをまとめたもの。


 


朝焼けの詩

2016-08-31 | E 朝焼けの詩


撮影日時 160831 05:24AM

■ 大型の台風10号は日本の南の海上でUターンして日本に接近、太平洋側を北上して岩手県の大船渡市付近に上陸した。その後、東北を横断して日本海に抜けた。東北に上陸したのは1951年(昭和26年)の統計開始以来初めてのことだったという。台風10号は今までにないコースをとったことになる。

日本から遠ざかり、「よかった」と思っていたら、日本を目指して引き返してくるという、何やらパニック映画に出てくる怪獣の行動パターンのようだった。

*****


今朝もリビングの窓から朝焼けした東の空をしばらく眺めていた。空の表情は刻一刻と変化して数分後に朝焼けは消え、雲は銀色に輝いた。

この朝焼けはこの日この時限り。

今日も何か良いことがありますように・・・。


 


重要文化財 旧開智学校

2016-08-29 | A あれこれ



■ 女鳥羽川沿いにあった頃の開智学校の裏側(西側)。開智学校の正面は東を向いていたが、現在地に移築するとき、正面は南に向けられた。



松本市中央図書館3階から見る旧開智学校の裏側(北側)(上の写真と同じ面)



こちらがおなじみの正面(南側)。

設計・施工は地元松本の宮大工・立石清重。デザイン力があり、塔をきちんと造るという意識が感じられる、とは昨日(28日)に行われた講演会での藤森照信氏の弁。講演会では旧開智学校の重要文化財指定の裏話を聞くことができた。

旧開智学校が重文に指定された1961年(昭和36年)当時、審査にあたっていた内田祥三先生は、辰野金吾の作品が重文に指定されていないのに、大工の造った建築を認めるわけにはいかないと・・・。それを説得したのが関野克先生。松本まで出かけて実際に開智学校を見てもらう必要があったのだが、昭和の大修理(1950年~1955年)を終えた松本城を見に行く「ついで」に見てもらって、まあ仕方がないか ということになったとのことだった。で、旧開智学校は大工の作品で最初の重文になったという。

9月17日から始まる「重要文化財旧開智学校校舎創建140周年記念特別展」は是非観たい。


過去ログ1

過去ログ2




市内を流れる女鳥羽川沿いにあったこの学校はたびたび水害を受けたようで、明治29年7月の大雨による被害の様子を写した写真が校舎内に展示されている。


「シン・ゴジラ」

2016-08-28 | E 週末には映画を観よう

 東日本大震災、福島第一原発事故が東京で起こったら・・・。「シン・ゴジラ」は東京大災害シミュレーション映画。その時、政府は対処できる? 自衛隊はどうする? アメリカの対応は?

昨日(27日)シネコンで「シン・ゴジラ」を観た。

ゴジラの体長は今までで最大で118.5メートルというから、東京タワーの展望台の高さ(120メートル)とほぼ同じ。巨大なゴジラが突如海から出現して東京の街を移動していく。破壊されるビル群。逃げ惑う住民。東京から地方への避難民を乗せたバスで高速道路は埋め尽くされ・・・。

大迫力のパニック映画だけれど、上記の大災害を映像で繰り返し見るというリアルな体験をしているから、既視感があって・・・。

この映画でゴジラは徹底的に災厄の象徴として描かれている。そう、大震災や原発事故のメタファーとして。ゴジラに同情する余地が全くない。ゴジラは核をつくり出した人間の罪の結果として生まれてきた、ある意味かわいそうな存在でもあるのに。少し残念。

ラスト、東京駅周辺の高層ビルが意図的に破壊されて次々とゴジラに倒れかかる。そしてついに大量投与された血液凝固剤の効果でゴジラは東京駅で「フリーズ」状態になる。これは福島原発事故への対処と似てはいないか。

ゴジラのフリーズ状態が融ければ、多国籍軍による核兵器攻撃のカウントダウンが再スタートする。

ヒロシマ、ナガサキ、そしてトウキョウ・・・。この映画に込められたメッセージはその時の大変な惨状をイメージして、ということなのかもしれない。これが私の解釈。

 エンドロールでは多数の俳優やスタッフ、協力企業などが流れ、アメリカ映画のようだった。


 


「ひょうたん」宇江佐真理

2016-08-28 | A 読書日記



 

 今秋はとにかく宇江佐さんの作品を読む。で、買い求めたのが『ひょうたん』/光文社文庫。

下町・本所で古道具屋を営む音松と妻のお鈴。川と堀割の街で繰り広げられる人情物語。

カバー折り返しに載っている宇江佐さんの顔写真は新潮文庫や文春文庫の写真とはずいぶん印象が違う。若いころの写真と思われるが、メガネをかけていない。

さて、読み始めよう。


 


「雷桜」宇江佐真理

2016-08-27 | A 読書日記



 今まで好んで読んできた市井の人々の日常を描いた人情物語とは一味も二味も趣を異にする作品。ファンタジックな純愛物語。恋愛小説好きの女子中高生におすすめ。

生まれて間もなく何者かにさらわれて山中で育った庄屋の娘・遊と御三卿清水家の当主清水斉道。斉道は徳川家斉の息子で、後に御三家紀伊徳川家の養子となる人物。

出会うはずのないふたりが自然豊かな美しい村で出会ったのは運命のいたずらか、必然か・・・。生涯たった一度だけの恋。

**遊にとっては星の瞬きにも似た儚い思い出である。遊はそれを後生大事に胸に抱えて生きてきたというのか。**(372頁)

そう、人は甘美な思い出に生きることだってできる。


作家の構想力に脱帽。


休肝日

2016-08-27 | A あれこれ

■ 週2日は飲酒を控えて休肝日にすべき、と聞く。週休2日、健康のことを考えてそうしている人も多いのではないか、と思う。ならば自分は週休3日にしよう、と思った。6月末のことだった。それまではほぼ毎日飲んでいた。ただし量はそれほど多くはなく、平日は350mlの缶ビールをひと缶だけ。庶民のささやかな楽しみというわけだ。

休肝日を週3日? 何も今さらストイックな生活をすることもないだろう、酒は百薬の長、毎日飲もうという内なる甘いささやきが・・・。でも6月27日の月曜日から月、火、木曜日を休肝日とする生活を始めた。

8月8日の月曜日に入院した。その週は当然のことながら、全く飲酒はしなかった。実に健康的な病院食のみで過ごした。

翌週16日の火曜日は退院祝いでビールを少し飲んだ。水曜日も木曜日も。辛うじて19日金曜日は飲酒を控えて、この週は週休2日。

残念ながら週休3日は7週間で途切れていまった・・・。

でも今週は再び月、火、木曜日と週休3日を実行した。 昨晩(26日)は缶ビールをひと缶飲んで、
すっかりいい気分になって、アルコールな夜のブログを書くこともなく寝てしまった。

これからも、週休3日を続けるかな・・・。いっそのこと飲むのは週末だけにするかな、その方が生活に変化、というかメリハリがついていいかもしれない。でも飲みたい日だってあるよな~。


  


宇江佐作品を読む

2016-08-25 | A 読書日記

『雪まろげ 古手屋喜十 為事覚え』宇江佐真理/新潮文庫を読み終えた。

浅草で古手屋を営む喜十とおそめ夫婦には子どもがいなかったが、店先に置き去りにされていた赤ん坊、捨吉を育てている。

「髪結い伊三次捕物余話」は仲のよい夫婦の子育て物語としても読むことができた。「古手屋喜十 為事覚え」もまた子育て物語としてシリーズ化することが意図されていたとも思われるが、作者が亡くなってしまったため、作品は2冊のみで続編が書かれることはなくなってしまった。髪結い伊三次より、好みのシリーズになったかもしれず、なんとも残念だ。



この際、宇江佐作品を集中的に読むことにする。で、次は『雷桜(らいおう)』角川文庫。

この作品について宇江佐さんは『ウエザ・リポート 見上げた空の色』のなかで**ただ、心の片隅には『雷桜』の原型らしきものは存在していた。(中略)ヒマラヤかどこかの山奥で狼に育てられた少女が発見されたというニュースを読んだ記憶があった。(後略)**(250、251頁)と書いている。私はこの「ウエザ・リポート」を入院中に読んでいた。

この原型をどのような物語に仕立て上げたのだろう・・・。


 


朝カフェ読書で「雪まろげ」

2016-08-24 | A 読書日記



■ 『古手屋喜十 為事覚え』宇江佐真理/新潮文庫を読み終えた。

昨日(23日)の朝カフェ読書@いつものスタバで『雪まろげ 古手屋喜十 為事覚え』宇江佐真理/新潮文庫を読み始めた。

主人公の喜十は女房のおそめとともに浅草田原町で古手屋を営んでいる。古手屋は着物のリユース・ショップ。江戸時代、庶民は新品の着物にはとても手が出なかったようで、古手屋で買うのが一般的だったという。

北町奉行所隠密廻り同心の上遠野平蔵は変装用の衣装を喜十の店で借りている。その縁で、喜十は上遠野が持ち込む事件の解決を手伝っている。被害者が身に着けていた着物が事件解決の手がかりになることもあったりするわけで。

カフェで読んだ第一話の「落ち葉踏み締める」には涙が出た。

喜十夫婦には子供が無く、店先に捨てられていた赤ん坊を我が子として育てている。読み終えた前作の「糸桜」にはこの経緯が描かれていた。「落ち葉踏み締める」は赤ん坊を捨てた家族の物語。その家族の悲劇が描かれる。

父親を亡くした新太少年はしじみを採って家計を助けている。下に5人も弟や妹がいて生活は大変。

**「捨吉をどこかに置いてきておくれよ。いつまで経っても乳をねだるんで、あたしはほとほと愛想が尽きたんだよ」と、うんざりした表情で言った。
「おいらにゃできない」
新太は唇をきつく噛んでから応えた。
「そいじゃ、手っ取り早く川に流すかえ。育てられない子供を川に流す所もあるらしいからさ」**(15、6頁)

それで新太はやむなく末っ子の捨吉を喜十の店先に置き去りにする。喜十のところにはしじみを売りに行ったことがあったのだった。

読み進むと驚きの悲劇が待っていた・・・。

第二話以降、どんな物語が描かれているのだろう。




 


「古手屋喜十為事覚え」宇江佐真理

2016-08-21 | A 読書日記



 入院中に『ウエザ・リポート 見上げた空の色』というエッセイ集を読んだが、宇江佐さんの作品はエッセイより江戸の市井の人々の物語の方がいいと思った。

昨日『古手屋喜十 為事覚え(ふるてやきじゅう しごとおぼえ)』新潮文庫を買い求めた。『髪結い伊三次捕物余話』同様、シリーズ化をもくろんでいたようだが、第2弾「雪まろげ」が発表された後、宇江佐さんは亡くなってしまった(15年11月)ので、この人情捕物帳は2作品のみで終わってしまった。

この秋は宇江佐作品を読むことにする。