■ 火の見櫓のある風景スケッチ展②が10月29日に無事終了して、ホッとしている。会場でスケッチのことや構図のことなどについて繰り返し説明をして、自分が風景をどう捉えているのか、より明確になった。過去の記事を編集するなどして、このことについて改めて記録しておきたい。
1 道路山水的構造の風景
道路を奥行き方向に配置し、道路沿いの家屋や庭木などで遠近感、奥行き感を示す構図を「道路山水」という。この道路山水という言葉は吉田博展(上田市のサントミューゼで2017年5月に開催された)で知った。
富士見町にて
東筑摩郡朝日村にて
どちらも奥行き方向に伸びる生活道路とその両側に建ち並ぶ住宅や塀、樹木などによって道路山水的な構造の風景がつくり出されている。構図をどうするか考える際、このことを強く意識するようになり、スケッチにも明確に表れるようになった。
2 重層的構造の風景
朝日美術館にて(長野県東筑摩郡朝日村 写真撮影・掲載の許可を作者からいただいています)
朝日美術館で2022年11月に開催された「加藤邦彦・温子展 ― 自然と共に生きる―」を鑑賞した。展示会場には鑑賞者に太古に誕生した生命体を想起させるような邦彦さんの不思議な造形の彫刻と、温子さんのイチョウをモチーフとした具象とも抽象ともとれるような表現の油彩画や石版画がおよそ120点展示されていた。
魅せられたのは温子さんの上掲作品だった。私はこの作品を緑の風景と観た。風景を奥行き方向に層が重なる、重層的構造として捉え、5つの層によって表現している。層の幅を次第に小さくし、色相・明度も層ごとに変えることによって遠近感を表現している。
新潟県の田園風景を表現した作品(写真撮影・掲載の許可を作者からいただいています)
新潟在住の布絵作家・坂井真智子さんの上掲作品も遠景の山並みまでの田園風景を布の層の重なりによって表現している。層の幅を次第に狭くしているところは加藤温子さんと同じだ。遠近法上当然と言えば当然だが。
上高地にて
上掲したような作品を鑑賞して、重層的構造の風景を意識するようになった。そうなると、風景の捉え方が明確になり、スケッチにも表れる。
3 火の見櫓の効果
道路山水的構造、重層的構造の風景で火の見櫓はどのような効果をもたらしているのだろうか。
小中学校のクラス担任はクラスの児童、生徒をまとめてクラスの秩序を保っている。風景における火の見櫓にも同様の役割、効果があると私は考えている。火の見櫓は風景を束ね、風景を統べて、そこに秩序を与えているのだ。火の見櫓は風景を秩序づけるランドマークだ。しかも地域の人たちによって建てられた地域愛の象徴とも言えるような存在だ。
もともと魅力的な道路山水的風景、重層的風景、火の見櫓によってその魅力が倍化する。
スケッチの展示では火の見櫓のある風景の道路山水的構造と重層的構造のそれぞれの魅力が分かりやすいような配置をした(写真)。
このような風景を見ていいな、と思うのは私だけはあるまい。火の見櫓のある風景スケッチ展②では多くの人たちに、いいね!と言ってもらった。私のスケッチのことではなく、火の見櫓のある風景っていいねと言われたと解さなくてはならないだろう。