透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「生きのびる からだ」

2012-04-30 | A 読書日記

 南木佳士のエッセイ集『生きのびる からだ』文春文庫を読んだ。

大型連休の前半が終わるというのに読了本が1冊も無いというのは落ち着かない。で、早朝に渚(松本市内)にある24時間営業の書店で同書を買い求め、カフェで一気に読了したという次第。

南木佳士の作品は文庫(文春文庫)になると欠かさず読んでいる。上州の山村で生まれ、3歳前に母親を肺結核で亡くし、以後祖母に育てられたこと。芥川賞を受賞した翌年にパニック障害を発病し、うつ病へと移行したこと。50歳を過ぎてから山登りを始めたこと。それから自然に親しみ、地域の人たちと交流しながら日々静かに暮らしていること。これらのことがエッセイに繰り返し綴られる。このことが分かっていてもやはり買い求めて読む。ときどきこころがこの作家の静かなエッセイを欲するから。

**あらゆる悲観が飛びかうきょうこのごろ、最後に信頼できるのは、案外、おのずから生きのびようとするからだのしたたかさなのだ、きっと。**あとがきより



 


ブックレビュー 1204

2012-04-30 | A ブックレビュー



■ 今日で4月も終わり。これから一年で一番好きな新緑の季節になる。4月の読了本は写真の4冊。

庚申信仰は古くから中国で信仰されてきた「道教」の教えから起こったもの。庚申塔を観察するようになって、道教について知りたいと思い、『道教の世界』菊池章太/講談社選書メチエを読んだ。道教がとても広い世界だということは分かったが、それ以上は理解が及ばなかった。

『古事記誕生 「日本像」の源流を探る』工藤隆/中公新書、『「古事記」神話の謎を解く かくされた裏面』西條勉/中公新書 今からちょうど1300年前、古事記が誕生したといわれる。道祖神観察から興味が古事記に及んだ。道祖神が古事記に出てくる猿田毘古という神を祀っているという説を知ったから。いままで全く無縁な書物だと思っていた古事記、その世界を覗くことができたのは成果。

『考現学入門』今和次郎/ちくま新書 いろんなことに興味を持って観察することは楽しい。新しい学問はその対象をよく観察することから始まる。火の見櫓を数多く、じっくり観察して、ヤグラノロジオを興そう(笑)。


 


山形村下竹田の庚申塔

2012-04-29 | B 石神・石仏





 このところ火の見櫓と桜のツーショットを続けたが今回は庚申塔を載せる。

山形村下竹田の火の見櫓の隣にこの庚申塔が祀られている。石塔の左側面に「文化九壬申夭十一月日」と彫り込んである。この年を調べて、西暦1812年、今からちょうど200年前だと分かった。この年の干支は確かに壬申。次の文字は「夭」、わかいという意味で夭折などと使われるが、この場合はどういう意味なんだろう・・・。

庚申塔は庚申の年に建てられることが多かったと聞くが、60年に1回しか巡ってこない。だからせめて申の年にしようと庚申講で話し合って決めたのかもしれない。申は12年に1回巡ってくる。

以前は道祖神しか興味がなかったが、庚申塔や馬頭観世音、二十三夜塔などにも注目するようになって、これらの石塔があちこちで目に入るようになった。火の見櫓と同じ場所に祀られていることも少なくない。他にも知らない石塔が何種類かある。それらについても調べてみたい。


 


― 「警鐘楼建設費寄附者芳名」表示板

2012-04-27 | A 火の見櫓っておもしろい

 

 前々稿に載せた山形村下竹田の火の見櫓の脚元にこの「警鐘楼建設費寄附者芳名」表示板が置いてある。ここには約250人の氏名と寄付金額が記入されている。 「昭和参拾七年六月貮拾四日」とあるから、今からちょうど50年前、地元の多くの人たちの寄付によって火の見櫓が建設されたことを示す貴重な資料だ。

既に書いたが火の見櫓の歴史は江戸の明暦の大火(1657年)の翌年に設けられた定火消と共に始まる。木造であった火の見櫓や火の見梯子は明治の後期になると次第に鉄骨造になり、大正から昭和初期に全国的に急増した。

戦時中は金属回収令により、多くの火の見櫓が解体され、供出されたという。その際、半鐘を隠して供出しなかったこともあったと聞く。昭和20年の終戦。今現在各地に立っている火の見櫓は昭和20年代後半から30年代にかけて建設されたものが多い。

火の見櫓の多くは上の銘板が示すように多くの人たちの、おそらくは郷土愛に根差した気持ちからの寄付金によって建設されてきた。長年風雪に耐えて立ち続け、地域を見守ってきた火の見櫓。

郷土を愛する人たちのこころの象徴でもある火の見櫓。それを不要となったからといって、跡形もなく撤去してしまっていいものだろうか・・・。


 


なんと雅な

2012-04-27 | A あれこれ


撮影 120426


松本城周辺の桜は落花が盛ん

本丸庭園の夜間無料開放も昨夜(26日)まで

ライトアップされた天守閣

浮かび上がる月見櫓で行われている琴の演奏

ああ、なんと雅な・・・

庭園に設けられたお茶席で、柄にもなく抹茶をいただく


 


「方舟さくら丸」

2012-04-24 | A 読書日記



 昨日(23日)の朝日新聞の生活面に「耐震シェルター」が取り上げられていた。

「耐震シェルター」は何種類もあるようだが、記事で紹介されていたのは既存住宅の居間の中に鉄骨で箱状に骨組みを組んで内部を仕上げてシェルターを造るというものだった。

阪神大震災で地震の直接的な被害で亡くなった人の9割近くが家屋の倒壊や家具の転倒によるという。住宅の第一義は人の生命を守ることなのだが・・・。このことを踏まえて、家屋の中に耐震性が高くてつぶれる心配のない独立したというか、完結したシェルターを造るという、なるほど!なアイデア。既存の木造家屋の軸組みを補強して耐震性を向上させるという一般的な考え方とは違う発想だ。

工期2週間で工事費は300万程度だと記事にあった。これはもちろん条件によって異なるはずだが目安にはなるだろう。

この記事を読んでいて、シェルターという言葉からの連想か、安部公房の『方舟さくら丸』という小説を思い出した。ちょうど「『古事記』神話の謎を解く」西條勉/中公新書を読み終えたところ。で、この小説を再読することにした。

**地下採石場跡の巨大な洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。〔生き延びるための切符〕を手に入れた三人の男女と〈ぼく〉との奇妙な共同生活が始まった。だが、洞窟に侵入者が現れた時、〈ぼく〉の計画は崩れ始める。(中略)核時代の方舟にのることができる者は、誰と誰なのか?現代文学の金字塔。** 以上文庫本のカバー裏面の紹介文。

思考実験的な色合いの強い作品。東日本大震災、福島第1原発の大事故後の今、この小説を読んで何を考えるだろう・・・。


 『方舟さくら丸』安部公房/新潮文庫は93年の2月に読んだ。