和辻哲郎の『風土 人間学的考察』岩波文庫をようやく読み終えた。
少し長くなるが引用文を載せる。**さて以上のごとく規則にかなうことを特徴とするヨーロッパの芸術に対して、我々は、合理的な規則をそこに見いだし得ぬような作品を東洋の芸術の内に見いだす。もとよりそこにもまとまり(注:原文は傍点)はある。そうしてそのまとまりは何らかの規則に基づいているであろう。しかしその規則は数量的関係というごとき明らかな合理的なものではない。ではそれはいかなる性質のものであろうか。**
これは、可視的な秩序に基づく「繰り返しの美学」と日本庭園に代表されるような不可視な秩序の「繰り返さない美学」について考えている私と問題意識としては極めて近いのではないか・・・。
次のような具体的な指摘もしている。
**ギリシアの彫刻はすでにフィディアス以前からピタゴラス学派の数の論と密接な関係を持っていた。比例は彫刻家の重大な関心事の一つである。すなわち自然の秩序正しさは芸術家の観る立場の中で発展した。ここにギリシャ芸術の合理性がある。(中略)ギリシャにおいては、幾何学の知識が芸術を幾何学的な規則正しさに導いたのではなく、幾何学が成立する以前にすでに芸術家が幾何学的な比例を見出していたのであった。**
和辻哲郎は年に亘ってこの問題について論考を重ねていたのだ。それも今から80年近く前・・・。
和辻哲郎はこの問題を風土との関わりによって解き明かそうとしていた。芸術、文化という広汎な領域に、「風土」というこれまた壮大な概念を導入し得たところに和辻の優れた洞察力が表れていると思う。