「晴れの日は今日しかない」
思い立って、奈良まで車を走らせた。
山麓線、橿原バイパス、京奈和自動車道を経由して郡山まで、かなり時間短縮である。
次第に便利になる交通網が嬉しい。
駐車場に車を入れて奈良公園を散策する。
興福寺の五重塔の相輪、水煙が逆光の中にシルエットとして見える場所のベンチに腰掛けて休憩する。
疲れは殆どない。
鹿たちが草を食む。
春日大社辺りや、大仏殿の参道の鹿のように、観光客に頭を下げない鹿本来の姿を見る。
雨に潤った後の水分の多い草を一斉に食べている。
いじらしいほど一生懸命に草を食べる。
無心に食べる。
時々、ポロッと落とす黒い糞が草の肥料となって自然に草を育てる。
ここでは、農薬も化学肥料も芝刈り機も必要ない。
鹿が緑を育て、緑は鹿を育てる自然の輪廻がある。
言ったかどうか知らないけれど、一斉に方向を変えてお尻をこちらに向けて前進しながら草を食べる。
これは、なかなかユーモラスで、座ったベンチから、彼らの行動を飽きることなく眺める。
向こうのお父さんに抱っこしてもらっている女の子がひどく大きな泣き声をあげた。
今まで向こうに進んでいた鹿が一斉に団体で自分に向かってきたと勘違いをしたようだ。
もうお父さんからしがみついて離れない。
鹿は、われ関せずと草を食べることに熱中している。
お腹が大きくなったのか、疲れたのかしら、子鹿が1匹座り込んでしまった。
また方向を変える。
きっとリーダーがいるのだろう。
列を作って草食べ移動する鹿たちを見たのは、ここでの学生生活の頃も含めて始めての事だった。
鹿にとっては、梅雨の晴れ間の日常行動だろうが、こんな風にゆとりを持って鹿を眺めなかった、私のライフスタイルの結果だろう。
のんびりは良い。
ゆっくりは、なお良い。