図書館に行くと、話題の本を紹介するコーナーに、目立たないながら置いてあったのは、マンガの本だった。
それが、手塚治虫の「火の鳥 望郷編」だった。
なんでも、この11月3日に公開された新作アニメーション映画『火の鳥 エデンの花』の原作なのだという。
だから、話題の本として置かれていたのだ。
「火の鳥」は、手塚治虫のライフワークと言ってもいい作品だ。
初めて手に取ったのは、高校時代。
「鳳凰編」の1冊だった。
奈良時代の仏師、我王と茜丸という2人の主人公の人生や運命を、史実を交えながら描いていた。
その1冊に感動した私は、「黎明編」「未来編」「ヤマト編」・「宇宙編」「復活編」と読み進んでいったのだった。
高校時代には、この6冊しか見かけなかったので、ここで火の鳥シリーズは終わりだと思っていた。
だが、そこから先も、火の鳥のシリーズは、発表されていた。
いろいろと紆余曲折はありながら、「羽衣編」「望郷編」「乱世編」、「生命編」「異形編」、「太陽編」と、作品が発表されていったようだ。
「ようだ」というのは、よく知らないままだったからだ。
私が学生時代や社会人になったころなどの手塚氏の作品には、あまり面白いと言える連載マンガはなかったので、購入しなかったのである。
その後、「ブラックジャック」が発表され、これは面白い、と「ブラックジャック」は全巻買い集めたのだった。
だが、ずっと「火の鳥シリーズ」には目を向けないままだった。
輪廻の思想や、登場人物が時空を超えてつながるところなどは面白かったが、高校時代に読んだ6冊で、自分の中では完結してしまっていたからだった。
そんなことで忘れてしまっていた、手塚氏の「火の鳥 望郷編」。
ここで目にしたのも何かの縁、と思いつつ、借りてきて読んだ。
いやあ、壮大だった。
読み進むうちに、映画を見ているような気分になった。
もともと手塚氏がマンガ界に登場した頃、映画的な作画法が新鮮で話題を呼び人気が出たのだったということを思い出した。
それだけでなく、ストーリーも、時間や宇宙を大きく超えていて、予想もつかない展開が繰り広げられることに、つくづく感心した。
途中までのストーリーは、次のようなもの。
ジョージと主人公のロミが、地球から無人の惑星エデン17に逃げ、2人だけの新生活を始めたが、ジョージはまもなく頻発する地震で死んでしまう。
ジョージの子どもをみごもっていたロミは、星を守る決心をし、生まれた子どもとの間に子孫をつくるために人工冬眠を繰り返す。
なぜか男しか生まれない繰り返しが続いたが、ある時何度目かの冬眠から目覚めると、そこにはロミの子孫たちによって、エデンという豊かな街ができていた。
火の鳥が、宇宙の不定型生物ムーピーとロミの子孫との間に子どもをつくらせたのだ。
ロミはそのエデンの女王になったが、しだいに地球へ帰りたいという思いがつのってくる。
ある日、エデン人の少年が、禁断の山奥で、岩でできた不思議な宇宙船を見つけ、それに乗って、ロミの願いをかなえるべく、とともにまだ見ぬ故郷・地球への旅に出る。
まあ、そこから先は、ハラハラする展開が待っているのだが、まずは省略。
この望郷編にも、かつて火の鳥のほかのシリーズで見た人物も登場する。
不定型生物ムーピーは「未来編」に登場していたし、この望郷編で大きな役割を果たす宇宙船パイロットの牧村は、「宇宙編」に登場していた。
このストーリーで出てくるロボットチヒロ2545号は、『火の鳥 復活編』で登場するチヒロと同型のロボットだ。
なんだかすごく懐かしい。
これをみても、火の鳥シリーズが、われわれが考えられないくらいの驚異的な広く大きなスケールで考えられていたのだなあと、感嘆する。
マンガで育った世代と自認する私だし、手塚マンガのすごさは十分わかっていたつもりだが、この本を読んで改めてその広さ・深さに触れた思いがした。
自分の抱いたイメージと違うと感じることが多そうなので、新作の映画は見たいとは思わない。
だけど、見逃している「火の鳥」の他の話も読んでみなくてはいけないな、命を扱うストーリーだけに。
…自分の命があるうちに…。
なんて思ったりもしたよ。