(アテネ中心部の財務省前で大学資金移管の政令に反対する学生ら 4月23日、山尾有紀恵撮影 【5月6日 朝日】)
【ギリシャ:難しい選択を迫られるチプラス政権】
2泊5日(往復とも飛行機内の機中泊)というマレーシア・ボルネオ島(コタ・キナバル)弾丸旅行から今日帰国。
欧州の状況は旅行中も大きな変化はなかったようです。
変化がなかったということは、問題がくすぶり続けているということでもあります。
ギリシャの問題は、いかにデフォルトを避けるか・・・というよりは、デフォルトしたあとをどうするのか?ユーロを離脱するのか?という問題に関心が移っているようにもみえます。
そのギリシャでは、EUに公約どおりの強い姿勢を見せられないチプラス政権に対する国内不満が高まっています。
****ギリシャ反政府デモ再燃 余剰金移管要請に学生ら猛反発****
欧州連合(EU)などから金融支援を得る交渉が難航するギリシャのチプラス政権が、資金繰りのため地方自治体や大学に余剰金の移管を求めたことが国民の強い反発を招いている。
アテネでは学生の抗議デモが再燃。EU側との交渉で安易に妥協するわけにもいかず、難しいかじ取りを迫られている。
「チプラス(首相)、バルファキス(財務相)、大学の金に手を出すな!」「1ユーロたりとも渡さない!」。4月23日午後、アテネ中心部の財務省前に大学生ら数百人が集まり、シュプレヒコールを上げた。
財務省の入り口は鉄格子で閉ざされ、警察が鋭い視線で見守る。学生の一人が模造紙に印刷したEU旗に火をつけて燃やすと、拍手が沸き起こった。
■反緊縮転換に失望感
ギリシャ政府はその3日前、債務返済や年金・給与の支払いに充てるとして、地方自治体や公的機関に対し、余剰金を中央銀行に移管するよう求める政令を出した。
これまでEUなどの支援を受けながら、公務員削減や年金受給条件の見直し、消費増税などの緊縮策を手がけてきたが、それでも足りなくなってきた。1月の総選挙で「反緊縮」「債務返済拒否」を訴えて当選したチプラス政権の方針転換に失望感が広がる。
デモに参加していたビッキーさん(25)は「教科書は有料になり、清掃員はリストラされてトイレはいつも汚い。寮の部屋も足りないし、これ以上の負担はたくさんだ」と憤る。フィリップ・ポロさん(18)は「結局、政権は企業などのためにEUと交渉してるだけ。国民のためではない」と批判する。
自治体も猛反発する。アテネ中心部では4月24日夕方、周辺各市や病院などの職員が参加したデモがあり、数千人が参加。首相官邸の前に迫り、機動隊とにらみ合った。
チプラス氏はその翌日、県や地方自治体連盟の代表らと会談。ギリシャの厳しい現状を伝え、理解を求めた。
■政府、国民とEUの板挟み
EU側との交渉が進まないなか、チプラス氏は4月27日、EU側の不興を買っていたバルファキス財務相を交渉団のトップから外し、側近のツァカロトス副外相を後任に据えた。
サケラリディス報道官は今月4日、今月末か6月にもEU側と支援について完全な合意ができるとしたが、「(資金の)流動性(の確保)が重要なのは否定できない」とも述べ、早急な支援実行を求めた。
ただ、EU側に譲歩しつつあるチプラス政権は与党内から批判を受けており、これ以上国民に痛みを強いる政策をのめば連立政権そのものが揺らぎかねず、難しい選択を迫られている。【5月6日 朝日】
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EUとギリシャの交渉は微妙な情勢です。
****EU支援、協議大詰め****
EUはギリシャと改革内容で合意して実行に移すまでは、72億ユーロ(約9700億円)の融資は実行しない考えだが、両者の溝は埋まっていない。今月11日のユーロ圏財務相会合で再び話し合われるが、合意できるかは微妙な情勢だ。
ロイター通信などによると、ギリシャ側が交渉団を入れ替えたことで、協議は前進している模様だ。EU関係者は「非常に集中的な議論が続いているという事実がすでに建設的だ。11日までに議論が収斂(しゅうれん)すれば良いのだが」と話す。
ただ、EU側が求める年金のさらなるカットや労働市場改革にギリシャは反対を続けており、合意に向けてはまだ課題も多い。
ギリシャは12日に国際通貨基金(IMF)からの融資、約7・5億ユーロ(約1千億円)など、夏場にかけ債務の返済期限が相次ぐ。支援を受けられなければ、債務不履行(デフォルト)に陥ってユーロ圏からの離脱を迫られる可能性もある。
ユンケル欧州委員長(首相に相当)は4日、ベルギーの大学の講演で「ギリシャが(デフォルトからユーロ離脱という)必要ない選択肢をとらないよう、適切に対処する用意をしなければならない」と述べた。【5月6日 朝日】****************
どういう事態がデフォルトと見なされるのかも微妙です。
****ギリシャにデフォルト判定せず、IMF返済延滞でも=格付け会社****
ギリシャの支援交渉が難航する中、主要格付け会社の多くは、ギリシャが期限までに国際通貨基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)への支払いができなくても、同国の国債をデフォルト(債務不履行)に格下げすることはないとの見解を示している。
ギリシャは5月にIMFに約10億ユーロ、7━8月にかけてECBに約70億ユーロを支払う必要がある。
格付け会社大手4社のうち、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングス、ドミニオン・ボンド・レーティング・サービシズ(DBRS)の3社は、ECB、IMFは通常の債権者とは異なるため、期限までに返済義務を履行できなかった場合でも、デフォルトとは判断しないとの立場だ。ただジャンク級(投機的等級)内でさらに格下げされる公算が大きいとしている。
S&Pでギリシャの格付けを担当するフランク・ギル氏は「何らかの理由でギリシャがIMF、ECBに対し返済できなくても、これらは『公的』部門の債務であるため、当社の判断基準ではデフォルトには相当しない」と指摘している。
これは現在、ギリシャの生命線となっているギリシャ銀への緊急流動性支援(ELA)を維持する上で極めて重要だ。ELAはECBの承認を受けた上で、ギリシャ中銀が実施しているが、ECBはデフォルトに陥った国の国債を担保として受け入れることを認めていないためだ。(後略)【5月2日 ロイター】
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【イギリス:キャメロン首相の選択はイギリスをどこへ導くのか】
一方、EU離脱の国民投票の行方にも関係するイギリスの総選挙は明日7日ですが、依然保守党・労働党の二大政党の支持率は拮抗しています。
反EUを掲げるイギリス独立党はここにきて苦戦も伝えられていますが、保守党・労働党のどちらが主導権をもって、どこの政党と、どのような連立を組むのか・・・勝負は選挙後の連立交渉に移行しそうな状況です。
****【英総選挙】保守、労働が再び拮抗 7日投票****
英総選挙(下院、定数650)は、7日の投開票に向けて最終段階に入った。世論調査では、二大政党の与党・保守党と最大野党・労働党が大接戦を繰り広げたが、双方とも過半数に及ばず混(こん)沌(とん)とした状況のまま投票日を迎える。
世論調査会社「YouGov」が4日に発表した調査結果によると、前日までわずかにリードしていた保守党の支持率が約1ポイント下落、労働党と同じ33%となり、再び拮(きっ)抗(こう)した。
英ブックメーカー(賭け屋)も「今回は歴史始まって以来の接戦だ」と指摘。次期首相に就任する人物については、保守党党首のキャメロン首相と労働党のミリバンド党首が同じ賭け率になったという。
英国では政権交代の有無にかかわらず、欧州連合(EU)離脱か、経済減速かのリスクを抱え込むとの見方が有力になっている。
キャメロン氏は再び首相になればEUからの離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約しており、欧州は不安定化のリスクを抱える。
仮にEU離脱を決めた場合には、EU加盟国であることを望むスコットランドが英国から独立を問う住民投票を再び実施し、英国が分裂する懸念も出てくる。
一方、ミリバンド氏が首相になれば、「バラマキ」政策によって将来的に英国経済が大打撃を被る危険が指摘される。「有権者はいずれのリスクを取るかの選択を迫られている」(英紙)というわけだ。
投票は7日午後10時(日本時間8日午前6時)まで行われ、8日朝(同日夕)までには選挙結果が判明する見通し。ただ、どの党も単独過半数をとることは困難な情勢で、連立交渉などを経て次期首相が決まるのには時間を要するものとみられている。【5月6日 産経】
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今回の総選挙で保守党が勝利した場合には、17年までにイギリスのEU加盟継続を問う国民投票を実施することをキャメロン首相は公約しています。
反EUの国民世論の高まり、EU離脱を掲げるイギリス独立党(UKIP)の支持拡大、支持票を奪われ危機感を強める党内右派勢力の突き上げ等へ配慮した政策です。
キャメロン首相自身は、EU離脱は回避したい意向ではありますが、国民投票を実施した場合、イギリスが実際にEUから離脱する可能性は少なくない情勢です。
【民主主義が機能不全を起こしつつあるのか?】
ギリシャのユーロ離脱にしろ、イギリスのEU離脱にしろ、客観的に考えると失うものが多い選択に思われますが、より過激な方向に流れる“国民世論”のもたらすものでもあります。
過激化しやすい“国民世論”に民主主義はどのように対応できるか・・・という、欧州にかぎらない普遍的な問題でもあります。
****ヨーロッパに蔓延するポピュリズム政治****
イギリスのみならず、EUはいま、深刻な危機に直面している。しかしながら、そのような数々の危機にEUは実効的に対応できないでいる。なぜEUは、深刻な危機を克服できないのか。
現在のヨーロッパでは、各国の指導者がこれまで以上にポピュリズムやナショナリズムを意識せざるを得なくなり、選挙を視野に入れて国内のEU批判の議論に迎合する傾向が強まっている。
また、たとえ強靱な政治的意志に基づいて政治指導者が問題解決に取り組もうとしても、それを行うための強固な国内的支持を得ることが困難になっている。民主主義が機能不全を起こしつつある。
ギリシャに代表されるように、自国が抱える問題の深刻さを「苦い薬」(改革)を飲んで自らの努力によって克服することよりも、安易にEUへと責任転嫁することで世論に迎合する政治勢力が支持を広げている。
今年の1月25日に行われたギリシャの総選挙で、極右政党と極左政党が議席を伸ばして、急進左派連合(SYRIZA)と反EUの右派政党「独立ギリシャ人」が連立を組んだ。EUが進める緊縮政策を批判することでこの2つの勢力は政策を一致させたのだ。EU批判で結びついて、極左政党と極右政党の連立が成立するとは、多くの人には驚きの結果であった。
ドイツ国民は、放慢な財政支出を続けて真摯な改革への取り組みをしないギリシャへの追加的な支援や譲歩を嫌っている。他方でギリシャ国民は、ドイツが支配するEUが、ギリシャを「植民地」のように扱って緊縮政策を押しつけることを批判する。
いずれも、民主主義に基づいた国民世論であって、ドイツのメルケル首相もギリシャ連立政権のツィプラス首相もそれらを無視することはできない。
そのような動向は、EU主要国のイギリスやフランスにおいても見ることができる。昨年5月の欧州議会選挙では、移民の制限を政策理念として掲げ、EUへの遠慮のない批判で支持を集めてきた極右政党のUKIPと国民戦線(FN)が議席数の確保において、それぞれ第一党になるという結果になった。それは、ナイジェル・ファラージュとマリーヌ・ルペンという2人のカリスマ的な極右の指導者に負うところが大きかった。
ヨーロッパ政治の混迷
何かがおかしい。多くの国で穏健な中道政党が議席を減らし、過激でポピュリズム的な政党に支持が集まる。また、寛容の精神や多文化主義的な伝統というようなEUの根幹であった精神が衰弱している。それらを回復しなければ、現在直面する困難な問題を乗り越えることが難しいであろう。
最初の試練は、イギリス総選挙においてイギリス国民がどのような政権を望むかであり、さらにはギリシャの債務危機をめぐりどのようにドイツ政府とギリシャ政府が妥協を見いだせるかである。
また、11月には深刻な失業率と、景気の低迷、そしてEUが求める財政緊縮政策に苦しむスペインで総選挙がある。これらのハードルをどのように越えて、新しい年を迎えることになるのか。しばらくはEUの動きから目が離せない。【5月6日 WEDGE】
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民主主義が過激化する国民世論に有効に対処できないとなると、タイ軍事政権でみられるような民主主義を制約するような政治形態を肯定する流れにもなります。