(戦火を避けて避難するラマディのスンニ派女性 ラマディ敗退を巡る「真相」はわかりませんが、確かなことは、住民が多大な犠牲を強いられていることです。国連発表ではISの攻撃以来、25000人以上の住民がラマディから避難しているそうです。
“flickr”より By KHALIL ASHRAF https://www.flickr.com/photos/133044141@N05/17453922833/in/photolist-sAWL2G-sxrga9-sGYHQs-teCVRv-sAkVb2-tCEexi-sBH2aZ-tfRhjd-tcfM1S-tsNZfZ-svju6q)
【アメリカ:イラク軍の「戦う意志の欠如」を批判、その後撤回】
イスラム過激派ISと政府軍の攻防が続くイラクで、スンニ派居住地域アンバル県の要衝ラマディがISによって奪われ、アバディ首相はスンニ派住民との摩擦を避けるために控えていたシーア派民兵の投入を余儀なくされたことについては、5月19日ブログ「イラク ラマディ敗退で、シーア派民兵投入へ戦略変更 混乱防止で問われるアバディ首相の指導力」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150519)で扱ったところです。
ラマディの攻防でイラク政府軍が“やすやすと”撤退してしまったことについては、アメリカやイラク内部でも疑問の声があがり、これにアバディ首相が反論、アメリカ側もイラク政府との関係を重視して矛を収める展開となっています。
****米国防長官、イラク軍の「戦う意志の欠如」を批判****
米政府は24日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が1週間前に圧倒的な力を見せ付けてイラクの都市ラマディを陥落させたことについて、イラク軍に戦う意志が欠如していたと批判した。
過去数か月間、ISはイラクで劣勢にあると見られていたが、ラマディとシリアの古代都市パルミラに対する攻撃で勢いを取り戻した。
イラク最大の州アンバルの州都であるラマディがISに制圧されたことで、イラクだけでなく米が採用した対IS戦略が正しかったのかどうか、疑問視する声も上がっている。
アシュトン・カーター米国防長官はCNNテレビのインタビューで、イラク軍にとって過去1年近くで最大の敗北となったラマディ陥落は回避可能だったと分析した。
「イラク軍が戦闘の意志を見せなかったというのが実情だったようだ。数では負けていたどころか、敵の部隊よりも大幅に上回っていたにもかかわらず、戦わずして戦場から撤退してしまった」とカーター氏。
「ISIL(ISの別名)と戦って自国民を守るというイラク軍の意志に問題があると私は感じるし、大半の人もそう考えると思う」
ISは昨年6月にイラクの領土の一部を掌握。その2か月後に米軍主導の有志連合による空爆が始まり、これまでに3000回以上の空爆が行われた。
カーター氏は、「空爆は有効だが、空爆も、またわれわれがなせる何事も、イラク軍の戦闘意志の代わりにはなり得ない」と指摘した。【5月25日 AFP】
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****軍のラマディ撤退、イラク副首相も「驚いた」****
イラクのムトラク副首相は25日、中西部アンバル州のラマディがイスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に制圧された経緯について、イラク軍がたやすく撤退したことに「だれもが驚いた」と述べた。CNNとのインタビューで語った。
ムトラク氏はインタビューで「何年にもわたって米国の訓練を受け、わが国で最高の部隊のひとつともいわれている彼らが、なぜあのように撤退してしまったのかは明らかでない」と指摘。「これは我々が期待するイラク軍の姿ではない」と語気を強めた。
スンニ派のムトラク氏はこれまでも、シーア派のアバディ首相に対して批判的な意見を述べてきた。【5月26日 CNN】
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****「数日でラマディ奪還」=米国防長官発言に反発―イラク首相****
イラクのアバディ首相は25日放送された英BBCテレビのインタビューで、過激派組織「イスラム国」にイラク・アンバル州の州都ラマディを奪われたイラク軍は「戦う意志を見せなかった」とカーター米国防長官が述べたことに関し、「彼には誤った情報が与えられている」と反発した。
アバディ首相は「(ラマディを)近く奪還できると保証する。(1カ月ではなく)数日単位の話だ」と強調した。【5月25日 時事】
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****「戦う意志欠如」発言撤回=イラク軍の勇気評価―米副大統領****
バイデン米副大統領は25日、イラクのアバディ首相に電話し、同国アンバル州ラマディをめぐる過激派組織「イスラム国」との攻防戦でイラク軍の「大きな犠牲と勇気」を評価した。
カーター国防長官が24日、ラマディ陥落でイラク軍の「戦う意志が欠如していた」と発言したことを事実上撤回した。ホワイトハウスが明らかにした。(後略)【5月26日 時事】
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【シーア派民兵を前面に奪還作戦 宗派色の強い作戦名も】
こうしたアメリカとの間でギクシャクしたやりとりもありましたが、シーア派を前面に出した形でのラマディ奪還作戦がすでに開始されています。
****イラク軍、アンバル奪還へ作戦開始 シーア派民兵前面に****
イラク政府は26日、西部アンバル州から過激派組織「イスラム国」(IS)を駆逐する新たな軍事作戦の開始を宣言した。
アバディ首相は州都ラマディについて「奪還は目前に迫っている」とする声明を発表。動員を控えてきたイスラム教シーア派民兵を前面に出す。
イラク軍は23日にラマディの東部まで部隊を進め、南東側から市中心部をうかがう。ロイター通信によると、シリアとの国境を制しているISはラマディの戦闘員を増員し、イラク軍を迎え撃つ態勢を整えている。
イラク政府がシーア派民兵を動員してこなかったのは、アンバル州で多数を占めるスンニ派住民との摩擦が懸念されたからだ。イランの支援を受ける民兵の影響が強まることに、サウジアラビアなどスンニ派国や米国も抵抗を示していた。
アバディ首相は昨年9月の政権発足後、民兵や部族組織を宗教色のない「国家警備隊」として統合し、対ISの主力に据える構想を持っていた。しかし、国会での宗派対立で実現しないまま。
腐敗が進み、装備や士気で劣るとされる政府軍がラマディを守れなかったため、民兵組織に主導権を譲る形になっている。【5月27日 朝日】
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スン二派住民との摩擦も懸念されるシーア派民兵を前面に出した展開ですが、シーア派民兵側は宗派色の強い作戦名も発表しており、スンニ派住民の反発を呼ぶ恐れも懸念されています。
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シーア派の歴史的指導者の名にちなんだ「フセインよ、我らはここに」との作戦名も公表した。
フセインはイスラム教の預言者ムハンマドの孫で、7世紀にスンニ派との戦いで殺害されたシーア派指導者。フセインが死亡した「殉教の日」は今も、シーア派が苦難をしのぶ重要な記念日となっている。【5月27日 毎日】
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【マリキ前首相が現政権を揺さぶるために、特殊部隊を意図的に事前撤退せさた?】
今回、再度ラマディ攻防の話を取り上げたのは、先ほど下記の記事を目にしたからです。
****イラク:特殊部隊が撤退か ISの攻撃直前に****
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が今月、制圧したイラク西部アンバル県の県都ラマディを巡って、イラク政府側の主力を担っていた軍特殊部隊がISの大規模な攻撃の直前に撤退していた疑惑が浮上している。
特殊部隊は、アバディ首相と一定の距離を置くマリキ前首相の影響力が強いとされる。復権を狙うマリキ氏が政権を動揺させるため、意図的に撤退させたとの見方も出ている。
「米軍の訓練を何年も受けてきた最精鋭部隊が、なぜラマディからあのように撤退したのか疑問だ」。ムトラク副首相は25日、米CNNに対して、ラマディ攻防戦で主力を担っていた軍特殊部隊の対応に疑問を投げかけた。
前日にはカーター米国防長官も「兵力で勝っていたのに戦意を欠いていた」とイラク軍を批判。イラク側の反発を受けて、バイデン米副大統領がイラク軍の「犠牲」を称賛し、関係修復を図る事態となった。
特殊部隊への疑問の声は、イラク軍内部からも出ている。ラマディ防衛を担当していた軍司令官の一人は、イラクのクルド系メディア「ルダウ」に対して「特殊部隊はISの攻撃の2日前に200台以上の車両に分乗して撤退した」と証言した。
司令官は特殊部隊が撤退の準備をしているのを察知し、アバディ首相にも通報したが、撤退は止まらなかったという。
司令官は「特殊部隊は首相や国防省の指揮下にないようだ。マリキ前首相に近い勢力が政府を揺さぶるために撤退させた可能性がある」と言及。マリキ氏が政敵であるアバディ首相の評判を落とすため、影響下にある特殊部隊に撤退を命じたとの見方を示した。
マリキ氏は昨年夏まで約8年間首相を務め、軍や治安機関の中枢を側近で固めた。中でも軍特殊部隊は「マリキ氏直轄」と評されるほど個人的な親衛隊の性格が強く、首相退任後も特殊部隊に対し一定の影響力を維持している模様だ。
マリキ氏は新政権で副大統領に処遇されたが、実権を持つ首相職への復帰を狙っているとの見方が根強い。
政府軍は昨年6月にも、ISの大規模な攻勢を前に北部の主要都市モスルなどを放棄して逃亡した。ISは、政府軍が置き去りにした米軍供与の軍用車や兵器をほぼ無傷で獲得し、今回のラマディ攻略にも使用したとみられている。
昨年9月に発足したアバディ政権は、軍幹部の更迭人事などで体制刷新を図ってきた。だが軍務につかずに給与だけ受け取る「幽霊兵士」が約5万人いることが政府の調査で発覚。首相自身が「軍の立て直しには3年はかかる」と語るなど再建は思うように進んでいない。【5月27日 毎日】
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どこまで信憑性がある記事かはわかりません。
もし、本当にマリキ前首相(現在も副大統領)の意向を受けて、アバディ政権を揺さぶるために主力部隊が意図的に撤退した・・・・ということであれば、国家に対する背信行為として処罰されてもいいような話になります。
イラクという国家よりも自らの権力に執着したかのようなネガティブなイメージもある、あのマリキ前首相だったら・・・と思わせるものもあります。
もちろん、マリキ前首相を陥れるために流された情報・・・という線もあり得ます。“藪の中”で、今後も明らかにされることはないでしょう。
ここから先は何の根拠もない個人的妄想ですが、ラマディ攻防からはずされたシーア派民兵組織も、自分たちが参加しない作戦で政府軍が敗退したことは、自分たちの存在感をアピールするうえで非常に好都合なことだったとも思われます。
そのシーア派民兵組織と、シーア派偏重を強く批判されたマリキ前首相は、おそらく利害を共にする部分も大きいのでは・・・。
イラクが戦う相手は、ISと言うよりは、シーア派とスンニ派の宗派間の対立、そうした宗派間の問題も絡んだ政権内部の権利争いにあるようです。
【5月27日 毎日】の信憑性がわかりませんので、あまりこの話をしても仕方がありませんが。