『花のあと』 (文春文庫) 1989/3
藤沢 周平 (著)
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文庫: 277ページ
出版社: 文藝春秋 (1989/03)
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名瀬ツタヤで見つけた。1989年第一刷 2015/11月第50刷
著者円熟期の秀作7篇とあって、朗読したくなるような描写が随所に。
筋や結末はどちらかと言えばあっさりしたものが多い。
時間の経過や、季節の移ろいを、風や光、川の流れ、鳥の声などの中にとらえう巧みな表現。
ときに人々の動きやしぐさなどももその対象になる。それらをじっくり味わいたい。
花や女性の美しさの表現に見られる光。絵画や写真のようだ。
p234「水面にかぶさるようにのびているたっぷりした花に、傾いた陽射しがさしかけている。
その花を、水面にくだける反射光が裏側からも照らしているので、花は光の渦に
もまれるように、まぶしく照りかがやいていた。」
花ぶりのいい桜の花が、川面にいくつもいくつも枝を垂れだしているようすだろうか。島ではなかなかお目にかかれない。
このあとの描写は物語りのその後の進み行きをも暗示するものになっている。
「若い、とまた思った。おるいはやはり三十半ばにしか見えない。黒瞳が大きく口元は小さい。薄く化粧した顔が、内側から光がさすように艶がある。」
内側からさす光が、なにか恐ろしげだ。結末をみると、なるほどおそろしい。
町人ものもあれ、武家ものもある。
「旅の誘い」は芸術家小説。
歌川広重が主人公で、葛飾北斎と比較される。
P151広重「だが言わせてもらえば、臭みがある。たとえば山師風とでもいうか」
P153「あなたの風景には誇張がない、気張っておりません。」
「解説」に北斎の前衛、広重の後衛とあった。
誇張せず、気張らず、たんたんとした端正な文章は藤沢をおもわせる。
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北斎を描いた短編『『溟い海』は、「暗殺の年輪」 に収録されている。
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