透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「幕の内弁当の美学」

2007-04-30 | A 読書日記


 幕の内弁当には様々なおかずが等価な扱いでコンパクトにきれいに並んでいる。この幕の内弁当的という観点によって工業製品もデパートも都市も・・・それこそなんでもかんでも捉えて論じた日本文化論。今月の14、15日と東京したが、その際青山ブックセンターで買い求めた。隙間時間読書で先日読了。

ところで、国立新美術館で開催されていた「異邦人たちのパリ1900-2005」について、私は先月(03/13)ブログにこう書いた。**展示作品が約200点という大規模な展覧会。藤田嗣治、ピカソ、シャガール、モディリアーニなど有名な画家の作品が数点ずつ並んでいました。盛り沢山な内容は、喩えはよくありませんが「幕の内弁当」のようです。**

偶然だが、この本と同様の観点で捉えていた。

最近のケータイもいろんな機能をコンパクトに収めているという点で幕の内弁当的だ。

一見何の関係も無いと思われるもの、例えば「ケータイとデパート」を幕の内弁当的なものという観点から捉えると「共通性」が見えてくる・・・。

著者の榮久庵憲司さんは日本の工業デザイン界の草分け的存在。製品の開発に際してこのような発想法は有効なのであろう、もちろん建築デザインにも。

さあ読もう!

2007-04-29 | A 読書日記



 映画「惑星ソラリス」を岩波ホールで観たのは随分昔のことだ。首都高速道路が未来都市のシーンとして登場していたことを今でも覚えている。

この映画の原作『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム、東京の友人のブログ「月下のひとりごと」のお薦め本リストに挙がっている。

この思索的なSFを読んだのも随分前のこと。さて今日から『百億の昼と千億の夜』ハヤカワ文庫を読む。この本も同リストの1冊。

著者の光瀬龍は東京教育大学理学部卒業後、文学部哲学科に学んだとカバーの折り返しに紹介されている。このSF作品もまた思索的な内容だろうと想像がつく。友人のリストに挙がっている本は速読が出来ないものばかり、多分この本も読了するのに時間がかかるだろう。


「疾走」

2007-04-29 | A 読書日記


●『疾走』・・・
久しぶりに長編小説を一気に読んだ。

人はひとりで生まれてひとりで死んでいく。人はもうひとりの自分を探す。自分と「同じ」と思えるもうひとりの自分探し・・・。主人公シュウジがもうひとりの自分、エリと出会い「ひとつ」になるまでの数年間を描いた純愛小説。そう、私は純愛小説として読んだ。

登場人物に自分を同化させて読む。読者が若い女性ならおそらくエリになってシュウジのことを想うだろう・・・。「シュウジ!逃げ延びて!生きて!」エリの願いはそのまま彼女の願いに違いない。

それにしても苛烈な人生だ。まだ中学生!じゃないか。15歳にして人生を「疾走」してしまったシュウジ・・・。凄い小説に出会ってしまったわたし・・・。

「袋小路の男」

2007-04-28 | A 読書日記



● **あなたは、袋小路に住んでいる。つきあたりは別の番地の裏の塀で、猫だけが何の苦もなく往来している。** 

表題作に登場する男、小田切は作家志望だがなかなか芽が出ない、袋小路状態。小田切にぞっこんで、なんだかストーカーチックに思いを寄せている「私」。ふたりの関係も袋小路。

中学生の時、私は一年先輩の小田切を好きになる。それ以来12年間ふたりの間には「何」も起こらない。私は**「小田切さん、このままじゃつらいです。最後に一度だけでいいから」そのあと迷って「一緒に寝て下さい」**とメールを送る。男は断る。

「恋人未満家族以上」と作者はふたりの関係を表現している。言い得て妙(ってあたりまえか)。作者にとって男と女の理想的な関係なのかもしれないな、と思う。

「袋小路の男」は私(女)の視点から描かれていたが、次の作品「小田切孝の言い分」はふたりの関係を、ときには男の視点から描いた続編。

彼女は会社の上司と「して」妊娠してしまう。そのことを電話で男に告げる。この男はこんな時優しい。

**「で、手術はいつ?」「えっ?」「だからいつ? 決めたんだろ」日向子が戸惑っていると、小田切は「車で送ってやるよ」**

ラストはこの作家なりのハッピーなエンディング。ふたりは袋小路から抜け出すかもしれない・・・、私はそう思った。


GWだ、小説を読もう

2007-04-27 | A 読書日記

● 今朝のウォーキング 唐松の芽吹き、ストライプな畑

  
                  
             


  
    ● GWに読みたい本

『袋小路の男』絲山秋子/講談社
帯によると「恋人でも友人でもない関係を描く、話題沸騰の小説」だそうだ。『沖で待つ』の私と太っちゃんの関係もそうだった。今夜読むか・・・。

百億の昼と千億の夜』光瀬龍/ハヤカワ文庫
「不朽の名作」だと東京の友人がブログで紹介している。書店で見つからず注文しておいたら、タイミングよく今日手元に届いた。これはじっくり読まなくてはならない。

『疾走』重松清/角川文庫
みやざーさんも読んだというこの本。以前書店で平積みにされていたのだが、カバーのデザインが凄くて手にする気にはならなかった。この顔は小説の中身と関係があるんだろうか・・・。

さあ、読書のGW、始まり始まり。

 


どんな小説なんだろう

2007-04-26 | A 読書日記


 桜の季節から新緑の季節へ。

手元にある重松清の文庫を並べてみた。新緑の野山をイメージさせる背表紙。講談社文庫は水色だが、新潮文庫、文春文庫、中公文庫はともに緑。

この作家はうまいと思う。とにかく読ませる。「疾走」は未読、講談社文庫だと思っていたが、角川文庫だった。酔族会の参加者のSさん(そうか、この人もSさんだ)が**興奮して、動揺して・・・しばらくは情緒不安定になり・・・**って、一体どんな小説なんだろう。GWに読んでみよう。

布糸木展@原村

2007-04-22 | A あれこれ




 八ヶ岳の麓の原村のミニギャラリーはなのいえで行なわれる「布糸木展」のことは昨年の4月にも書きました。今年も案内状をいただきました。

かわいらしい小物を展示する企画、案内状によると今回で3回目だそうです。自分達の作品を展示販売する機会があるのは、布糸木の仲間の皆さんの励みになるでしょう。写真は叔母の作品。

新緑まぶしいこの季節、あの辺りを散策するのもいいでしょう。


 


下調べ

2007-04-22 | A 読書日記

 ワタリウム美術館(渋谷区神宮前)でブルーノ・タウト展をみたことは既に書いた。3年の在日期間中、タウトは実に精力的に活動していたことを展示によって知った。

ブルーノ・タウトは毎日の所見や感想を克明に日記にしたためていた。その日記も展示されていたが、小さな字でぎっしり書きこんであった。日本でその日記が訳されて『日本・タウトの日記』として出版されたのは氏が亡くなってからのことだった。



タウトの『日本美の再発見』岩波新書の発行は1939年、私の手元のものは1974年、32刷。この本のことを思い出したのは数日前のこと。再読してからタウト展をみていれば展示品にもっと関心を寄せることが出来たと思う。ちょっと残念。まもなく連休、この日本建築観察記録を改めて読んでみよう、と思う。
   _____

●『集合住宅の時間』大月敏雄/王国社



著者の大月さんは大学で集合住宅の歴史を研究している方。この本にも大月さん指導の卒論や修論からの引用がある。古い写真や図面が数多く掲載されていて興味深い。雑誌「住宅建築」などに載せた小論などをまとめた本。

渋谷の宮益坂にある宮益坂アパートの写真も大きく載っているが、このアパートは住居部分をほとんどオフィスに変えながらも生き長らえているという。

そうか、宮益坂は先日歩いたんだった。新緑の街路樹がきれいだった。昭和28年竣工のこの古い建築の外観だけでも観察しておくべきだった。


 


アルイタ、アルイタ

2007-04-16 | A あれこれ
 土日の2日間東京していた。東京では今回もよく歩いた。久しぶりに友人のS君(花見をしたときのS君とは別人)とSさんと西麻布で飲んだ後、表参道経由で青山まで歩いた。時間の経過をよく覚えていないが1時間以上歩いたと思う。青山で2次会、そして池袋で3次会。もう電車がなくなってタクシーでホテルに戻ったときはとっくにシンデレラタイムを過ぎていた・・・。深夜まで飲んだというのは一体いつ以来だろう。

次稿では今回の成果を書こう。

福永武彦を読む

2007-04-13 | A 読書日記

 春爛漫 松本城の桜(070413)


● 手元にある新潮文庫の『愛の試み』平成13年(41刷)のカバーの折り返しに載っている福永武彦の作品は『草の花』『愛の試み』『海市』の3冊のみ。昭和56年(45刷)の『草の花』には9冊載っているのに・・・。

この作家の繊細で静かな文章が好きだが久しく読んでいなかった。きょう短編の「廃市」を再読した。

卒業論文を書くために地方の「水の町」の旧家で大学最後の一夏を過ごした私。10年後、新聞でその町が大火になって町並みのあらかたが焼けたという記事を目にして、水の町での出来事を回想する・・・。

この『廃市・飛ぶ男』や『忘却の河』も既に絶版、名作が次々絶版になってしまうのはなんとも寂しい・・・。


3つの理由

2007-04-11 | A 読書日記


● 古刹の白梅 

 しばらく前に読んだ『美の構成学 バウハウスからフラクタルまで』三井秀樹/中公新書、自室の書棚を見ていて2冊あることに気がついた。1冊は初版で96年の発行。この年に既に読んだ本だった。



 最近この本を読んだのは建築造形における「繰り返し」という秩序に関心があったから。前にこの本を読んだ動機は今となっては分からない。デザイン全般に関心があるからなんとなく手にしたのかもしれない。およそ11年ぶりに再読したことになるが、既読感は全くなかった。内容を忘れていたのだ。

 福永武彦の『愛の試み』『草の花』(新潮文庫)もそれぞれ2冊あるが、読んだことを忘れてしまったからではない。用紙が変色してしまっていたから再読する時に改めて購入したのだ。

 他にも単行本で読んで再読を文庫で、と思って2冊目を購入することもある。文庫本はポケットに入るので持ち運びに便利、隙間時間読書に適している。『日本の景観』樋口忠彦 を単行本(春秋社)で読んだのは81年。文庫本(ちくま学芸文庫)は昨年購入したものの、いまだに積読状態。



手元に同じ本が2冊あるのは、以上のいずれかの理由による。

ところで世の中には読書用と保存用、同じ本を必ず2冊購入する人がいるらしい。私の理解及ばぬマニアな世界。


「負ける」建築

2007-04-11 | A あれこれ

 松本市街地の桜が満開になった。しばらく前に目隠しフェンスの前の枝だけが咲いていた市内A校の桜もこの通り。



● 今夜は「プロフェッショナル」に建築家の隈研吾さんが登場する。隈さんと言えば先日東京ミッドタウンにオープンしたサントリー美術館やしばらく前に完成した高知県の梼原町の庁舎などの設計者。番組で隈さんが何を語るのか注目。

以下追記 

プロフェッショナルをみた。

「隈研吾 創造を生み出す現場」 制約に負けることから独創が生まれる

番組でも紹介された隈さん30代の作品「M2」、混沌とした東京を建築的に表現したのだという。自信作を酷評されて隈さんは落ち込んだらしい。確かにあの作品を評価する気にはなれない、どうしても。この人は真面目に建築しているんだろうか、そう思ったことを覚えている。

それが環境に「負ける」建築を創造する原点だという。環境に負ける、要するに環境に溶け込んだ、環境によく馴染むということだろう。梼原町の庁舎は地元産の杉をふんだんに使った木造建築。あの「M2」と同じ設計者の作品とは到底思えない。他にも最近のプロジェクトは「真面目」なものばかり。

番組では熊本で進行中のプロジェクト、竹構造のレストランが紹介された。12月にオープンする予定だという。斬新な構造だった。

いままで隈さんの作品に注目したことがなかった。サントリー美術館をじっくり観察しなくては・・・。

サントリー美術館 ↓

http://www.suntory.co.jp/sma/


脳科学

2007-04-08 | A 読書日記


1976年発行(左) 2007年発行(右)

● ブルーバックスを読んだのは20年ぶり、いやもしかしたらそれ以上になるかもしれない。

左がブルーバックスの一般的なカバーデザインだが、実はこのデザインがあまり好きではない。ブルーバックスでは直感的に認識しにくいことをイラストで説明しているのだが、なんだか厳密さに欠けているようで好きになれないのだ(厳密さを犠牲にして分かりやすいイラストを描いていることは分かるのだが)。それにこの青が好きでない。

ずっと遠ざかっていたのは内容そのものではなくて、このデザインが理由だった。同じ理由で中公文庫の吉村昭の作品をほとんど読んだことがない、新潮文庫の作品はほとんど読んだというのに。

先月、東京丸の内の丸善で『進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線』が平積みされているのを目にした。デザインが違う!赤い表紙のブルーバックス、そしてテーマは脳。迷うことなく購入した。しばらく積読状態だったが先日一気に読了した。例のデザインでなくて良かった。面白い本を読み逃すところだった。

タイトルにもあるが、これは脳科学の最新の知見、そう専門雑誌に掲載されたばかりの情報などを基に高校生に講義をするという試みを収録した本。朝日出版社より刊行されたものをブルーバックス版として刊行するに際し、大学院の学生を対象に行なった講義を追加収録したという。この部分が実に興味深い内容となっていて、客観性や再現性という科学に不可欠な条件を満たさない「意識」や「心」といった哲学的、宗教的なテーマについても扱っている。

難しいことを難しく語るのは難しいことではないと思う。易しいことを難しく語ることも難しいことではない。この本は難しいことを易しく語るという難しいことをしている。

帯の**しびれるくらいに面白い**は、この本に限っては決して大げさな表現ではない、と思う。