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透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

なぜアジアでは「森高羊低」なのか

2013-12-30 | A あれこれ考える

 いままでどんなことを書いてきたのか、過去ログを読んでいた。で、この記事(20070817 初稿)を再読した。そうか、こんなことを書いていたのか・・・。少し手を加えて載せる。

「秩序のヨーロッパ 混沌のアジア」

『村上春樹のなかの中国』に出てくる「森高羊低」はアジアでは「ノルウェイの森」の人気が高くて「羊をめぐる冒険」が低く、「羊高森低」は欧米ではその逆で、「羊」の人気が高く「森」の人気が低いという傾向を指摘することばだが、それは何故だろうと考えていた。

そこで先のことばを思い出したというわけだ。このことばは都市の様相を簡潔にして的確に捉えている。都市の様相にはそこに暮らす人々の嗜好が反映されている。好みにあった建築が造られてそれらが集積して好みにあった都市が出来ていく・・・、これは必然だ。

欧米人は秩序を好みアジア人は混沌を好むということが都市の様相に表れているというわけだ。

自然の中に数理的に表現できるようなシンプルな秩序をヨーロッパ人が希求して「自然科学」を生み、自然の混沌をそにまま受け入れてそれをモデルとして「漢字」を生んだ中国人、こんなところにも両者の違いが表れていると指摘できるかもしれない。

秩序は抽象とか知性・理性に通ずるし、混沌は具象、感性に通ずる。その具体例としてこの例の他にはヨーロッパとアジア(とりわけ日本)それぞれの庭園を挙げることもできるだろう。

さて『ノルウェイの森』と『羊をめぐる冒険』。

『ノルウェイの森』は村上自身が河合隼雄との対談で明らかにしている(注)ように「セックスと死」について書かれた小説だ。これを通俗的なポルノ小説とした評論も頷けないこともない。ギトギトのポルノ、複雑さや難解さがなく具体的な表現で、アジア人が好むということも分かる。いやなにもアジア人がヨーロッパ人より好色だと言いたいわけではない。先の文脈に沿ってそう指摘しているのだ。

一方『羊をめぐる冒険』はミステリアスで抽象的、知的。 となればやはりヨーロッパの、特に知性派好みの小説ということになるだろう。

香港は「森羊双高」だという。香港が東西の人、文化の混成であることを考えればこの傾向もなんとなく分かる。

『村上春樹のなかの中国』は以前書いたように大学教授が研究の成果を基にしたもの。だから実証的に論考している。こちらはブログ、気楽なものだ。だからこんな根拠のないことも書ける。

ついでに・・・、「森」は暑い季節に汗をかきながら読むのがいいかもしれない。「羊」、こちらは静かな秋の夜に読むのがいい。


注 **あの小説ではセックスと死のことしか書いていないのです** 『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』/新潮文庫


― 火の見櫓っておもしろい

2013-12-30 | A 火の見櫓っておもしろい


□ 火の見櫓のある美しい風景が消えていく・・・ 


□ 辛うじて残った火の見櫓の美脚


□ 江戸に始まる火の見の歴史 明暦の大火 都市防災という概念 
□ 火の見櫓のプロポーションを逓減率で捉える


□ 美しい姿の火の見櫓 


 もう来年のことを言っても鬼も笑わないでしょう。2月に「火の見櫓っておもしろい」というテーマで講演(そんな大げさなものではありませんが)させていただくことになりました。火の見櫓の広報活動、ヤグラーを増やす活動です。

一昨年の9月にカフェ バロの「週末のミニミニ構座」(下の写真)で同じテーマのプレゼンをしていますが、今度はその拡大版です。



多忙な日々ですが、休日を数日割いて準備をするつもりです。持ち時間は90分。いろいろ話したいことがあります。それらをどういう順序でするのがいいのか・・・。

昨日、構成を考えてとりあえず写真をざっと選び、パワーポイントをつくってみました。これから内容を詰めて、密度を上げる作業をすることにします。

分かりやすく、楽しく。火の見櫓っておもしろい!と思っていただけるような話ができれば・・・。


 


今年の3冊

2013-12-29 | A ブックレビュー

 今年も残すところあと2日となった。読んだ本から今年の3冊を選んだ。



今春の長野県内の公立高校の入試にこの『植物はすごい』から出題された。偶然にも入試の直前にこの本を読んでいた。

植物の発芽の季節といえば「春」だが、実は「秋」に発芽する植物も多いのだそうだ。葉を伸ばした状態で寒い冬を越すのは大変ではないかと思う。だが、茎を伸ばさず、株の中心から放射状に多くの葉っぱを、地面を這うように広げることで寒さや乾燥に耐えるそうだ。寒さや乾燥は地面から高くなるにつれて厳しく、地面近くでは厳しさがやわらぐからというのがその理由だという。

なぜそのようなことをするのだろう・・・。このことについて著者は**春になってから発芽する植物たちより、早くに成長をはじめることができます。(中略)陰になった植物たちの成長をさまたげることはあっても、自分たちがほかの植物の陰になることはありません。**(175頁)と説明している。

要するに「先んずれば人を制す、いや他の植物を制す」ことができるから。これも生き残りのための巧みな戦略ということになる。なるほど、確かに植物はすごい!

なるほど!満載本。

めでたく高校生になった、同僚の娘さんにこの本をプレゼントした。


 

子どもにはスキンシップがいかに大切かを説いた本。

こんなくだりがある。**これまで繰り返し述べてきたように、肌や身体といった一見、脳からかけ離れた身体の末端部への快い刺激こそが、心を形成する上で実は意外に大きな力を秘めていることは、いくら強調しても強調しすぎることはないのである。**(120頁)

このことをいろんな調査の結果などを取り上げながら実証的に述べていて大変興味深い内容。




主人公は一介の浪人、瓜生新兵衛。勘定方だった新兵衛は上役が商人から賄賂を受け取っていた不正が許せず、重役方に訴えた。だが訴えは認められず、藩を追われて京の地蔵院という寺の庫裏で妻の篠と暮らしていた。

新兵衛は病身の篠と交わした約束を果たすべく、篠の死の半年後、18年ぶりに帰郷する。藩内で身を寄せたのは篠の妹・里見が殖産方の息子・藤吾と暮らす家だった。

新兵衛は甥の籐吾と共に藩の権力抗争、政争の渦に巻き込まれていく。藩内の政争にはかつて新兵衛とともに一刀流平山道場で修行に励み、四天王と謳われた仲間たちも関わっていた・・・。

昔の暗殺事件も絡んで、ものがたりは時代サスペンス、ミステリーの様相を呈して進む。更に篠は当時四天王と呼ばれた仲間たち憧れの女性だったことも明らかになって、なにやら静かな恋愛小説の雰囲気も漂いだす・・・。

この小説は男と男の権力抗争を背景に描き出す男と女の愛のものがたりだ。藩内の政争の落着を見て新兵衛は再び藩を離れることに。

**「お慕い申しているのは、藤吾だけではございませぬ」里見の声に切実な響きがあった。「わたくしの胸の内には姉がおります。姉が新兵衛殿にここに留まっていただきたい、と申しております」里見はあふれそうになる想いを初めて口にした。**(353、4頁) 新兵衛と暮らすうちに里見の心は恋慕の情に占められていったのだ。

**新兵衛は何も答えず、裏木戸から出ていった。里見は後を追えず、袖で顔をおおって立ち尽くした。(後略) **(355頁)

止めてくれるなお里さん、男新兵衛 行かねばならぬ、か・・・。 この切ないラストに涙。

小説は文庫本でしか読まなくなったが、葉室 麟の時代小説は例外。


 

年越し本はやはり司馬遼太郎の『空海の風景』中公文庫になった。来年はどんな本との出合いがあるだろう。


 


455 三郷の火の見梯子

2013-12-25 | A 火の見櫓っておもしろい

 
455 安曇野市三郷明盛の火の見梯子 撮影日131224



 三郷のあちこちに立っている梯子タイプの火の見。控え柱がなく、少し傾いている。梯子上部をアーチ状に繋ぐという造形の想を何から得たのだろう・・・。律儀にも避雷針には飾りを付けている。

小屋根の下に吊るしてある半鐘にはお寺の梵鐘と同様の意匠が施されている。上の写真では分かりにくいが、半鐘の上部には「乳」と呼ばれる突起があるし、帯(上帯、中帯、下帯、縦帯)を入れてある。屋根下の吊り金物(フック)に掛ける部分は梵鐘に呼び名を倣えば龍頭(りゅうず)。

梵鐘と半鐘の意匠の共通性、及びその「意味」について調べなければならない・・・。


 


そうだ、映画 観よう。

2013-12-23 | E 週末には映画を観よう

ということで、松本市の隣村、山形のシネコン「アイシティシネマ」へ


リーフレットの部分転載

 「ゼロ・グラビティ」を観た。

ストーリーは至ってシンプル。地球の上空600キロ、アメリカのスペース・シャトルで船外活動中に人工衛星の破片の「嵐」に襲われるというアクシデントで宇宙空間に放り出されてしまった女性宇宙飛行士。

彼女が奇想天外な方法(でもないか・・・)、ロシアの宇宙ステーションに移動して、そこからさらに中国の宇宙ステーションに乗り移り、地球への帰還を目指すというシンプルストーリー。出演者はサントラ・ブロックとジョージ・クルーニーのふたりだけ。地球の美しい姿を背景に繰り返されるアクシデントの連続にハラハラ、ドキドキ。でもなんだか物足りなかった。

原題が「GRAVITY」だとは知らずに映画を観始めて、この文字が画面に出たときは「あれ?記憶違いか」と思った。日本ではタイトルを「ゼロ・グラビティ」としたわけだが、私は「GRAVITY」のままでよかったのではないか、と思う。


「2001年 宇宙の旅」をまた観たくなった。


万世橋

2013-12-23 | 建築・歴史的建造物・民家



 先日の日帰り東京、久しぶりにJR秋葉原駅で電車を降りた。マーチエキュート神田万世橋へは秋葉原駅から徒歩で5分足らず。

神田川に架かる万世橋の歴史は江戸時代の初期に始まるようだが、現在の橋は1930年(昭和5年)に造られたものだという。橋そのものに関心があるわけではないが、基本的なことは押さえておこうと調べてみた。

橋の両端に造られた親柱の造形、とくにその先端に注目。じっくり時間をかけて丁寧につくっていることが見て取れる。実に堂々としていて、存在感がある。上部は屋根としてのデザインが施されているが「和」とは趣を異にする。屋根の上下のなだらかなカーブが優しく、上品な印象を与えている。屋根の先端をどう仕舞うか、腕のみせどころ。


過去ログ:万世橋の隣に架かる昌平橋


 


庇の役割

2013-12-18 | A あれこれ考える

■ 先日の日帰り東京で、マーチエキュート神田万世橋のフクモリで食事をした。下はマーチエキュートとともに計画されたJR神田万世橋ビル。



JR神田万世橋ビルには写真のように大きな庇が設置されている。これは歩行者の雨除け用として設置されたものだろうか・・・。下の写真で分かるが庇の上はガラスのカーテンウォールだから、万が一のガラスの破損落下に配慮したのかもしれないな、とこのビルの上方を庇越しに見て思った。 庇もガラスだが、無いよりは数段安全だと考えていいだろう。大地震で壁面のガラスが落下することが「想定外」であってはならない。





これは工事現場で落下物によって歩行者が怪我をしないように設置する「あさがお」。万世橋ビルの庇はこれと同じ機能を負うているのでは。

わざわざ危険な状況をつくりだしてはならない。危険回避、このことを念頭に置いた設計が望まれる。これは建築に限らない



 


モネ展@国立西洋美術館

2013-12-16 | 絵画・芸術・デザイン

 

 14日(土)日帰り東京した。東京駅近くの会場で開催されたあるセミナーに参加することが目的だった。

セミナーは午後からで、午前中は上の説明写真の通り。そう、上野の西洋美術館で来年の3月9日まで開催されている「モネ、風景をみる眼 ―19世紀フランス風景画の革新」を観た。

会場は

Ⅰ現代風景のフレーミング
Ⅱ光のマティエール
Ⅲ反映と反復
Ⅳ空間の深みへ
Ⅴ石と水の幻影

という構成で展示作品は約100点。

モネの睡蓮(左の写真)は有名な作品で絵画に関心の無い人でも知っているだろう。この睡蓮に至るまでに自然の諸相の表現、作風が変化していることが一連の展示作品から分かるような構成になっている。

モネファンならずとも絵画ファンとしてはやはり観ておきたい作品展。


 


454 塩尻市日出塩の火の見櫓

2013-12-15 | A 火の見櫓っておもしろい

 
454

 山あいを縫う木曽路は日出塩で終わる。過日木曽町で所用を済ませ、塩尻方面に向かって日出塩を走る車の窓外にこの火の見櫓を見つけた。で、今日(15日)観察してきた。

JR中央西線の日出塩駅前に立っている火の見櫓。梯子段の段数と間隔から高さを概算する方法により、見張り台までの高さが約10メートルだと分かる。総高13メートル程度、大きい部類に入る火の見櫓。



屋根の頂部には避雷針と飾りが、軒には蕨手が付いている。見張り台やその直下もきちんとしたつくり。櫓にスピーカーが付けてあるのは残念だが仕方ない。



脚部。櫓の3本の柱はなめらかなカーブを描いて末広がりになっている。トラスはきちんと脚の根元まで伸びているし、脚の付け根はアーチ状になっている。柱とアーチ材を結ぶ部材は三角形を構成している。

これで脚部のチェックポイントは全て○。ということで評価は少し甘いかもしれないが★★★★★

なかなか美しい火の見櫓。減点するとすれば屋根。扁平していることと見張り台に対して少し小さいことだ。


火の見櫓 みんなちがって みんないい 


山形県 旧朝日村の茅葺き民家(再掲)

2013-12-15 | 建築・歴史的建造物・民家

民家 昔の記録 

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■ 山形県東田川郡朝日村(現在は合併して鶴岡市になっています)は庄内地方と山形地方を結ぶ六十里越街道に沿う山村です。江戸時代、この村の田麦俣には出羽三山参詣の足溜まりとして宿屋を営む家が何件もあったとのことです。この田麦俣という地名は民家の本には必ず出てきます。

この地方の農家の多くは明治以降に養蚕農家に転じたのでしょう。養蚕に必要な通風を確保する「はっぽう(2)」と呼ばれる特徴的な開口を持つ茅葺き屋根が造られました。私が朝日村の大網(下村、中村)を訪ねたのは1980年の8月13日のことでした。民家好きとして是非訪ねたいところだったのです。1日に何本もないバスを利用しての旅でした。(1) 

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妻側はかぶと造り

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風返しを訛って「けえじ」と言われる棟端飾りと高はっぽう。 このような屋根の造形は「すばらしい!」と言う他ありません。

芥川賞を受賞した『月山』という小説は出羽三山の1座、月山の麓の山村が舞台でした。映画化されて、このような茅葺き屋根の民家の冬のシーンを記憶しています。

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この辺りは全国でも有数の豪雪地帯です。外壁に雪囲いの骨組み(ボケと呼ばれるようです)を夏季でもそのまま残してありました。


○ 先日いただいたプリンさんのコメントを受けて旧朝日村の茅葺き屋根の民家を再掲しました。


453 麻績村の火の見櫓

2013-12-13 | A 火の見櫓っておもしろい

■ 長野自動車道を麻績ICで下りて国道403号線を旧坂北村に向かう。このコースは何回も通っているが今までこの火の見櫓にはなぜか気がつかなかった・・・。このところヤグラセンサーの感度が良好で何基も見つけている。

 
453 東筑摩郡麻績村

屋根が小さいことにまず気がつく。見張り台とほぼ同じ大きさの平面寸法の屋根が比較的多いが、これはかなり小さい。

半鐘に架けた小さな屋根はときどき見かける。戦時中、半鐘を隠して供出しなかった集落もあったと聞く。そう、半鐘は大切なもの。だから雨がかからないように屋根を架けている・・・。


青木村にて



シンプルでモダンな印象の手すり



コンクリート製の塊状基礎に固定した柱脚。このようにアンカーボルトが露出しているのものは少ない。


 


記録するということ

2013-12-12 | 記録すること・想い出


11月の記録

 1年を振り返る時節になった。

私の場合、ダイアリーの記録の大半が仕事に関することだが、美術展や講演会、映画などの入場券を貼ってあるし(写真)、他に生活記録としてその日の天気はもちろん、体重(そう、私は毎朝量る体重を記録している)をはじめ飲酒の有無、飲み会などの場所や参加者も記録している。カフェトークの記録も。読書の記録はブログに移した。

ダイアリーに貼ってある入場券(1月~6月)の一部を挙げると
1月:葛飾柴又 寅さん記念館(33会の旅行) 
3月:二川幸夫・建築写真の原点
4月:軽井沢千住博美術館
   富岡製糸場(仲良し4人組で出かけた)
5月:名勝 養浩館庭園(そう、福井に出かけたのだった)
   高村薫講演会
6月:レオナルド・ダ・ヴィンチ展
   大神社展(充実した展示で鑑賞に時間がかかった)

手元に1985年のダイアリーから保管してあるから、来年、2014年のダイアリーが30冊目となる。これらを見ればその年のことを振り返ることができる。でも過去を振り返って何になる・・・。

*****

『古事記』は稗田阿礼が「記憶」している古くからの言い伝えを太安万侶が「記録」したものだ。これは記録することで後世にきちんと伝えたい、伝えるべきだと元明天皇が考えたことによる。記録することは文化的な営みの基礎をなす。

では個人の生活記録はどのような動機によるものなのだろう・・・。そして上に記したような内容を記録することにどんな意味というか、意義があるのだろう・・・。


 


塩尻市本山の道祖神

2013-12-10 | B 石神・石仏



 塩尻市本山(旧中山道の本山宿)に祀られている石神・石仏群の中に文字書道祖神があった。



石のプロポーションに応じた文字の書き方というか彫り方をしている。実に存在感のある文字だ。



裏面に寛政三亥年 五月吉日とある。調べて1791年だと分かった。