『駅をデザインする』赤瀬達三/ちくま新書
■ 不特定多数が利用する公共空間はとにかく分かりやすいことが肝心、だが分かりにくい。病院然り、庁舎然り、そして駅はその最たるもの。日本の駅はとにかく分かりにくい。出口までの行き方が分からない、乗り換えホームまでの行き方が分からない・・・。渋谷駅は迷路そのものだ。
著者は渋谷駅について**本来ここに地下都市を建設するというなら、地下であっても広場と呼べるような〈集合点〉を設け、それを遠くから望めるような〈街路〉を構築する必要があった。そうした展望もなくつくられた狭隘な地下通路を、ただ表示にしたがって歩けというのは、人間の本性を無視した対策としか言いようがない。**(221頁)と書いている。
本書で著者は駅の空間構成と案内サインの両面から駅を分かりやすくするための方法について論じている。単にその理論だけでなく、実践事例も紹介しているので分かりやすい。
本書の章立ては以下の通り。
第1章 駅デザインとは何か
第2章 案内サイン
第3章 空間構成
第4章 海外の駅デザイン
第5章 日本の駅デザイン
第6章 これからの駅デザイン
分かりやすさを論じている本だけあって本書の構成も明快で分かりやすい。
著者は分かりやすい空間構成の方策として自然光を採り入れる、外の景色を見えるようにする、地下駅では地上と連続していることを感じられるようにすることなどを挙げている(第6章)。要は空間を外と繋げる、ということだ。
この考え方を仙台市の地下鉄で実践しようと、ガラスの屋根(筆者注:ガラスのピラミッド)で覆って光を地下広場まで落とし込むといった案を示したところ、仙台交通局は大いに関心を示したものの、**建設省(現、国土交通省)から「こんな遊びごとをするなら補助金をカットする」と言われて、結局建設を断念することになった。**(88、9頁)そうだ。
このことについて著者は**わが国行政の想像力の欠如と公共意識の貧困さの証左ではなかったか。**(89頁)と手厳しい。また、ルーブル美術館の例のガラスのピラミッドの計画が発表されたのは、仙台の提案の1年後だったというエピソードも紹介している。
いろんな制約があって、実現するのが難しいということも、本書で分かる。海外の駅の優れた空間構成やサインデザインとの差はどうやらデザイナーの力量の差ということではなさそうだ。
改札出口のサインは黄色の地になっていること、改札入口への誘導サインは緑色の地になっていることに本書を読むまで気がつかなかった。
でも、避難口誘導灯が緑だから、改札出口誘導サインが緑で、改札入口誘導サインが黄色の方がイメージが統一できてよかったのではないかな・・・。